殿の一番風呂と母からの怒りの文
天正十一年(1583年)一月十日
近江国 長浜城
「六三郎殿!遂に!遂に!湯を汲み上げる機材が動き出しました!六三郎殿が職人達と共に作り出した水車と呼ばれる物と桶を組み合わせた物のおかげで、
大量の湯を安定して汲み上げる事に成功しました!これで北近江か更に発展して、皆が平和に暮らせます!」
「紀之介。まだ建物は完成していないのだから喜ぶのは早いぞ!だが、六三郎殿!紀之介も拙者も近江国で産まれ育ったので、近江国の発展は嬉しゅうございます!」
「六三郎殿!拙者は戦は未経験ですが、これ程の心踊る事、産まれて初めて体験しました!赤備えの皆の身体の鍛え方も聞いて、早速鍛えております!
妹の次が「これから嫁を取りたいなら身体を鍛えてくださいませ!銀次郎様の様に!」と言っておりましたからな」
皆さんおはようございます。簡易ポンプの完成で源泉を汲み上げる事に成功したら、大喜びの3人を見て安堵しております柴田六三郎です
去年の年末に知らされた浅尾夫婦の告白に、パニックを起こさない為、具体的に言うと現実逃避の為に水車の設計図を書いて、赤備えの皆に協力してもらって、
琵琶湖沿岸に水車を設置して、水力で回るのを確認して、三が日を過ぎたら職人さん達に木製歯車を作ってもらって、それを高い位置に伸ばして設置して、
それを繋いでいって、城下町の皆さんは勿論、郊外に住む百姓の皆さんも歩いて行ける距離の場所にお湯が行く様になりました。それを見ていた秀長さんは
「六三郎殿!誠に!誠に!どれ程の言葉を述べたら良いか分からぬ程、感謝してもしきれませぬ!誠に!」
涙を流しながら、俺の手を強く握っております。そして、こんな状況ですが、殿の子の源三郎様が居るので、当然、工事の進捗状況は殿に筒抜けでして、
「六三郎殿!そう言えば、父上が近い内に見に来ると言っておりましたぞ!。仮ではあるが一番風呂は儂が入るから、儂が入るまでは立入禁止にしろとも」
「ええっ!?湯船とかの類もまだ無いのですが?」
「六三郎殿!そこはご安心を!拙者が小一郎殿に相談したら、小一郎殿が筑前殿の使っている湯船を作った職人に湯船の製作を頼んでくれまして」
「小一郎殿!誠ですか?」
「はい。源三郎様に言われたのが年明け早々だったのですが、職人達に手間賃を多く払う事を条件に無理をしてもらいまして、何とか出来ました。と言っても、兄上が使っている物と同じ物なのですか」
「ま、まあ。それでも殿が気に入っていただけるなら。ただ、殿が来るとしたら、早くて三日後、遅くとも六日以内だと思います。なので、簡易的な風呂場を急いで作りましょう!」
「今から建物を作るとなると」
「小一郎殿!外を見ながら入る風呂で良いのです!」
「おお!それならば、身体を隠す天幕や衣類を置く棚や籠、それに身体を洗う手拭いと風呂から出た時に水を拭く手拭いだけで済みますな!」
「今から急いで湯が溢れても大丈夫な様に、土地を固めて、湯船を置く大きな板を見つけ設置して、湯を汲み上げる機材からの筒を繋げたら、大丈夫かと」
「急ぎ作業に取り掛かりましょう!」
徹夜で露天風呂作りが急遽決定したけど、もう、しょうがない!働いている方が気が楽だ!
天正十一年(1583年)一月十五日
近江国 長浜城近く
「源三郎!六三郎!小一郎!見事目的の物をあてたそうじゃな!一番風呂に入りに来たぞ!」
皆さんおはようございます。四日徹夜で働き続けて、少し目の前がチカチカしております柴田六三郎です
殿の無茶振り一番風呂の為に、急遽決定した露天風呂作りを何とかやり終えましたので、後は源三郎様に任せたい。と思っても、やっぱり俺が説明しないといけない様で
「六三郎と小一郎!風呂場らしき建物が無いが?また、何か変わった趣向でもやっておるのか?」
「はい。建物を作る前に少しばかり趣向を凝らした風呂を作りました。羽柴家の天幕で隠されている場所を天幕を外しますので、ご覧ください。小一郎殿」
「うむ。皆!天幕を外せ!」
秀長さんが声を上げると、一斉に天幕が左右から開いて琵琶湖を一望出来るロケーションになる。そこにデカい湯船かドーンと置いて、近くの竹筒からお湯が流れ続けている
「おおお!六三郎よ!淡海乃海を目の前に見ながらの風呂という事か!」
「はい。湯船周りも板敷にしており衣類を置く棚も設置しておりますので、湯船に入る前に身体を洗う事も、着替えも可能です」
「早く入りたいぞ!ちなみになんと名付けた?」
「露出を天幕で隠す風呂という事で、露天風呂と」
「露天風呂か!うむ!良い名じゃ!それでは早速、日の本で最初の露天風呂を堪能しようではないか!」
そう言うと殿は、護衛の半分を天幕の内側に連れて、半分は外側に置いて、天幕で隠れながら衣類を脱いで身体を洗って、お湯を浴びて、綺麗にしてから湯船に入りましたら
「ああ〜」
未来でもお馴染みな風呂に浸かると声が出る。を見せまして
「肩までしっかり湯に浸かる事がこれ程の極楽とは!しかも、目の前は絶景じゃ!何と心地よい!六三郎!小一郎!」
「「は、はい」」
「この露天風呂とやらは、建物を作った後も残してくれ!これは良き物!領民に入らせるなら、少しばかり高めの銭を取っても良い!日の本を統一したら、湯が湧き出る国全てで作らせようではないか!」
「大殿。素晴らしいお考えですな」
「日の本の民全てが、浴びる程の湯に浸かる事が出来たら誠に安寧の世という事になりますな」
「うむ!良き風呂であった!これ以上浸かっていたら、気持ちよくて寝てしまいそうじゃから、出るとしよう!小一郎、今日一日世話になるぞ!」
「ははっ」
「そして六三郎!」
「はい」
「済まぬ」
ちょっと殿?謝るなんてどうしたのですか?凄まじく嫌な予感がするのですが?
「あの、殿?」
「六三郎。市にお主が此処に居る事が知られた。儂からも宥める文を送っているが、とりあえず市からの文じゃ。読んでみよ」
「は、はい」
殿から受け取って開いたお袋の文には
「六三郎へ!何故長浜城に居るのですか?説明の為に一日も早く越前国に帰って来なさい!!」
うん。怒りがマックスなのが伝わる短文ですね。もうしょうがない、殿が帰ってから浅尾家の皆さんも越前国に連れて行こう!でも、今はとりあえず眠らせてください。