子作りに必要な物を買わせる
天正九年(1581年)五月十日
近江国 長浜城
皆さんおはようございます。朝から秀吉に大広間に呼び出されて行ったら、秀吉と秀長さんと寧々さんと側室と思しき女性しか居なくて、驚いております柴田六三郎です
「いやあ!六三郎殿!毎日身体を鍛えて、食事に気をつけていたら、あの湯船と、身綺麗にする白い水のおかげで、子作りを七日に一日に控えておるが、
その一日で七回もいたしてしもうた!誠に、六三郎殿には感謝しかない」
「そのお言葉だけでも、有り難いです」
俺と秀吉がそんな会話をしていると、側室と思しき女性が
「殿。私からよろしいですか?」
「おお。南三、何かあれば言ってみよ。六三郎殿、この女子は儂の側室の南三じゃ。少し、話を聞いてくれ」
「は、はあ。では、南三様」
「では、殿、そして六三郎殿。風呂場での子作りは、足を滑らせてしまいそうで、安全な場所で子作りをしたいのです。寧々様はそう思いませぬか?」
「確かに、それは私も同じ思いです。やや子を授かった時に、滑って尻や腰をぶつけたら、やや子が流れてしまいます。殿、六三郎殿。安全に子作りに励む為にも、何か手はありませんか?」
南三さんと寧々さんが「風呂場でヤるのは危ないから、安全にヤレる場所を。とリクエストしております。
それなら、寝る場所に三河国の特産品の布団を置いたら良いしゃないか!それに、寧々さんや南三さんは勿論、他の側室の身体を冷やさない為にも、布団は必須だな。秀吉にまた、金を使ってもらおう
「羽柴様!寧々様、南三様、その不安を解消出来る物がございます」
「誠か?ど、どの様な物じゃ?」
「はい。三河国の木綿を大量に使った「布団」という品物なのですが、眠る時に下に敷く物と、上に被る物を一組で売っております」
「おお!それは、正しく安全な子作りにも使えるではないか!して、六三郎殿!その布団は、京や堺に行けば手に入るのか?」
「手に入るとは思いますが、三河国の木綿の生産量次第なので、羽柴様が欲しい数が有るかは分かりませぬ」
「布団とやらを多めに手に入れたいが、何か手はないか?」
「ならば、殿に仲介を頼んでみては如何でしょうか?」
「殿に?何故じゃ?」
「羽柴様、思い出してくだされ。三河国を治めているのは徳川様の嫡男の松平三郎様で、その三郎様の御正室は、殿の娘の徳姫様です。言わば親族にあたりますので、少しばかりの頼みは聞いてもらえるかと、
その分、多めに銭はかかるかもしれませぬが、確実に手に入れる為ならば、それらの出費は覚悟しても良いかと」
「ううむ。殿には出陣を遅らせても良いとお許しをいただいたのに、更に御迷惑をかけてしまうのは。
いや、我が子を抱く為じゃ!儂が殿から叱責を受ける事、銭を多く使う事はその為の準備と思えば、大した事ではない!殿に文を書く!小一郎!準備してくれ!」
「ははっ」
秀吉に促された秀長さんが大広間を一旦、退出した。その後、秀吉は
「六三郎殿。良い事を教えてくれた!しかし、六三郎殿は何故、三河国の特産品など知っておるのじゃ?」
「実は、三河国でおよそ1年半働いていたのです。殿の命令で」
「殿の命令とは一体」
「その事を話す為に、まずは羽柴様。九年前に武田の軍勢と織田家と徳川家の連合軍が戦った戦はご存知ですか?」
「確か、徳川様の領地の遠江国での戦であった事は知っておるが、その戦で三河国が甚大な被害を受けたから、働いておったのか?」
「いえ。その戦では三河国は甚大な被害を受けたわけではないのですが、戦で敗れた徳川様が、殿と相談した上で、嫡男の三郎様と三郎様の御正室の徳姫様、
更に徳川様の御正室の築山様をはじめとした200名を、当時柴田家が治めていた美濃国の領地に避難させた時、三郎様と徳姫様と築山様が、拙者に銭のかかる要望を出した事があったのです」
「どの様な要望じゃ?」
「三郎様は家臣の嫁取りを、徳姫様は侍女の婿取りを拙者の仲立ちで大々的に催し物として開いてくれぬか?との要望でした。集団見合いとでも思っていただけたら」
「ほう。それは、儂の家臣達にもやらせたいのう。しかし、そこから三河国で働く事にどう繋がるのじゃ?」
「実は、その集団見合いにかかった銭は柴田家が負担したのです。その事で三郎様は徳川様に、徳姫様は殿に、それぞれ銭の無心をしたのです」
「な、何じゃ!その恥知らずな行動は!殿の姫君と、徳川様の嫡男とはいえ、あまりにも」
「羽柴様。今の羽柴様と同じ思いを殿と徳川様もお持ちになったので、お叱りの使者がかかった銭の半分ずつを持って、柴田家に来てくださったのですが、
羽柴様。それぞれの家から来た使者は、どなただと思われますか?」
「むう。中々、難しい。徳姫様に強く言える人は、分かったぞ。殿は動かぬから勘九郎様じゃな?」
「その通りでございます。勘九郎様が織田家からの使者として、三郎様と徳姫様を叱責しておりました。では、徳川家からの使者はどなただと思われますか?」
「済まぬ!徳川家の使者はまったく分からぬ!三郎様に叱責出来る人は、徳川様以外思い浮かばぬ。
それに、三郎様の母君の築山様も居るのだから、その場で三郎様に叱責出来る人は居ないと思うのだが、徳川家の使者は誰なのじゃ?」
「徳川家の使者は、徳川様の御母堂の於大様です。つまり、三郎様の祖母であり、築山様の姑である人が使者として来たのです」
「それは、徳川様本人が行くよりも効果があるのう。まさか、それが三河国で六三郎殿が働く事になったのか?」
「はい。その件で、織田家と徳川家の双方に借銭が出来た松平家は、およそ5年かけて完済したのですが、
その結果、居城の岡崎城どころか、三河国の財政が危機に陥ったのです。そこで、当時の柴田家の領地を改善させて、織田家の銭を増やした事から、
拙者に三河国で働いて、財政改善して来い!となったのです」
「成程、それで六三郎殿。三河国の財政改善を1年半でどの様に終わらせたのじゃ?布団とやらだけでは、流石に無理であろう?」
「はい。松平家家臣の皆様、そして当主の三郎様と協力しながら、農作物の生産量を増やした事、特に米の生産量が3倍になったから、1年半で終える事が出来ました」
「米があまり取れないとされる三河国で、三倍とは。詳しい事を後で教えてくれ!丁度、小一郎が文を書く準備を終えた様じゃ。今から文を書くから、六三郎殿は、料理の指導を頼む」
「ははっ。では、失礼します」
六三郎が大広間から退出した後、秀吉は秀長に
「小一郎!六三郎殿は、儂の子作り以外で領地に恵みをもたらしてくれるかもしれぬ!誠に良き若武者よ!
もっとも、今はそれよりも布団とやらを殿経由で手に入れる事が優先じゃ!」
六三郎に更に働いてもらう考えを示していた。