器の欠如と欲望という穴
この作品はフィクションです。史実とは違いますので、その点ご了承ください
「市兵衛殿、虎之助殿。どうして此方に?何か起きたのですか?」
「詳しい事を話したいのですが、連れの者が居りまして。その者も中に入ってもよろしいでしょうか?」
「三七様。よろしいでしょうか?」
「何やら訳ありな感じじゃな。良かろう!連れの者達も中に入れよ」
三七様が了承すると、2人は
「お許しを得たぞ!皆、来てくれ」
と、連れの人達を呼んだのですが、内訳が20歳前後の若い男2人と、30代後半くらいの女性1人と赤ちゃんが2人か、どういう関係性なんだろうか?
とりあえず、三七様に協力してもらいながら、話を聞いてみるか
皆さんを中に入れて、席に座ってもらってお茶を飲んで落ち着いてもらってから、三七様が
「事情を話す前に、皆の名を教えてもらいたい。六三郎殿と顔馴染みの二人から頼む」
「福島市兵衛正則です」
「加藤虎之助清正です」
「大谷紀之介吉継です」
「紀之介の母の大谷ひなです」
「加藤、ではなく岸孫六嘉明です」
おいおい待て待て!戦国時代の非運のスターの大谷吉継と、三之丞とかえでの子の孫六が同時に来たんだが?しかも、吉継に至ってはお袋さんも一緒だし
ん?でも、2人居る赤ちゃんは誰の子?全員子供は作れるだろうけど、今はそれよりも
「市兵衛と虎之助と紀之介と孫六とひな殿か。市兵衛と虎之助が六三郎殿と顔馴染みという事は、何処かの家に仕えていたのか?」
「はい。羽柴筑前様に仕えておりました」
「前月の末頃に出奔しまして、皆の持ち出した路銀を使いながら、此処まで来ました」
マジで?史実で秀吉がどれだけ悪どい事をしても、慕っていた2人が出奔するとか、
よっぽどの事だぞ?これは、色々聞かないとダメだな!俺の考えが読めたのか三七様が更に聞いてくれた
「筑前に仕えていたのならば、これから更に領地も大きくなるだろうに。何故、出奔したのじゃ?
しかも、これ程の人数、更には赤子まで居るではないか?ひとつずつで良いから、話してくれぬか?」
「では、拙者が」
清正が話を始めようとすると、「ぐ〜」と腹の虫が鳴る。それを聞いた三七様は
「腹が減っている様じゃな。先ずは飯を食え!ひな殿も、赤子達に乳を与える為には、しっかりと食べないといかぬぞ!六三郎殿、済まぬが」
「かしこまりました」
三七様に頼まれたので、うどんとおにぎりと鳥の唐揚げを作って出すと、よっぽど腹が減っていたんだろうな
市兵衛達はあっという間に食べた。ひなさんはゆっくり噛み締める様に食べる。それを見た三七様が
「まだまた足りぬじゃろう。六三郎殿、また作ってやってくれ」
「はい」
で、新しく作った物を出して、最終的に男達は1人3人前の量を食べて、ひなさんも2人前食べた
で、落ち着いた様だったので、三七様が
「さて、落ち着いた様じゃな。それでは改めてじゃが、虎之助よ。何故羽柴筑前の元を出奔したのか教えてくれ」
「はい。事の始まりは、殿の甥の治兵衛殿を無理矢理養子にした事からでした。実子が簡単に出来ない事から、親族や主君から養子を取る事は理解出来ますが
実の家族から無理矢理奪ってまで養子にした事に不信感を覚えた事からです。それから、此処に居る孫六を
実の両親から無理矢理奪って重臣の猶子にしただけでなく、羽柴家に仕えていた両親を放逐したのです
それでも、それでも戦に集中すれば、きっと元の殿に戻ってくださると思っておりました。しかし、殿は
元の殿に戻るどころか、自らの欲望を優先させたのです。それの最たる件ですが、六三郎殿はお父上の柴田様から聞いておられるかと思いますが、
殿は六三郎殿の妹君を治兵衛殿の嫁に。と柴田様に頼んで来ました。ですが、その話には裏が有りまして、
殿は妹君が年頃になったら、治兵衛殿から妹君を奪い、自らの側室にする計画を立てていたのです
それを聞いてしまった時、最早殿が、我々が憧れて、お支えしたいと思った殿ではなく、只の色狂いにしか見えなくなったので、出奔する事を決めたのです」
そこまで言うと、虎之助は泣いていた。虎之助だけではなく市兵衛も紀之介も孫六も同じく泣いていた
それを見ていた三七様は、
「辛い事を思い出させて済まぬ。しかし、ひな殿。ひな殿は、元服して間もない紀之介が新しい家に仕官するまでは、紀之介の弟が妹か分からぬが、
下の子達を育てる余裕はあるのか?もしくは、虎之助達が協力してくれるのか?」
謝りながらも、ひなさんに質問した。だけど、ひなさんの返答は予想の斜め上を行くものだった
「言い難いのですが、実はこの赤子達は私の子ではないのです。私は、とある方から書状と共に、赤子達を頼むと託されました。言わば乳母の役割を託されたのです。
そして、その「とある方」の名が記されているのが、こちらの書状です。ご確認ください」
と、ひなさんは三七様に書状を渡す。それを三七様は声に出して読み出したのですが、書状の主はまさかの人物でした
「では、読むぞ。「この書状を大谷ひな殿から受け取って見ている方へ。拙者の名は羽柴小一郎秀長と申します。此度、ひな殿には拙者の子である男女の双子を託しました
理由として、拙者の兄でもある主君の羽柴筑前に今だに子が出来ぬのに、拙者に子が出来た事を知ったら、
子を奪われるどころか、殺されるかもしれぬと思い、羽柴家から出奔する事を決めた虎之助達と共に、
外に逃げてもらったのです。ひな殿がこの書状を貴殿に見せたのならば、信頼出来る人物だと判断したのでしょう
不甲斐ないとも、親不適格と言われても仕方ないのですが、兄の羽柴筑前の暴挙を止める役割は拙者しか出来ませぬ
我が子の成長を見る事が叶わない事は、無念ではありますが、拙者の子達をお願いします。羽柴小一郎秀長より」
まさかの秀長さんが、自分の子を奪われたり殺される可能性から、ひなさん達に託したと。これは、俺がどうこうするのは無理だろ!
それどころか、三七様でも対応出来るのか怪しいよな?あまりに重い内容だよ。