物は見つからずも信頼はされる
「六三郎殿。此方です」
紀之介殿に案内されて来た村は、よく見る至って普通の農村です。琵琶湖から少し距離があるけど、治水をしっかりやっているからなんだろうけど、状態が悪い田畑が無い。これはとても良い事なんだけど、
逆に言えば、生産量増加はほとんど見込めない程安定しているとも言えるんだよな。つまり、伊勢国の時みたいに新しい何かを見つける事になるのか
未来だと近江牛とかが特産品になるけど、今の時代は牛も労働力の1つだからなあ、牛乳は貰えても、牛そのものは貰えないし、う〜ん。こんな時は皆に聞いてみるか
「源次郎!伊勢国以外ではお主は儂の護衛として色々な国を見て来たが、近江国を見た感想はどんな感じじゃ?」
「正直に申すなら、当初の三河国よりも豊かで、徳川様の遠江国、若様の産まれた尾張国の次くらいに豊かな土地かと」
「成程、儂と大体同じ考えじゃな。やはり水が豊富に有り、治水工事がしっかり行なわれている土地は、農作物の生産量が安定しておる。紀之介殿」
「何でしょうか?」
「これ程の実り良い土地なら、生産量増加を目指すよりも、育てている百姓が少ない作物を見つけ、選別した方が良いと思います。この村や周辺の村で米等のついでに育てている物が有るかを知りたいのですが」
「村人達に聞いてみましょう」
紀之介殿が聞いてみるとの事なので、俺達も後ろをついていきますが、やっぱり通常の農作物ばかり!
まあ、実り良い土地だから、安定した値段で売れる物を多く作るのは当然だけど、ここまで全く細々と育てている物すら無い状況だとは、思っていませんでした
その結果、
「六三郎殿!申し訳ない!どうやら、この村や周辺では通常の農作物以外は育ててない様です!」
そう言われたので、今日は長浜城へ帰ります。
天正十年(1582年)四月二十一日
近江国 長浜城
「六三郎殿。やはり見つからないのであれば、生産量を増やす事を考えた方が良いのでは?」
皆さんおはようございます。近江国の特産品になりそうな物を探して20日目、今だに何も見つかっておりません柴田六三郎です
いやあ、近江国の北部「だけ」という縛りは、予想以上に特産品になりそうな物が見つかりません!
近江国の北部だけでも、はっきり言って生活に苦しんでいる領民が見当たらないから、他の作物作りに挑戦してる人が居るかと思いきや、
戦場に数多くなった経験から他の物を作ったら奪われると思っている様で、本当に生活に必須な農作物しか作ってないので、八方塞がりになりました
現状、農作物の生産量を増やす為の堆肥作りを教えながら、何かを見つけたいところです
「そうですな。小一郎殿の言うとおり拙者が美濃国や三河国でやった滋養豊富な土作りを広めながら、何かを見つけたいと思います」
「六三郎殿。我々が無理を頼んだばかりに申し訳ない。一度、気分転換に淡海乃海でも見て来ては?紀之介、案内せよ」
「ははっ!それでは六三郎殿、外へ」
こうして俺は気分転換に琵琶湖に行く事になった
六三郎が城の外へ出て行くと、秀長の元に家臣達が来て
「小一郎様。柴田殿は誠に何か良い物や、その元になる物を見つける事は出来るのでしょうか?正直言って」
六三郎を不安視する言葉を伝えた。しかし秀長は
「これ!六三郎殿が居なかったら、兄上の子は産まれて来ずに、誰も近寄れぬ状態だったのだぞ!
良いか!六三郎殿は兄上に子を抱かせてくれただけでなく、正室である義姉上との子を抱かせてくれたのじゃ!それだけでも羽柴家にとって六三郎殿は、
どれ程の感謝を述べても足りぬお人じゃ!それに、六三郎殿は三河国では、全域を見たから銭の種になる物を見つけられたのじゃが、
今回は近江国の北部だけなのじゃ!見られる範囲も狭い!そんな中で色々やってくれているのじゃぞ!
六三郎殿を不安に思うならば、手伝うくらいやって来んか!」
「は、はい!申し訳ありませぬ!」
家臣を一喝して、その場から下がらせた。その様子を見ていた三成は
「小一郎様。六三郎殿をそれ程信頼しておられるのですね」
「佐吉。儂はな、六三郎殿が六歳の頃に出会ったのじゃ、市兵衛や虎之助も同じくな。その頃から六三郎殿は「己の事よりも他者の事」を優先して働いておる
それこそ、仕えて間もない二人の為に飯を食わせてくれる事もあった。更に言うなら、儂の子を兄上に露見しない様に大殿や勘九郎様に保護してもらうなど、
普通なら火の粉が自分にかかるから断る様な事もやる若武者じゃ。だからこそ儂は六三郎殿ならば、きっとやってくれると信頼しておる」
「小一郎様の仰っている事、拙者も少しばかり分かる気がします」
「六三郎殿の魅力は数日共に過ごしたら分かるからな。佐吉も分かったのならば、良い武士になるじゃろうな」
「そうなる様、精進します」
「うむ。とりあえず六三郎殿が何か見つけられる様に祈りながら内政をやっていこう。時折、手伝う事も忘れずにな」
「ははっ!」
秀長と三成は六三郎の社畜精神を魅力と捉えた様だった




