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殿への報告と嘆願

天正十年(1582年)一月二十六日

近江国 長浜城


「殿!羽柴殿と柴田六三郎殿からの文です」


「ほう。二人分とは珍しい。どちらも手に負えない事でも起きたのか?どれ、先ずは猿の文から見てみるとしよう」


信長は家臣から秀吉の文を受け取り、読みだす


「殿へ。急に文を送り申し訳ありませぬ。ですが、殿にしかお頼み出来ない事なのです。


改めてですが、佐吉、虎之助、市兵衛、孫六、紀之介の五人、そして紀之介の母のひなと、小一郎の子達に


長浜城へ戻って欲しい旨の文を送りたいのですが、殿しか居場所を知らないので、拙者からは送れませぬ。あの頃の様な振舞いは二度としない事を、


皆の前で伝えたいと同時に、小一郎に子達を育てさせてやりたいのです。あの後小一郎に聞きましたら、


子達の母は、産後の肥立が悪く出産から四ヶ月後に亡くなったと言っておりました。その子達の親は小一郎しか居ないので、親子共に暮らして欲しいのです。何卒、お願いいたします」


「猿の奴、自らに子が出来たら見事に変わった、いや、元に戻ったと言えばよいか。だが、大和国東部の復興を開始してまもなく一年、


五人くらい減らしても問題無いであろうな。よし、勘九郎に文を送っておこう。お蘭!儂が今口にしていた事を文にまとめておけ」


「ははっ」


「さて、次は六三郎からの文か。猿の子が産まれたのだから六三郎が苦労する事は、次の事じゃろうな。どの様な内容なのやら」


信長はそう言いながら、六三郎からの文を読みだす


「殿へ。お伝えしておきたい事と、お頼みしたい事がありますので文を書きました。先ず、お伝えしておきたい事ですが、殿の娘の次姫様の事です


先日お会いした時に、拙者に興味があるから越前国の家族に会う旨を話しておりましたが、拙者の家臣で赤備えの一人、土屋銀次郎勝次の嫁になる!


と言っております。拙者としてはそれでも構いませぬが、殿に伝えてからでないと良くないと思い、伝えた次第にございます


そして、お頼みしたい事として越前国に居ります、拙者の家臣で孫六殿の両親の三之丞とかえでに孫六殿に会える旨を伝えたいのですが、


拙者の名で送れば母上が中を読み、事細かに説明を求める可能性も有るので、殿の名で利兵衛宛に上記の件を伝える旨をお頼みしたいと思い、


文を書きました。申し訳ありませぬが、何卒お願いします」


六三郎からの文を読んだ信長は


「はっはっは!やはり次の事が書いてあったか!しかし、まあ、猿の養子として男装した状態で隠れながら暮らしておったからこそ、此度の様に自由に暮らせる反動なのじゃろう!


それは良い事であり、件の土屋銀次郎とやらは七年前の武田との戦で、武田の砦に一番乗りした者であったな!武士としての腕や武功は申し分無しじゃな!これには儂も反対はせん!


だが、家格がのう。まさか、六三郎が二郎三郎の娘を嫁にしてくれと頼まれた時と同じ様な事が起きるとは!だが、此度は儂の娘なのだから、儂が押し通せば良い!


だが、やはり家臣の誰かの養女にして、形だけでも家臣の娘とした方が良いか。くっくっく、六三郎も権六と同じじゃな!戦以外では苦労する星の下に産まれたとしか思えぬ


しかしじゃ!次の嫁入り先が決まったのならば、誰かの養女にして、話を進めても良いであろうな」


信長がそう決断しようとした所、帰蝶が待ったをかけた


「殿。私からよろしいですか?」


「何じゃ帰蝶?」


「次の件です。言ってはなんですが、次は、今全てが新しく見えているから、六三郎殿の家臣の嫁になると言っているだけかもしれませぬ。


それでは、数年後か数ヶ月後、早くて数日後には、「別の人の嫁になる」と言っている可能性も無きにしも非ずかと。なので、せめて半年くらいは様子を見てみませぬか?


半年経っても、その家臣の嫁になる気持ちのままならば、その思いは本気であると判断してからでも遅くはないかと」


「ううむ。儂としては次に早く嫁入りしてもらいたいが、確かに帰蝶の意見も一理有る。そうじゃな、よし!猿と六三郎にその旨を書いて送るとと同時に、


六三郎の家臣の利兵衛にも孫六の両親を長浜城へ行かせる様に儂の命令の文を送る!お蘭!大変ではあるが、


それぞれの文を書いておけ!この問題が解決したら、畿内の抵抗勢力もほぼ居ないな。三介の阿呆が仕掛けた戦で、織田家に恐れ慄いたのか


大和国の主な勢力は臣従の申し出をして来た!阿呆と言えど、少なからず働いたと言ってもおかしくない!


それに免じて三介は切腹を免れたとも言えるな。日の本を統一したら、三介には気楽な場所を領地としてくれてやるか」


今後の方針が決まった信長は、悪い顔で笑っていた。


天正十年(1582年)二月十日

大和国 某所


「勘九郎様!殿からの文でございます」


復興作業を進めている信忠に、信長からの文が届く。内容は勿論、長浜城へ5人を行かせる事と、寧々が出産し、その子が男児であった事である


内容を読んだ信忠は作業終了後、5人に


「五人に長浜城へ来て欲しいと、筑前が父上を通じて文を送って来た。そしてじゃ、筑前の正室殿が出産し、その子供は男児だったそうじゃ」


「「「「「誠でございますか!」」」」」


5人とも、同じ言葉で、同じリアクションで驚きながら、涙を流して喜んでいた。そんな5人に信忠は


「明日の朝になったら、儂と共に一度岐阜城へ向かい、小一郎の子達を回収した後、父上の安土城へ行くと良い。改めて、これまでよく働いてくれた!誠に感謝する!」


「「「「「勿体なきお言葉にございます」」」」」


5人は感謝の言葉を伝えると共に、上機嫌で部屋に戻り、明日の為に一早く寝床に入った。

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