追手が来たから
この作品はフィクションです。なので、史実や現実と違う描写や表現が出て来ますがご理解ください。
天正八年(1580年)九月三日
山城国 洛中
「それでは六三郎殿。霜月の終わりに入ったら戻って来るから、その間、店の事を頼む。もし、筑前の追手が来て四人を連れて行こうとしたり、害しようとしたならば、
父上が書いてくれた「織田家に連なる者が営む店につき、手出し無用」の天下布武の押印の入った書状を見せてやれば、余程の阿呆でないかぎり、引くはずじゃ
引かない場合は村井殿の居る京都奉行所に助けを求めに走れ!儂から話はしてある。それでは、領地にしばらく戻るが、皆気をつけて働いてくれ」
「「「ははっ!三七様もお気をつけて!」」」
皆さんおはようございます。領地に一時帰宅する三七様をお見送りしている柴田六三郎です
今年の霜月に伊勢国の統治者争いの最終結果が決まるのですが、最終結果の為の帳簿をまとめる作業の為の
一時帰宅なのですが、その間の店の営業を任されたのですが、羽柴家から出奔した4人が無理矢理連れて行かれたりしない為の対策までしてくれて、
本当助かります。正直、源太郎達だけだと力技で追手をぶちのめしそうだし、それはそれで秀吉に恨まれそうだから、今回の処置はありがたい
でも、開店前に皆に言っておく事があるから、
「皆!一度、店の中に集まってくれ!」
と、全員集合させて、
「皆、市兵衛殿、虎之助殿、孫六殿、紀之介殿も含めて、どの様な状況になっても口にしてはいけない事があるが、それは何か分かるか?」
ほぼ全員、頭の中で考えている様子が見えるけど、源太郎と虎之助が
「「小一郎様のお子の事ですな」」
同じタイミングで同じ答えを言う。脳筋度合いが低い2人の存在がとてもありがたい
「そうじゃ。小一郎様がひな殿へ渡した文の中にもあったが、小一郎様のお子の事が露見したら、羽柴様は草の根を分けてでも、お子を探し出すかもしれぬ
じゃが、考えられる最悪の状況は、お子を逃した事に羽柴様が逆上して小一郎様を殺す事じゃ
だからこそ、4人を追手から守る事は当然ではあるが、小一郎様のお子の事も守らなくはならぬ。その事を重々承知したうえで、働いてくれ」
「「「ははっ!」」」
「よし!それでは、店を開けて商売開始じゃ」
皆に言い聞かせて、確認したので営業開始です。今日も朝からウナギを捌いて、昼からはお茶と軽食をだして、夜はお酒を出して、一日の営業終了です
「今日は何も無かったか。とりあえず、一安心か」
と、俺が一息ついていると、雷花が、
「六三郎様。手の者が店を開けている間、ずっと店の様子を伺っている者を見つけたと」
「どの様な者じゃ?特徴は?」
「身の丈が五尺二寸から四寸程で、色白の細面にございます。見た感じ、歳は虎之助殿、市兵衛殿と同じくらいかと」
「その者1人か?それとも周りに仲間の様な者か居たか?」
「その者を含めて四人で動いておりました」
「と、なると。市兵衛殿達を1人きりにさせたら、連れて行かれる可能性が高いか。しかし、店から動かないと相手が店を攻撃する可能性も出てくる
そうなると、その者達を炙り出して捕縛して村井様へ引き渡した方が良いが、どの様な策を使うかじゃな。囮を使って釣られた所を捕まえるのが早いが、流石に4人の誰かを囮に使うのは」
俺達の話を聞いていた4人のうち、孫六が
「六三郎殿!拙者が囮になります」
と言ってきた。それを聞いた3人は
「何を言うか孫六!そんな事をしたら」
「そうじゃ!その者達が武器を持っていたならば」
「無茶をせずとも、三七様が戻ってくるまで辛抱したら良いではないですか」
と、虎之助、市兵衛、紀之介の順で孫六を説得する。それでも孫六は
「虎之助殿、市兵衛殿、紀之介殿、その者達の目的は恐らく拙者です。ならば、拙者が囮になり、その者達を炙り出せば、皆が捕縛してくれると思っております」
3人を含めた俺達へ信頼の言葉で話しかける。ここ迄言われたら仕方ない、やってやろうじゃないか
「孫六殿。その覚悟、儂ものろう!」
「六三郎殿?」
「市兵衛殿と虎之助殿が、ここ迄来たのは儂を頼っての事。ならば、儂としてはその期待に応えなければな、それに、共に働いている以上、家族も同然!
甘い考えかもしれぬが、家族の危機は家族で解決しようではないか!」
「我々の事を家族と」
「押しかけて来た我々に何とお優しい」
「六三郎殿、赤備えの皆様が命を惜しまない理由が分かります」
「さあ、早ければ明日にでも実行するぞ!策としては、孫六殿を人気の無い所へ行かせるが、
其処には事前に源太郎、銀次郎、新左衛門、三四郎を隠れて待機させる。そこを目指して歩いている孫六殿を追っている者達が動いたら、
新九郎、庄左衛門、金之助、喜三郎!お主達はその者達の後をつけながら退路を断て!
そして、雷花!お主と手の者は町の者に紛れて、その者達の見張りを頼む!先程の4人に新手の仲間が来たならば、赤備えの皆と暴れて来い!
そして、最期の確認じゃが、追手の者は1人生き残っておれば、詳しい事を聞く事が出来る。だからこそ、待ち伏せする組は源太郎、後をつける組は新九郎。
お主達がまとめよ。何かあったら、儂が動く!だから、気にせず暴れて来い!」
「「「「ははっ!」」」」
俺の作戦を聞いた赤備えの面々は
「状況次第では戦になるかもしれぬのう」
「むしろ、その方が手っ取り早い!」
「京の町で戦など、楽しみで仕方ない」
で、俺達のやり取りを見ていた孫六以外の3人が
「あの、六三郎殿!拙者も参加させてくだされ!」
「拙者も同じく!」
「拙者も!」
と、俺に平伏して頼んで来た。現場に行って、万が一この3人の誰かが攫われでもしたら、この囮作戦がパーになるからなあ。でも、この真剣な顔と態度を見たら、俺も甘いな。仕方ない、少しだけ働いてもらうか
「ならば、追手の者達の油断を誘う為の一手間として、市兵衛殿と虎之助殿は待ち伏せ組に入ってもらい、紀之介殿は後をつける組に入ってもらおう
理由として、追手の者達が4人と顔見知りだった場合、市兵衛殿と虎之助殿、屈強な身体の2人が居ない事を確認したら、孫六殿を連れて行く事を容易に出来ると思うはず
それを逆手に取り、最終的に一網打尽にするか、1人だけ捕縛してやろうではないか!」
「「「ははっ!」」」
さて、追手のリーダーは誰だ?史実での有名人か?それとも、名も無い羽柴家家臣か?