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物を回収して渡してから本番

天正八年(1580年)五月二十一日

伊賀国 城戸家屋敷にて


「それでは城戸殿、行って来ます」


「うむ。近場と言えど気をつけてな。雷花の事よろしく頼むぞ」


皆さんおはようございます。伊賀国の協力相手の城戸家から出立しております柴田六三郎です


昨日なんとか協力を取り付けたのですが、城戸殿の家臣で男だと思っていた案内役の人が、まさかの城戸殿の娘だった事に驚き、


俺の三河国での仕事の話も知られていた事にも驚かされましたし、雷花さんが十八歳、鷹三郎さんが十七歳と俺と歳が変わらない事にも驚かされました


それでも、しっかりと協力してくれるお礼のお茶の苗を渡す、もしくは育ったやつを何本か土ごと抜いて渡すかをしないといけないので、


とりあえずは伊勢国に入って神戸家の屋敷に行きまして、幸田殿に久しぶりの挨拶をしましょうか。と、思って屋敷に行ったら


「幸田殿。前回の茶の葉は、堺では一貫で売れましたぞ。これも上質な茶の葉を育てている北伊勢の百姓のおかげですな」


「幸田殿。手前共が熱田で売り捌いた茶の葉は、一箱百文の値を付けたのにも関わらず、五十箱全て売れました。そのおかげで、店の奉公人達に臨時の俸給を与えてやれました。誠に感謝しております」


「いえいえ。京の洛中で三七様が自ら働いておりますので、拙者や他の家臣、協力していただいている北伊勢の諸家の方々、皆様の働きのおかげです。拙者ひとりの働きではありませぬ」


「幸田殿は謙虚ですな」


「誠に」


何やら幸田殿と商人達が談笑しておりました。場の空気を壊すのは申し訳ないのですが、


「幸田殿!久方ぶりに戻ってまいりました」


と、大声で呼ぶと


「おお!六三郎殿!久方ぶりですな!洛中で三七様を支えていただき、多くの儲けを出している事、


三七様御本人から聞いておりますぞ!更には、三七様の新たな嫁の菫様を三七様と引き合わせてくれるなど、誠に六三郎殿には感謝しかありませぬ」


「いえいえ。幸田殿を始めとする皆様の働きがあればこそにございます。それよりも幸田殿。拙者の連れの者を交えた話を奥でしたいので」


「かしこまりました。では、お二方。客人が来たので」


「それは申し訳ない。此度も上質な茶の葉を仕入れさせていただき、感謝します」


「近いうちに、また来ます」


と、商人達が帰って行ったので、幸田殿に大広間に連れて行かれて


「六三郎殿。三七様が居ないという事は、例の件ですな?伊賀国の一部を巻き込むという」


「その通りです。そして、その伊賀国の一部を巻き込む件ですが、何とか協力を取り付けましたぞ!」


「ま、誠でございますか?いや、お見事!それで、どちらの家の協力を取り付けたのですか?」


「それは、こちらの姫君から」


「お初にお目にかかります。伊賀国に領地を持ちます城戸陸奥守の娘の雷花にございます。此度は父の名代として参りました」


雷花さんが挨拶すると


「城戸家の協力を取り付けたのですか?それは、とんでもない事ですぞ、六三郎殿」


幸田殿が驚いていますが、何故?


「あの、幸田殿?何がとんでもない事なのですか?」


「六三郎殿。城戸家は、伊賀国の東部をほぼ全て領地にしていると言っても過言ではない家なのです


それ程の大きな家の協力を取り付けたのですから、とんでもない事なのです!」


マジで!?いやいや、イメージだと、100石くらいの地侍より少し上かな?くらいの人だと思っていたのに、そんなとてつもない大きさの家だったとは


「雷花姫。つかぬ事を聞きますが、お父上の陸奥守殿から、領地の石高は教えてもらっておりますか?」


「大体八万石くらいと聞いております」


「幸田殿。ちなみに神戸家の石高は、どれくらいでしょうか?」


「現時点だと、十五万石程です。六三郎殿、これで城戸家からの協力を取り付けた事が、どれだけ見事な事か理解出来ましたか?」


「はい。それで、幸田殿。三七様にも話しておりました、協力して相手方へ儲けを増やす為に、「アレ」を感謝の証として渡したく」


「「アレ」ですな。承知しました。では、甚五郎殿の元に行きましょう」


と言う事で、甚五郎さんの領地に行って、事の次第を説明すると


「わっはっは!流石、柴田家の鬼若子!常人が簡単に出来ぬ事をやってのけたか!見事じゃ!」


と大笑いされました。でも、話は甚五郎さんも知っているので


「良かろう!城戸家の領地の田畑に、これを植えてしっかりと育てよ!茶の葉の苗木じゃ!三七殿との約束でもあるし、持って行け!」


と、気前よく五十本の苗木をくれましたが、


「甚五郎殿?こんなに渡して大丈夫なのですか?」


「六三郎殿、茶畑は増やしたからこれくらいは大丈夫じゃ!米用の田んぼも減らしておらぬ。むしろ、今まで放置していた土地を開墾しておる。


だから心配は無用じゃ!ほれ、早く姫君をお父上の元へ戻してやらぬと、お叱りを受けるぞ」


と言われたので、挨拶も早々に伊勢国を出て、城戸殿の屋敷に戻りました


「城戸殿。感謝の証の物を持って参りました」


「思ったより早かったな。それで、その物とは?」


「庭にありますので、見てくだされ」


そう言って庭に出てもらうと、


「これは何かの苗木か?」


「そうです。これらは、城戸殿が昨日飲んだ茶の苗木です。これを今から植えて、夏と秋に収穫すると同時に、株を分けて更に植える苗にしたら、儲けも増えていくでしょう」


「柴田殿からもらった茶は美味かったが、それが儲けを更に増やすとは、誠なのか?」


城戸殿が疑問を抱いていると、雷花姫が


「父上!私は、柴田殿と共に神戸家屋敷にて、神戸家の御家老と商人が話しているのを目の前で見ましたが、堺では一貫もの儲けが出たそうです


この茶を米や麦と同じくらいの数を育て、回収し、売れば、今まで以上に儲かると断言します」


「いつも冷静な雷花がそこまで言うとは」


城戸殿はそこまで言うと、しばらく悩んで


「分かった。これを今から植えて、夏と秋の収穫に備えようではないか。柴田殿、他に何かやった方が良い事はあるか?」


「滋養が豊富な土を作った方が良いかと。その作り方は拙者がお教えします」


「そうか。よろしく頼むぞ」


「はい。それと城戸殿。拙者からお話したい事が有ります」


「何やら重要そうな感じの様じゃな。良かろう、茶の苗木を植えてからじゃな」


さあて、農作業の後は俺や親父の未来を変える交渉だ。気合いを入れないとな!

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