俺の胃が限界レベルの訳あり
浅尾夫婦の家に行くと、10歳前後の男の子と3歳くらいの女の子が居た。男の子は俺に気づくと
「父上と母上の客人ですか?拙者、浅尾虎夜叉丸と申します。今年十歳になります。こちらは妹の伊吹です。伊吹、客人に挨拶をしなさい」
「浅尾伊吹です」
「これはこれはご丁寧に。拙者、柴田六三郎と申します」
俺の挨拶に虎夜叉丸くんが
「も、もしや。「柴田の鬼若子」と呼ばれております柴田六三郎様ご本人なのですか?」
「まあ、一部ではそう呼ばれておるらしいな」
「拙者の様な元服前の者でも知っている程の有名な若武者なのです!一部などでは止まりませぬ程。その名は知られております!」
「それ程か。儂はあまり目立ちたくはないのだがな」
「何と謙虚な。拙者もいつかは六三郎様の様に、手勢が少なくとも鬼神の如き軍略と、赤備えの皆様の様な一騎当千の兵を従えて戦に臨みたいと思っております」
「そうか。源太郎、外から見た赤備えは一騎当千らしいぞ」
「嬉しい言葉ですが、やはり拙者、いえ、赤備え全員、若様の事が知られている事のほうが嬉しいですな」
源太郎の言葉に虎夜叉丸くんはテンションが上がって
「今のお言葉、もしや護衛の方は赤備えの大将を務める飯富様ですか?」
「ああ、そうじゃ」
「お会いしたかったお方達が目の前に!父上!!母上!!」
「虎夜叉丸よ、落ち着け。今日は柴田様とお話をする為に来ていただいたのじゃ」
「何をお話するのですか?拙者も共に」
「ならぬ!虎夜叉丸よ、元服した大人同士の話し合いに子供は入ってはならぬ」
「し、しかし」
こりゃ話進まねえな。しょうがない
「虎夜叉丸殿。父君と母君と拙者が話している間、伊吹殿と共に拙者の家臣の赤備え達から色々話を聞いたり、身体を動かしたりしていてくれぬか?」
「赤備えの皆様とお話出来るのですか?それならば!」
「済まぬな。皆!これまでの話をしたり、身体を動かしていてくれ。この場は源太郎と源次郎だけで良い」
「「ははっ」」
何とか2人を外に移動させまして
「さて、勘十郎殿、雪乃殿。話が出来る様になったぞ。どの様な話じゃ?聞かせてくれ」
「はい。その前に柴田様、倅の虎夜叉丸を見て、何か思いませぬか?赤備えのお二人も何か思いませぬか?」
何だ?なぞなぞ的な事か?ダメだ。全く思い浮かばない
「源太郎と源次郎!儂は何も出ぬ!お主達は何かあったか?」
「若様、申し訳ありませぬ。拙者も何も出て来ませぬ」
「そうか。源次郎は?」
「失礼にあたるのですが、勘十郎殿、言っても宜しいでしょうか?」
「言ってくだされ。恐らくあたっているでしょうから」
「では。虎夜叉丸殿と勘十郎殿の顔が全く似ていないと思うのですが」
「源次郎!誠に失礼ではないか!勘十郎殿!雪乃殿!弟が申し訳ない」
俺が注意する前に源太郎が注意したけど、勘十郎さんは
「源太郎殿でしたな。構いませぬ。そちらの源次郎殿が言っている事はあたっているのですから。源次郎殿の言うとおり、拙者は虎夜叉丸の実の父ではないのです。あ、伊吹は拙者と雪乃の娘ですから」
おや?訳ありな家族という事か?聞かないとダメだろうな
「勘十郎殿。もしや、虎夜叉丸殿の実の父親と、拙者の母上が関係あるから話を?」
「はい。虎夜叉丸の実の父親の話をする前に、此方を見ていただきたく」
そう言って勘十郎さんは、ある文を見せた。文の内容は、武田の名将、山県昌景の遺書もかすむ内容だった
「勘十郎殿。2人に聞かせても宜しいのですか?」
「柴田様が信頼しておりますなら聞かせて構いませぬ」
「源太郎、源次郎。今から読む内容は他言無用じゃ。儂から母上に話す。今のところ、父上には絶対に言えぬ」
「「勿論です!」」
「では。「この文を持っている浅尾勘十郎という名の武士と雪乃という名の娘を保護していただいた方へ
この文を書いた拙者の名は浅井備前守長政と申します。この文が読まれている頃、拙者は間違いなく死んでおります。
浅井家の当主でありながら、時勢を読む事が出来ず、義兄が当主で婚姻で同盟関係を結んでいた織田家よりも、旧来の関係であった朝倉家を優先した結果、
織田家に戦を挑むも敗れた愚将にございます。正室の市や娘達は小谷城から逃す事は出来ましたが側室が産んだ嫡男の満福丸は見つかってしまったら殺される可能性が高いでしょう
しかし、文の中に書いてある雪乃は拙者のやや子を授かった状態で浅尾勘十郎と夫婦のふりをして城から落ち延びております
腹の子が男児か女児かを見る事は叶いませぬが、健やかに育っている事、そして戦無き世で生きている事を願っております。なので、我が子と二人の事を守っていただく事をお願いいたす」と、
これが勘十郎殿と雪乃殿が伝えたかったという内容ですか」
「はい。柴田様のお話は勿論、お父上のお話を聞いて無碍に扱うお人ではないと確信しておりました。ですが、柴田様のお顔が分からなかったので、
羽柴筑前に見つからない様に一度丹波国に逃げて、筑前が丹波国へ進軍したと聞いたので、戻って来たのです。
柴田様!何卒、我々を保護していただけないでしょうか?全員が無理ならば、せめて拙者以外の三人の保護をお願いしたく!」
「勘十郎殿。羽柴様は山陰方面軍として進軍中です。丹後国を征圧したら、次は但馬国へ進軍するでしょう。その頃を目処に越前国へ行けるだけ行ってみましょう。ですが、過度な期待はしないでくだされ」
「それは勿論。ですが、拙者の命をかけてでも、備前守様の忘れ形見で浅井家唯一の男児になった虎夜叉丸と雪乃と伊吹だけは」
「勘十郎殿。最善を尽くすとだけ伝えておきます」
「ははっ!」
「それでは」
俺達が話を終えて、外に出ると
「銀次郎様!こうですか?」
「そうじゃ!槍は上から叩く事が威力を一番出せるぞ!前線で戦いたいのならば、槍を早く強く扱う事が出来る様になるのじゃ!」
銀次郎が虎夜叉丸に槍を教えていた。伊吹ちゃんには新左衛門が高い高いをやって笑わせていた
俺達に気づくと二人共走って来て、
「「今日は来ていただきありがとうございました!また来てくださいませ!!」」
と挨拶してきた
「うむ。また来る時は銀次郎達と身体を動かせば良い」
「「はい」」
「では、またな」
別れの挨拶をして帰路に着いたけど、やべえ!とてつもなく胃が痛いんだけど、お袋と親父が離婚レベルの夫婦喧嘩をするかもしれないけど、やるしかないか!




