お怒り短し、その理由とは
この作品はフィクションです。史実と違いますので、その点、ご理解ご了承ください。
殿が三七様に何か言っている様子が見えたので、ああ、これは今日は早くに店を閉める事になるだろうな
と思っていたら、通常どおりの営業時間で終わりました。で、店が終わってから殿と近衛様と、内裏で見た本願寺のクソ坊主の顕如と、多分織田家の誰かと思う人が店内に入って来たんだけど、
店の外に居るお嬢さん方が
「何だか、三七様に似ている殿方が居るけど」
「お顔が似ているだけでなくて、三七様が「父上」と言ってたし、間違いなく三七様のお父上様よ」
「やっぱり!三七様の様な美丈夫のお父上様も、美丈夫なのねえ。眼福だわ」
「私は、三七様のお父上様の後ろに居た、気品ある所作のお人も素敵に見えるわ。きっとお公家さんよ」
「私はお公家さんらしき人も良いと思うけど、その後ろの僧侶のお人の全てを包み込んでくれそうな感じが良いわ」
「皆さん、私は四番目に店に入ったお人が、何か苦境を乗り越えるとてつもない豪運を持っている人に見えるわ。ああいう人と一度、茶の席でお話してみたいわ」
と、盛り上がっていました。色々申し訳ないのですけれど、完全に閉店するので板戸は当然ですが、窓も閉めますよ
で、お偉方とのお話し合いが始まったのですが、何故か皆さん、顔が嬉しそうなんですよ
そんな空気なんですが、立場上、三七様からスタートです
「あの、父上。話とは」
「うむ。儂が三七の店で茶を飲みながら話をしようと、近衛殿、顕如殿、そして、佐久間を連れて来たのじゃが、三七よ。まさかと思うが、女子を拐かす様な店を営んでおるのか?」
「いえいえ!とんでもない!」
「では、何故!あの様に女子を抱き抱えておった!?」
「あれは、六三郎殿の提案です。最初は客引きの為に目立つ何かをやると決めたのです、許可したのは拙者ですが、思いの外好評なので、止めるに止められないのです。しかし、
女子には好評ですし、飯を食べに来た男子からは、」どの様に身体を鍛えたら、あの様に女子を軽々と持ち上げる事が出来るのか」と聞いてくる者も居たりと、
活気が出て来たので、そのまま続けております!決して、疾しい事など行なっておりませぬ!」
「ならば、家探しをしても良いな?」
「はい!どうぞ、疾しい事など一切ありませぬ」
と言う事で、家臣の皆さんで家探しを始めたのですが、
「殿!店の中も外も、人を隠したり出来る様な場所は有りませぬ」
と言ってくれた。そりゃそうでしょ!平家で、縦横五十尺の店を使わせてくれているのは、他ならぬ殿なんだから!勝手に改造して、売春宿みたいな形にしたら、
いくら三七様の立場でも、何かしらの処罰が下るだろうし、俺や銀次郎達に至っては斬首されちゃうんだから、三七様は、俺と違って、余計な事をしない人ですよ!
家臣の言葉に殿も納得した様で、
「三七よ。ちゃんとした茶屋と言って良いかは分からぬが、飯と茶で儲けを出しておる様じゃな!父は嬉しいぞ!」
「六三郎殿との話しながら、試行錯誤しておりますが、超えてはいけない一線は守りながら、儲けを出したいのです」
「まったく、六三郎の良い部分に似てきたな」
いや、殿?俺の悪い部分とはなんですか?とても気になるのですが?聞きたいけど、まだ2人の会話は続いているから我慢だ
「三七と六三郎よ。とりあえず、この冷える時期に美味い茶と茶菓子を四人分頼む!それと三七。商売を始めて一ヶ月になるか?どれ程の儲けが出たか、帳簿を見せてみよ」
殿に言われたので、茶は焙じ茶を出して、甘味は未来の玉露の作り方の「布を被せて日光を遮断」をやってもらった茶葉を乾煎りしてから、石臼で挽いて、
その粉を饅頭用の小麦粉に練り込んで、中に粒あんとこし餡、更に栗餡を入れた饅頭を蒸しまして、
「お待たせいたしました」
「おお!なんと鮮やかな色じゃ」
「しかも香りもたまらなく良い」
「これはこれは味も期待してしまいますな」
「茶も通常の茶とは違う香りですな」
皆さん見た目と香りに驚きながら、先ずは焙じ茶を一口飲むと
「優しい温かさじゃ」
「冬に飲む茶は温かいものが良いですな」
「これは堅苦しい作法など要りませぬな」
「たまには、この様な茶も良いですな」
と、焙じ茶に癒された所で、殿が茶饅頭に手を出してみると、
「小豆が以前より甘いが、茶と饅頭に使われておる茶の葉の味で甘ったるく感じぬ。そして、粒が食感に違いを出しておる。うむ!美味い!」
「織田殿は、粒があるものがお好みですか。儂は、濾されたものが好みですな。程よい柔らかさで、食べた後に茶を飲むと、やはり美味い」
「拙僧は、こちらの中身が黄色の物を食べて驚きましたぞ。まさかの栗でした。あの固い栗をこれ程滑らかに出来るとは、そして、冬の茶菓子として最上の美味さですな」
「これ程の美味い茶菓子が作れるとは!三七様の店が繁盛するのも納得です」
「そうじゃ三七。帳簿は持って来ておるか?」
「此方に」
「これ程の美味い物を出すのじゃ!それなりの儲けが無いと、三介との争いに負けるぞ?さて、最初の一ヶ月は。三七!これは誠か?数字を誤魔化しておらぬのか?」
「いえ。帳簿はそのままです」
「一ヶ月で八貫もの儲けを出しておるとは」
マジで!?八貫って、ざっくりした単純計算だと、一貫が15万円くらいだったから、120万円の儲けが出たのか!
ん?でも、待てよ!材料費や光熱費とかを引いたら、その八貫はどれだけ減るのですか?聞いておこう
「あの、三七様。ひとつ聞きたいのですが」
「何じゃ?」
「その八貫は、材料費等を引いた八貫なのですか?」
「そうじゃ!材料費等を引いて八貫じゃ。引かなければ、十貫の売上があるが、それらを引いても八貫の儲けじゃ!」
マジか!こんな普通の喫茶店兼居酒屋みたいな店で売上150万とか、洛中の皆さんは金持ってるな!
※六三郎だけ普通の喫茶店兼居酒屋と思っています
「三七よ。先ずは上々の滑り出しというわけじゃが、油断せずに気を引き締めよ」
「ははっ」
「六三郎!三七の補佐を引き続き頼むぞ」
「ははっ」
「それとじゃか三七よ。神戸家の娘との間に子は出来ておらぬよな?」
「はい。養父の元に居て、拙者の元には来ませぬ」
「ならば、村井から聞いたが、山県家の次女の菫をそのまま嫁にせい!娘がその様な状態ならば、神戸殿には別の土地で娘の婿探しでもしてもらった方が早い!
神戸殿には儂から話しておく。三七の事を婿養子ではなく、ただの養子として扱ってもらえば良い
神戸殿も、娘の事と条件次第では別の土地でも納得するじゃろう」
「そこは父上がお願いします」
あの、何だかサラッと三七様と菫の結婚が決まったんですが。まあ、ここで何か言うのも野暮だし、とりあえず三七様と菫!おめでとう!