主君の喜びと更なる吉報
天正九年(1581年)七月一日
近江国 安土城
「殿!羽柴殿からの文でございます」
「ほう。また何か起きたのか?だとしたら原因は六三郎だと思うが、どれ「殿へ。布団の代金を拙者の代わりに支払っていただいたのにも関わらず、御礼の文が遅くなり、申し訳ありませぬ
その理由として、布団が届けられた日に寧々が倒れてしまったのです!念の為、医者に見てもらうと、嬉しい事にやや子を授かっておりました
寧々も拙者と同じく六三郎殿に身体を鍛えられながら、食事に気をつけておりましたら、見事、子が出来たのです。ですが、六三郎殿も医者も、寧々の三十六歳という年齢は、歳若い女子の何倍も気をつけないといけないと
言っております。六三郎殿曰く自分は医者ではないので、ここから先の寧々は医者に見てもらいながら、出産まで過ごした方が良いとの事です
改めてですが、殿。文が届く文月の頭頃に寧々は三ヶ月になります。寧々の年齢の事を考えて、出産の手助けが出来る者達を長浜城へ派遣していただきたく
御礼の文も遅くなったのにも関わらず、不躾な内容で申し訳ありませぬ!お叱りは如何程でもお受けします
ですが、我が子を抱ける可能性が大きくなって来たこの好機を逃したくありませぬ。何卒、お願いします」
なるほど。寧々がやや子を授かって家中が慌しい状態だったから、文が遅れたと」
「殿。お顔が嬉しそうですよ」
「帰蝶よ。嬉しくもなるに決まっておる。猿の奴は、儂が元服する前から仕えておる、言わば古参の家臣じゃ。本来なら既に元服している嫡男が居てもおかしくない歳じゃが、儂の為に働いてくれた結果、
子が作れない年月を過ごして来たのじゃが、六三郎を派遣したら三ヶ月目で懐妊した。無論、寧々の年齢を考えると市の時以上に油断出来ぬ!だからこそ、万全を期す為に、
そして、猿の働きに感謝の意を示す意味も込めて、産婆達を派遣しよう!お蘭!今、儂が帰蝶と話していた内容を文にまとめておけ!」
「ははっ!」
信長は文が遅れた事を怒るどころか、内容に喜び、産婆達を派遣する事を即決した
天正九年(1581年)七月十日
近江国 長浜城
「羽柴様。織田様からの命により、今日から奥方様の出産までの手助けに参りました」
「殿から文で承っておる!皆様方も知っていると思うが、寧々は年齢が高い上に初産なのじゃ。よろしく頼む」
「最善を尽くします」
皆さんおはようございます。長浜城に寧々さんの出産までの生活をサポートする産婆さんを含めた面々が20人も居て驚いております柴田六三郎です
お袋が文を産む時ですら、10人も居なかったので、殿が寧々さんに無事に産んで欲しいと願っている事が分かる面々です
そんな寧々さんですが、妊娠3ヶ月に入りました。妊娠初期の不安定な状態を一応、乗り越えた事にはなりますが、寧々さんの年齢的にもそうだけど、
ガタイ的にも不安なんですよ。お袋の場合、織田家の血筋なんでしょうが、推定165センチくらいの高身長なのです、一方の寧々さんは秀吉と大差ない推定150センチ前半なんです
平成や令和でも、低身長の女性の出産は大変だと聞きます。それこそ状況次第では10時間越えも当たり前らしく、20時間もかかった人も居るらしいので、寧々さんが出産した後の子育ても考えると、
お袋と同じくらいの体力をつけてもらわないと、無事に出産しても、その後に寧々さんが。なんて事もありえるわけですから
そんな事になったら、史実で秀長さんが亡くなった後の暴君な秀吉になる可能性が高い。そうなったら俺も巻き込まれてしまうからな
とにかく今は、寧々さんが無事に出産して尚且つ、寧々さんも無事である様に、俺もサポートしていこう
と、思っていたら、神様は俺に人の2倍働けと言っているんだな!と思う事が起きました。産婆さん達が寧々さんを見に行った後、大広間で南三さんから
「殿。よろしいでしょうか?」
「おお、南三。如何した?」
「もしかしたらなのですが、私もやや子を授かったかもしれませぬ」
「ま、誠か!?」
「あくまでもしかしたら。なので、医者に見てもらいたいのですが」
「分かった!直ぐに医者を連れてくる。小一郎!医者を連れて来てくれ!」
「ははっ!」
南三さんからの妊娠したかも報告が出まして、医者を慌てて連れて来させて、見てもらったら
「ご懐妊です。二ヶ月と少しといったところですな」
と医者が言うと、
「南三様!おめでとうございます!」
「殿のお子が一気に二人も」
「吉報が立て続けに来るとは」
寧々さんの時より落ち着いているけど、やっぱり家臣の皆さん、嬉し泣きしております
勿論、秀吉も嬉し泣きしておりまして、その状態で俺の前に来て
「六三郎殿!六三郎殿が、儂の身体を鍛えて、飯も気をつけた物を作ってくれたおかげで、寧々に続いて、南三も子を授かった。誠に、誠にどれ程、感謝をしても足りぬ!本当に!本当に」
そこから先は言葉が出ない様だった。でも、一応聞いておくか
「羽柴様。おめでとうございます。念の為お聞きしますが、寧々様のご懐妊以降、子作りをした側室の方は、南三様以外だと何人か覚えておりますか?」
「五人じゃが。それが、何かあるのか?」
「いえ。予想になりますが、側室の方は多くて5人、少なくて2人は子を授かる可能性が有ります。羽柴様、
それぞれの側室の方と子作りをした人から2ヶ月目くらいに、此度の南三様と同じくやや子を授かったかもしれないと報告が来るかもしれませぬので、覚えておいた方がよろしいかと」
「うむ。確かに!寧々の場合は年齢で倒れてしまったが、南三達側室は若いといえど、油断は禁物じゃな
うむ。まだまだ先とはいえ、希望が見えて来た。誠に嬉しくて涙も出る。それも大泣きじゃ」
「羽柴様。今の時点で大泣きしておりましたら、産まれてくる子の1人が姫君だった場合、嫁入りで更に大泣きしてしまいますぞ?」
「うう。まだまだ先の話なのじゃから、その様な事は言わないでくれ。思い浮かべるだけで」
秀吉のこの状況に家臣の皆さんは
「殿。早すぎますぞ」
「そうですぞ。殿がその様な状態だと、逆に寧々様や南三様達が不安になりますぞ」
「わ、分かっておる。分かっておるのじゃが」
秀吉を軽くイジっていた。それでも秀吉は、
「寧々に続き、南三もやや子を授かった。皆には更なる協力を求めるが、よろしく頼む!」
「「「ははっ!」」」
ビシッとまとめるあたり、流石です。でも、南三さんって名前に南が入ってるって事は、もしかして史実で石松丸を産んだとされる南殿か?




