話し合いの第一歩
天正七年(1579年)七月二十六日
伊勢国 神戸家屋敷にて
「六三郎殿。頼みとは何じゃ?此度の争いに関わる事なのか?」
皆さんおはようございます。昨日、着任初日から領内を見て回った結果、自由に動き回れる場所が少ないから、三七様から自由に動ける様に触れを出してもらおう
と、思いまして、三七様へのお願いの為に、大広間に来ております
「はい。神戸家の領地と与力の方の領地を自由に動き回れる様に触れを出していただきたいと思いまして」
「それは、近場では儲けが出そうな物が見つからなかったからなのか?」
「正直に申すなら、近場では「今まで以上の儲け」を出す事は不可能です。米や麦や野菜で北畠家と争うとなると、田畑の面積が大きい北畠家が圧倒的に有利です
ですが、だからと言って米や麦や野菜を諦めるのではなく、それらの物を今までどおり育てて銭に変えると同時に、他の銭になる物も探し出して、作る為に
北伊勢の全てを自由に動き回れる様にしていただきたいのです」
「ううむ。あ奴ら以外は納得してくれると思うが」
「三七様。あ奴らとは?」
「与力で一番領地が大きい関一党じゃ。あ奴らは、北伊勢の中央に領地を持っており、隣の伊賀国に行くのも、手間がかかる。確かに、あ奴らが自由に往来させてくれたら」
三七様が凄い悩んでます。それ程、面倒くさい人達なんだな、関さん達は。でも、そんな人達を巻き込まないと、今回の長期戦は勝てないんですよ?
「三七様。関一党も巻き込まないと、此度の争いに勝てませぬ!現在の北畠家が広大な領地と、物を多く集められる大きな湊の存在に胡座をかいていたならば、
神戸家は、その隙を突いて動く事をしないと勝てませぬ!なので、どうか動ける様にしていただきたく!」
俺の猛プッシュに三七様は、悩みに悩んで
「分かった!六三郎殿の提案を受け入れよう!」
「ありがたき」
「ただし!」
おや?何か、嫌な予感がするのですが?
「関一党への交渉は、六三郎殿に任せる!勿論、儂らも交渉に参加する!六三郎殿、熱意は充分伝わった!だからこそ、六三郎殿にも交渉をお任せしたい。よろしいかな?」
「勿論でございます!関一党の領地を自由に通る許可を得られる様に働きます!」
「よろしく頼む」
と、いう事で、よくある「言い出しっぺなんだから、先陣切ってね」的な感じの役目になりました
で、そこから文の内容を三七様と幸田殿と話し合いまして、
天正七年(1579年)七月二十八日
伊勢国 関家屋敷にて
「いやいや、良く来てくださった。神戸殿。以前見た時より、少しばかりお痩せになられましたか?」
「はっはっは。関殿。領地の開発で働きすぎましてな。寝る時間を削っていたら、身体が削れてしまいましてな」
「それはまた無理をしておりますな。しかし、そんな無理をしておられるのに、此度はどの様な用件で我が屋敷に来られたのですか?」
皆さんおはようございます。三七様、幸田殿と共に、神戸家の領地の左上に位置する領地を持つ、関甚五郎さんの屋敷に来ております
関さんの領地を自由に動き回れる様になれば、何かしらの発見があると思って、交渉して歩き回る許可を貰うつもりなのですが、
関一党代表の甚五郎さんの見た目が、親父に負けず劣らずのイカつさなんだよね。俺は親父で慣れているから問題ないけど、
三七様も幸田殿も、こんな経験は少ないからなのか、少々緊張が見えますね
でも、頑張ってもらわないと、アホボンが伊勢国のトップに立つし、そうなったら本能寺の変が起きなくて、勘九郎様が織田家の家督を継いだ時、アホボンが織田家の2番手になってしまう
そうなったら、三七様に無理難題を押し付けてきそうだしな、で、その結果、織田家で内紛が起きる可能性が高い
そうならない為にも、三七様には頑張ってもらわないとな
で、俺が色々考えていると、
「関殿。先ずは、話し合いの機会を開く事を了承してくれた事、誠に感謝します。そして、此度の話し合いの内容を提案してくれたのが、此方に居る、拙者の与力の」
「柴田六三郎にございます」
三七様が俺を紹介したので、俺からも自己紹介すると
「ほお。随分と年若いのう。しかし、儂の顔を見ても動揺せぬとは、それなりの修羅場を経験しておるのか、肝が太く座っておるな
それで、柴田六三郎とやら。どの様な事を話し合いたい?まさかと思うが、儂達関一党に神戸家にくだれとか言わぬよな?」
関さんが睨みつけてますけど、こんな睨み、殿に道乃や三吉達の素性を明かした時に経験済みだから、
それほど怖くないんだよね。むしろ、殿の笑顔の方が怖いよ
「そんな無粋な事は言いませぬ。拙者は伊勢国に3年以内に起きる無意味極まりない戦を起こさない為の話し合いに来たのですから」
「ほう。三年以内に戦が起きるとな?どうして、その様な事が言える?」
「三七様。此度の事、全て話しますが、よろしいですね?」
「ああ。その方が早い。包み隠さず話してくれ」
「はい。では、改めて関殿。現在、正確には来月からなのですが、来年から三七様と、南伊勢で広大な領地を治める三七様の兄の北畠三介様が、
父でもある織田家当主、織田右近衛大将様より、一年間で儲けを多く出せた者が、伊勢国を丸々治めよ。
との号令を発したのですが、関殿なら、この争いで、三七様がどれだけ不利か分かりますな?」
「それは勿論。南伊勢には大きな湊か複数有り、そこから堺や熱田に船で荷を送り、そこで売り捌いて
銭を稼ぐ事が出来るが、神戸殿の領地には湊はあるが、それ程大きくなく、更に田畑も小さい神戸殿が圧倒的に不利ではないか!」
「そうです!関殿が仰っていたとおりですが、その不利を少しでも解消する為に、此度の話し合いで、
関一党の領地と神戸家の領地を自由に行き来させていただきたく!」
俺がそう言うと、関さんの家臣達が
「ふざけるな!」
「関一党の領地を戦で奪うつもりなのだろう!」
「殿!この様な話し合い、無駄です!」
と、かつての徳川家臣団の様に反対意見を喚いていますが、
「静かにせい!」
甚五郎さんか皆さんを一喝して、
「のう、柴田殿。家臣達の言っている様に、神戸家が関一党の領地を奪う可能性もある。だが、柴田殿は、
儂達にも神戸家の領地を自由に行き来させるとも言っていたな。儂達に神戸家の領地を取られる事は考えておらぬのか?」
と、挑発じみた事を言ってくるけど、
「関殿も人が悪い。領地を奪い取るつもりならば、三七様が神戸家当主になる前に出来ていたでしょうに
しかし、それをやらなかったのは、神戸家の領地を取れば伊勢長野家、更には北畠家と領地が近すぎて、状況次第では戦になる事を分かっていて、
それならば、ある程度美味しい思いの出来る現在の領地の方が良いと判断したのでしょう?」
と、領地を取るデメリットを話してやると
「はっはっは!儂の腹の中を読むか!確かにそうじゃ!確かに儂は伊勢国の全てを手に入れたいわけではない!家族や家臣達を養える銭や食料を得られたら、
それで良い!それに、領民達も儂にとって守るべき存在じゃ!領民達を守る為に戦はやるが、無意味な戦はせん!
神戸殿!柴田殿が提案した、此度の話し合い、面白い内容になりそうじゃな。じっくりと聞かせていただきたい!」
とりあえず、甚五郎さんは興味を持ってくれて敵対意識は、減った様だな
関一党の代表の名前は適当につけた名前です。史実と違うだろ!と思う人も、ご了承ください。あと、年齢は40歳の設定です。