歓喜と不安の長浜城
寧々さんが倒れた事で、一瞬パニックになりながらも直ぐに落ち着いた秀吉は秀長さんに医者を呼ばせた
その時、寧々さんを寝かせる布団が側にあったのは、幸運だった。そして秀長さんが連れて来た医者の診察結果は
「ご懐妊です」
寧々さんの妊娠だった。医者の言葉を聞いた秀吉達は一瞬静かになったが、
「「「「うおおお!」」」」
と歓声が広がり
「万歳!万歳!万歳!」
で両手を挙げて喜ぶ家臣や
「お袋様が!お袋様がああ!」
と、大泣きして喜んでる家臣も居たり、更には
「寧々様!おめでとうございます!」
と、南三さんも大泣きする状況になっております
で、そんな状況で1番嬉しい秀吉は
「寧々!寧々!身体は大丈夫か?無理をしてはならぬ!遂に、遂に!うううう」
と、言葉にならない喜びと言った状態です。で、こんな状況ですから、秀長さんも泣いています
そんな中で秀吉と寧々さんが俺に
「六三郎殿!誠に!誠に!寧々が!寧々が!儂の子を」
「六三郎殿。この体勢で申し訳ありませぬが、殿の子を授かる事が出来ました。本当にありがとうございます」
と、涙ながらに言ってくれたけど、正直ここからが本番、やっとスタートラインに立ったと思う。医者も居るから、お袋の世話をしていた経験と、前世の嫁にしてた経験と知識を伝えておこう
「羽柴様。寧々様。おめでとうございます。喜ばしい空気にこの様な事を言ってはいけないと思いますが、
出産まで拙者の母上がやっていた事をお伝えしてもよろしいでしょうか?」
「うむ。伝えてくれ!それが、寧々と子を守る事になるのじゃから」
「六三郎殿。お願いします」
「はい。先ず食べ物で、塩辛い物、脂を多く使っている物、そして生ものを食べてはいけませぬ。母上は、そういった物を食べずに、しっかり火を通した物を食べておりました」
「うむ。他には、どの様な事を」
「腹に衝撃が来ない様に、拙者も家臣達も気をつけておりました。それから化粧もやらなかったですな」
「それは何故じゃ?」
「化粧に使われる白粉の中の水銀と呼ばれる物が、女子の皮膚を通じて体内に入るのです。つまり、やや子が1番傷ついて、
最悪の結果を迎えてしまう事も有り得るので、母上は化粧を基本的にやらなくなりました」
「寧々!これからは化粧などせずに、そのままで居てよい!寧々と子に何かあったら、儂は」
「殿。私は、腹の子を産むまで、一切化粧をしません。六三郎殿、他には?」
「後は、身体を冷やさない様に気をつけておりました。風呂に入って、出たら直ぐに侍女達が髪も身体も数人がかりで拭く徹底ぶりでした」
「今日からやらせよう!侍女達にも厳命せねば!六三郎殿、他に、どの様な事をお市様は気をつけていたのじゃ?」
「これは、医者にお聞きしたいのですが、今まで見て来た方で年齢が1番上の女子は何歳でしたか?」
「儂が見て来た女子で、一番歳上は二十七歳でした。失礼ですが、羽柴様。奥方様は、何歳ですか?」
「今年で三十六じゃ。だが、産めぬわけではないのであろう?そうじゃな?そうだと言ってくれ!!せっかく授かった、寧々との子なの、じゃ」
秀吉は涙を流しながら、医者を掴む。医者は冷静に
「羽柴様。先程、あちらの六三郎殿でしたか?あの方が言っていた事に気をつけながら、奥方様の体力をつけておけば大丈夫だと思います。
それでも、年齢が高いので、歳若い女子の倍以上、気をつけて下さいませ」
と伝えた。その医者に俺は
「医者殿。ちなみに寧々様は、何ヶ月になりますか?」
妊娠期間を聞いてみた
「二ヶ月ですな。このまま順調に育てば再来月から安定期に入るでしょう。ですが、先程も言いましたが、
奥方様の年齢を考えると、安定期に入っても尚、一層気をつけて下さいませ」
医者はそう言って帰って行った。残された面々に秀吉は
「皆!遂に!遂に!寧々が子を授かった!だが、皆も聞いたとおり、寧々の年齢的に不安がつきまとう!
一番不安なのは寧々じゃ!寧々の不安を取り除く為に、皆も協力してくれ!」
「「「ははっ!」」」
家臣達の返事を聞いた秀吉は俺に姿勢を正して、
「六三郎殿。誠にありがとう!お市様や、親父殿はこの様な時に何をしておったか、他に覚えておらぬか?」
「確か、母上は飲み物も冷たいものは腹の子に良くないからと白湯か一度沸騰させて、飲みやすい熱さにした水を飲んでました
そして父上は、神棚のある部屋で毎日安産祈願をしておりました。越前国へ領地替えになっても、新しい屋敷でも神棚のある部屋を作っておりました」
「小一郎!聞いたな!急ぎ、空いている部屋に神棚を祀るぞ!産まれるまでは、毎日安産祈願じゃ!」
「ははっ!」
「羽柴様。これから寧々様は、腹の中でお子が無事に育つ為の戦が始まります。医者も言っておりましたが、
寧々様の年齢を考えると、出産まで一日たりとも油断ならない日々が続きますので、寧々様をお支えする羽柴様も体調には気をつけてくださいませ」
「うう。何と心に響く言葉じゃ。分かったぞ六三郎殿!寧々を側で支える儂も気をつけよう」
「はい。後は、母上が妹を産む時、殿から産婆を始めとする出産を助ける面々を美濃国の領地に派遣してくださいましたので、羽柴様も殿にお頼みしてはどうでしょうか?」
「うむ!殿に世話になってばかりじゃが、これも寧々と子の為じゃ!戦で働いて殿にお返しするつもりで、出産を助ける面々を派遣していただこう」
こうして、三十三歳のお袋を越えた、三十六歳の寧々さんの妊娠期間がスタートした。
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