夫婦の妊活の為の聞き取り
天正九年(1581年)三月十六日
近江国 長浜城
「小一郎、済まぬな」
「兄上、何を仰いますか。六三郎殿も言っていたではないですか。最初のうちは身体を動かすのもやっとな状態になると」
「それは分かってあったのだが、予想以上に身体が動かぬ!しかし、内蔵助もこの苦しみを超えたからこそ、新たに子を授かったのだから、儂も超えてみせる」
「その意気ですぞ。ささ、もうすぐ厠です」
妊活の第一歩として筋トレを始めた秀吉は案の定、筋肉痛に襲われていた。秀長の介助付きでトイレまで歩いていたら、
「やあ!そりゃあ!」
「ぬおお!」
「やああ!」
中庭で模擬槍を振っている六三郎と赤備え達を見つけた。秀吉と秀長に気づいた面々は
「羽柴様!小一郎様!おはようございます!」
「「「おはようございます!」」」
「う、うむ。朝も早くから身体を動かしておるとは流石じゃな。もう半刻くらいやっておるのか?」
「いえ、一刻程やっております」
六三郎の言葉に秀吉は
「はああ!?ま、まだ時告鳥も鳴かぬ前から、じゃと」
大きな声が出る程驚いていた。それで尿意が強まったのか
「す、済まぬ。先ずは厠に行ってくる。小一郎」
「はいはい」
秀長に引っ張られながら慌ててトイレに向かった。その後、用をたしてスッキリしたのか秀吉は秀長に
「小一郎!六三郎達を見たから分かると思うが、朝も早くから武芸の鍛錬を行なうとは!親父殿の子育てがとても厳しいからこそなのじゃろうな」
興奮しながら話しかけたが、秀長は
「柴田様ほどの猛将なら、子育てが厳しくなるのも理解出来ますが、兄上だと甘くなりませぬか?」
と、返した。秀吉は
「それは否定出来ぬ!だが、我が子が居なければ、その話も妄想で終わってしまうから、ひとつずつ頑張っていかぬとな」
気持ちも新たに、今日も肉体改造に励む
一方、寧々からも妊活の助けを求められた六三郎は
「う〜ん。女の人の妊活って、どんな事を見直したらいいんだ?」
皆さんおはようございます。秀吉の正室の寧々さんの妊活の助けを求められて、頭を悩ませております、柴田六三郎です
昨日、寧々さんから、お袋と同い年である事を教えてもらいましたので、体力と食べ物と環境次第では出産も可能だと思うのですが、
史実での寧々さんは、秀吉の子を産んだとかの話も聞かなかったし、未来の医学じゃないと直せないレベルの不妊症か、秀吉の精子が全く無い、全く動きが無い
とかなら、頑張っても。と思ったけど、出来る事はやろう!先ずは寧々さんに色々聞いてみるか。その前に秀吉から許可取りだな
「羽柴様!お身体は、やはり辛そうですな」
「う、うむ。これ程の辛さは城を持ってからは初めてじゃ。それで、六三郎殿、何か聞きたい事があるそうじゃな」
「はい。御正室の寧々様の事で」
「寧々の事とは?」
「はい。昨日、羽柴様のお子を産みたいと懇願されましたので、出来るかぎりの事はやりたいと思いましたので、
先ずは寧々様に色々聞きたいのですが、その前に羽柴様に許可をいただいてからと思いまして」
「おお!それならば、これからは儂の家臣を連れていけば、許可も取らずに寧々の元へ行って良いぞ!儂の事だけでなく、寧々の事まで済まぬな!」
「いえ。それでは寧々様の元へ行って来ます」
で、寧々さんの所へ助作さんを連れて来まして
「六三郎殿。今日から何かを始めるのですか?」
「はい。寧々様が、まだお子を諦めてない以上、拙者も微力ながら、色々やりたいと思いまして。
寧々様、思い出すのも辛い事を聞くかもしれませぬが、正直にお答えくださいませ」
「はい。包み隠さずに答えます」
「先ず、羽柴様と子作りに励んでいた頃は、月に何回ほどの頻度でしたか?」
「殿が出陣してない時は、毎日しておりましたが、それでも一日に一回だけだったので」
「その頃の羽柴様と寧々様は、しっかり肉も野菜も食べておりましたか?」
「肉は貴重で高価だったので、殆どが野菜でした」
「羽柴様も寧々様も、その頃は身体を休める事、それこそ長く眠れる事は出来ておりましたか?」
「いえ。長く眠れる様になったのは、この長浜城が出来てからです」
「羽柴様も寧々様も、幼い頃に高熱を出した事はありますか?」
「私はありませんが、殿に関しては恐らく無いはずです」
「では、最期の質問ですが。寧々様に対して「早く子を」と圧をかける人はおりますか?」
「昔は殿や周りの方がそうでしたが、三十を過ぎてからは居ません。こんな私でも、殿の子を産めるのでしょうか?」
「寧々様。絶対とは言い切れませぬが、先ずは拙者の母上と同じ事をやってみましょう」
「はい。どの様な事を母君はやっておられるのですか?」
「先ず、自らも動いて掃除をしておりました。次に、時々は獣肉をたべて、屋敷内に作った鍛錬場で毎日、長刀をふって身体を鍛えておりまして、寝る前に風呂に入る時は、
身綺麗にしてから、じっくりと肩までお湯に浸かって、疲れを癒してから、寝床に入る生活を送っております」
「そ、それはどの様な効果が」
「拙者は医者ではないので、具体的な事は言えませぬが、昨日羽柴様に話しました、身体を鍛える事と同じ、身体を温めると血の流れが良くなる事と、
身綺麗にする事で、病気になりにくくなる事などの効果があると推測します」
「では、私が先ず、すべき事は」
「先ずは動ける身体になる為に、掃除をしたり、長刀を振ったりする事から始めましょう。ただ、その様な場所は、長浜城に有るのですか?」
俺が寧々さんに聞いた直後、
スパーン!と部屋の襖が開いた。そこに秀吉が立っていたんだけど、
「済まぬ六三郎殿!気になって側で聞いておった!じゃが今から、寧々や側室達が長刀を振る為の場所を作る!だからどの様な感じで作れば良いか教えてくれ!」
と言い放った。やっぱり史実で天下を取る人間は、行動も早いんだな。この世界線では秀吉の天下取りは、俺や親父が死ぬ事を意味するからやらせないけど