名誉挽回と領地加増の機会
天正九年(1581年)一月二十三日
近江国 長浜城
場面は変わって秀吉の居城の長浜城。信長が六三郎達と話してから三日後
「佐久間め〜!あ奴やあ奴の家臣が真剣に戦わなかったから儂や家臣達が死ぬ気で攻めたのに、何で本願寺を屈服させた事が佐久間の手柄になっておる!意味が分からぬ!小一郎、お主も納得出来ぬよな!?」
「兄上、お気持ちは理解出来ますが」
「何じゃ!?」
「やはり戦場から勝手に撤退した事が、兄上の武功と見られない要因かと」
「ええい!忌々しい!小一郎は留守居役をしておったから分からぬとて仕方ないとしても、あの茶狂いめ!
戦場で緩い攻撃しかせずに、敵に大した被害も与えておらぬのに!何で褒美として摂津守の官位を手にし、更には中国方面軍の総大将の役目に就いておるのじゃあ!
あんな戦下手で、先祖代々武士という家柄だけの奴に!許せぬ!」
「兄上。大殿は兄上の働きが必要な時が来ると分かっているはずです。その時が来るまで待ちましょう」
「くそお!本願寺との戦で不甲斐ない結果に終わったからなのか、それとも別の理由があるのが分からぬが、虎之助達は出奔しおった!
虎之助達を探す様に命じた佐吉も戻って来ぬ!何故じゃあ!殿からは長浜城で待機する様に言われておるが。戦も何も無い状況では、鬱憤が溜まるばかりじゃあ!」
この時、秀長は清正達が出奔した理由を当然分かっていた。しかし、自らの子を託している事も有り、下手な事は話せないので、必要最低限の事しか話せなかった
そんな時に信長から文が届く
「殿!安土城の大殿からの文でございます」
「何じゃあ。今度も誰かの与力に行けとの命令か?」
秀吉は面倒くさい感じで文を受け取りながら読み出す
「筑前!ちゃんと長浜城で待機しておる様じゃな。そんなお主に朗報とも取れる事を二つ伝えておく。先ず一つ目じゃが、
お主の元を出奔した福島市兵衛達四人、そして、その四人を探しておった石田佐吉も含めた五人は、儂の命令で大和国の東部に居る
そこでの役目を含めて、お主以外の命令も聞いて、色々な経験をさせた後、やはりお主に仕えたいと申すのであれば、再度召し抱える事も考えてくれ
そして、本願寺との戦で苛烈に攻撃しておったお主の働きに報いてやりたかったが、戦を途中で放棄したお主に褒美を与えたのでは、他の者達に示しが付かぬ
だが、これまでの働きの為、お主を処罰する事も出来ぬ。よって、これからお主には丹波国から進軍を開始し、
石見国までを制圧する山陰方面軍の総大将として、軍勢を編成せよ。編成が完了次第、文で良いから儂に報告すると同時に出陣せよ!
そして、お主より先に山陽方面軍を指揮しておる佐久間よりも早く、長門国まで制圧出来たならば、丹波国から出雲国までをお主の所領として認めよう!出陣する時期は、お主に任せる」
読み終えた秀吉は、
「ふっふっふ!来たああ!やはり、殿は儂を必要とされておられる!そうじゃ!茶狂いの佐久間なんぞが、強大な毛利相手に戦えるわけが無いのじゃあ!此度は与力ではなく、単独での戦じゃ!誰にも気を使わずに済む!
しかも、山陰は山陽と違い、一国の領地は大きくないが、畿内に近い丹波国と丹後国まで含めたならば、六十万石くらいは行くであろう!これで、越前一国を領有しておる柴田家をも超えられる!
これならば、家格がどうのこうのと言う輩も黙らせて、お市様の姫君を側室に迎える事も出来る!
ふっふっふ!はっはっは!死に物狂いで働いて来た叩き上げの強み、見せてやるわ!」
信長が六三郎に言っていた帳消しにする働きとは、山陰方面軍総大将として、毛利相手に戦う事だった
秀吉が久しぶりの出陣命令に歓喜している数日後、六三郎達は、岐阜城に到着していた
天正九年(1581年)一月三十日
美濃国 岐阜城
「勘九郎様!松姫様!遅くなりましたが、若君の御誕生、おめでとうございます!」
「うむ。父上からも「三介と三七には争いが終わってから、祝いの品をもらえ」とも言われておったが、
まさか徳川様から教えられておったとは。それでも、六三郎。あの日、お主達が松達一行を保護してくれたから産まれた子じゃ。更に言うならば
松と共に保護した山県兄妹のうち、長女の弓と次女の菫が新たに嫁入りして、弓は佐々内蔵助の嫡男を産み、佐々家の家臣達から崇められておるそ」
「それは何ともめでたき事ですな」
「六三郎、お主が父上を通じて内蔵助に身体を鍛える事を推奨した事と、回数を頑張った結果、北陸へ進軍する前にやや子を授かって、今月に産まれたのじゃ」
「それは、役目を終えたら佐々様に祝いの品を持っていかないといけませぬな」
「はっはっは。六三郎、お主や親父の権六と関わりの強い者は男女問わず子に恵まれておるな。
三河国の三郎も、お主が財政改善の為に三河国で働いている時に二人目を授かって、無事に産まれてすくすくと大きく育っておるそうじゃ」
「三郎様は、財政に余裕が出来たので、お子への食事も多く与える事が出来ているから、大きく育っているのでしょう」
「そうじゃ六三郎!食事という言葉で思い出したが、三七と店を開いておった頃、宇治丸のとても美味い料理を父上や徳川様に出していたそうじゃな?」
「はい。もっとも、殿や徳川様にお出しする前に、三郎様の嫡男の竹千代様に最初にお出ししたのがきっかけですが」
「それを、儂と松、ついでじゃ。筑前の家臣の五人の分も含めて作ってくれぬか?」
「作るのは構いませぬが、肝心の宇治丸が無いと」
「安心せい!宇治丸は既に準備しておる。だから、よろしく頼むぞ!」
ですよねー。流石、殿の子。家臣を働かせる為に外堀を埋めてから働かせますよね。分かりました。脂がのってて、とても美味いウナギを食べてもらいましょう




