俺の名前でハードルが上がる
「では、続きを。先ず、関殿の領地と神戸家の領地が自由に行き来出来る様になると、関殿の領地の品物が、神戸家の領地にある湊に手続き不要になります
三七様。今までは、何かしらの手続きを行なっておりましたか?」
「今までは、確か」
三七様が思い出そうとするところを、幸田殿が
「荷駄一貫の重さにつき、五銭徴収しておりました」
「そうじゃ。神戸殿。関一党の領地は大きくない上に、京や堺で売れる物も無い。だからこそ、五銭の徴収は痛い出費であった」
「関殿。養父のやり方をそのまま疑問に思わず続けた結果、苦しくさせて済まぬ」
三七様が言葉と同時に頭を下げる
「織田家から来たから、人に頭を下げるなど出来ぬと思っていたが、中々どうして。見事な振る舞いではないか」
「拙者が頭を下げる事で、話がまとまるのならば、いくらでも頭をを下げまする。六三郎殿が言っていた、
もしも兄の北畠三介が伊勢国の太守になった場合の話は、間違いなく起きる可能性が高いのです。それを阻止出来るならば」
「ほう。六三郎殿。六三郎殿は北畠家が伊勢国の太守になった場合、どの様な事が起きると予想しておるのじゃ?」
「先ず、伊勢国全土に重い税を課すでしょう。そして、その税を納められない者は殺す事も含めて処罰するでしょう
そこから一つ一つの郡を北畠家の直轄領にしていき、そこから更に他国に進軍していき、伊勢国を始めとする周囲を恐怖で支配するでしょう」
「いやいや六三郎殿。それは些か、大き過ぎる予想ではないか?」
「いえ。むしろ小さく見た予想です。岐阜城で初めて見た時に、三七様に対しての傲岸不遜な態度を見た時に。
この者は、自身より立場が下と判断したら、徹底的に攻撃し、服従させる人種だと分かりました
簡潔に言いますと、大きな権力を持たせてはいけない人なのです!」
「神戸殿。六三郎殿の言っている事は誠か?話だけ聞いていると、北畠三介とやらは、強欲な人間の様じゃが」
「関殿。拙者の兄ながら、自分で自分の事を長兄の勘九郎兄上より優秀であると思い込んでおるのです
そして、短慮でもあるので、気に入らない事が有ると、直ぐに刀を抜きます。なので、戦場で家臣の部隊が押されていると、自ら前線に出ようとしたり、
敵の策略にまんまと引っかかるのです。これがあるから、四年前に徳川様の領地である三河国で起きた武田との戦では、
父上は、兄に本陣待機を命じていたのです。六三郎殿はその事を知っておらぬか?そもそも四年前の武田との戦は参加しておったか?」
「四年前の戦で、元服後の初陣は経験したのですが、拙者は徳川様の重臣の酒井様と、殿の直臣である水野様の補佐を受けて、武田の退路にある砦を壊しておりましたので」
「六三郎殿。今、六三郎殿は何歳だったかのう?」
「十五歳ですが」
「と、言う事は、十一歳で初陣を経験したのか!何とも」
と、三七様が驚いていると、関殿が
「待たれよ神戸殿。今、六三郎殿は「元服後の初陣」と言っておった。という事は、誠の初陣は元服前に経験したという事か?どうなんじゃ六三郎殿?」
「はい。7年前に経験済みです」
「六三郎殿。その時の相手は何処の武家で、戦った場所は何処じゃ?」
「戦った武家は武田で、戦った場所は美濃国です」
「やはりか」
何やら関殿が納得したみたいな顔になる
「関殿。何か思うところでも?」
「いやあ、神戸殿も人が悪い。此方の柴田六三郎殿、当時、既に儂の耳にも見事な武勇と軍略の才が届いておった、「柴田の神童」と呼ばれておった本人ではないか!
それに、元服後は、自らの手勢だけで、倍以上の武田の足軽を全員討ち取り、砦も破壊しつくして、
その暴れっぷりや、お父上の二つ名をもじって
「柴田の鬼若子」とも呼ばれている若武者ですぞ!」
「六三郎殿。それ程の事をやってのけたのに、何故教えてくれぬのじゃ?」
「あの〜。関殿も三七様も、拙者は確かに両方の戦に参加しましたが、周りの方々の協力も有って、
勝利出来たのです。なので、拙者の武功とは思っておりませぬ」
「「何とも控えめな」」
いや、2人共。同じタイミングで同じ言葉を言わないでください
で、俺の事を知っていた関殿から、
「柴田の鬼若子殿は、常人では思い浮かばない策を出すと聞いていたが、まさか内政でも常人では思い浮かばない策を出すとは。
神戸殿。六三郎殿は、内政において、驚くべき実績を残していないのですか?」
「父上から教えていただいた話ですと、三河国の財政を一年半で改善させたと」
「なんと!あの米の収穫量が多くない三河国の財政を一年半で。三河国はかなりの広さがあるのにも関わらず。もしや六三郎殿。
此度、儂の領地と神戸殿の領地を自由に行き来出来る様にする理由は、三河国と同じく土地に何があるかを調べる為なのか?」
「まあ、基本的には」
「ふっふっふ。神戸殿。これは、お互いの領地の銭が増える好機ですな!我々関一党、神戸殿が伊勢国の太守になれる様に、協力いたそう!」
「ま、誠ですか?」
「勿論じゃ!今、日の本の二十歳以下の武士で、最も有名と言っても過言ではない柴田の鬼若子殿の名は、
北伊勢の者達も知っておる。その鬼若子殿が、北伊勢の為、ひいては伊勢国の為に働いてくれるのならば、誰もが協力するであろう!儂も口添えするぞ!」
「関殿!誠に、誠にありがとうございます」
「神戸殿、いや、これからは三七殿と呼ぼう!儂の事は甚五郎殿で構わぬ!だからこそ、鬼若子殿、いや、六三郎殿に北伊勢の銭になる物を見つけてもらいますぞ!」
「六三郎殿!甚五郎殿が味方になってくださったのじゃ!これからは忙しくなるぞ!」
「目一杯働きます」
どうしよう。俺に過度すぎる程、過度な期待がされている。これは、いつも以上に悪知恵を使わないとダメだろうな