やっぱり殿の子ですね
天正七年(1579年)七月二十五日
伊勢国 神戸家屋敷にて
「皆!今月から一年間、あの「柴田の鬼若子」こと柴田六三郎殿が、儂達の陣営に加わってくれた!しかも、父上から教えていただいたが、
三河国の財政改善をわずか一年半で達成したそうじゃ!岡崎松平家の方々も当然協力したから出来たのじゃが、
儂達は財政は黒字じゃ。だが、此度の北畠家との戦いは、どれだけの儲けを出せるかで勝ち負けが決まる!
いわば血の流れない戦じゃ!来月から始まる事になった今、出来るかぎり、六三郎殿に北伊勢の状況を教えて、改善出来る事を含めて、色々やっていこう」
「「「ははっ!」」」
皆さんおはようございます。織田家の子供達の争いに巻き込まれております柴田六三郎です
いや、驚きました。岐阜城で見た時は控えめな落ち着きのある、普通の人だと思っていた三七様が、領地に戻って来たら、家臣の皆様や俺に対して
覇気溢れる姿を見せているんですから。この人もなんだかんだで腹芸の出来る、やっぱり殿の子なんだと思いました
で、そんな俺の話をしているので、俺も自己紹介しておきましょう
「皆々様。三七様から紹介されました、柴田六三郎長勝です。出来るかぎりの知恵を出したいと思いますので、よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いいたす」」」
うん。基本的に三七様と同年代か、少し歳上の人ばかりだな。とりあえず、松平家の石川殿みたいな人は誰だろう
で、ここでもやっぱり殿の子だと思うのが、
「六三郎殿。六三郎殿に領地の事を教える役目の者を紹介しよう。彦右衛門、自己紹介せよ」
「ははっ。六三郎殿。幸田彦右衛門にござる。北伊勢の事ならば、拙者以上に知っている者は居ないと自負しておりますので、何でも聞いてくだされ」
「幸田殿。よろしくお願いします。では、早速ですが、このお屋敷周辺で何が有るかを見たいので、案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「早速ですな!よろしいでしょう。では、殿。六三郎殿と周辺を見せて来ます」
「うむ。よろしく頼む」
と、言う事で、幸田殿に連れられて領内散策に出たのですが
「六三郎殿。殿は、この争いに勝てるのでしょうか?正直、北畠家の家臣達は人柄の良い者達なのですが、
当主の北畠三介は広大な領地と、優秀な家臣と大きな湊での交易で得る銭に胡座をかいているのです
それこそ、生母の地位が織田家次期当主である勘九郎様と同じなだけの男としか見ておりませぬ
そんな男が、殿の上に立つなど!なので、どうか」
「幸田殿。お気持ちは分かりましたから。先ずやるべき事として、領地の主な生産品等を教えてくだされ」
「そ、そうでしたな。熱くなりすぎました。では、先ずはこちらへ」
何とか幸田殿を落ち着かせて、調査開始です。
で、調査開始しておよそ1時間経過したのですが、
「若様。伊勢国も美濃国や越前国とあまり変わらないですな」
今回の護衛役の庄左衛門が話しかける。更に、
「庄左衛門よ、更に言うならば、三河国もあまり変わらなかったぞ」
と、今回も護衛役を勝ち取った銀次郎が話すと、
「銀次郎。お主は若様の側に居る機会を当てすぎじゃ。たまには儂達に機会を譲れ!」
と、三四郎がツッコむ。それに銀次郎が
「何を言う!若様が仰っておる運の勝負に勝ち続けておるだけじゃ。それに、三四郎だけでなく庄左衛門も、比較的籤運は良いではないか!
他の者達より若様の護衛役や共を引き当てておるくせに!儂だけが引き当ててある様な物言いはやめろ!」
と返すものだから、
「儂を巻き込むな!そもそもお主は!」
と、庄左衛門も絡んでくる。流石に止めるか
「銀次郎も庄左衛門も三四郎も、源太郎や源次郎が居ないと、まとまらないなどやめてくれ。皆の引き運は平等なのだからな」
「「「申し訳ありませぬ」」」
うん。落ち着けば、ちゃんとしてるんだよな。で、改めてだけど、
「幸田殿。騒がしくして、申し訳ありませぬ」
「いえいえ。柴田の鬼若子と呼ばれる六三郎殿の戦における働きは、元服前の話も、元服後の話も現実離れしておりましたので、俄かには信じられなかったのですが、
家臣の方々を見ていたら、納得出来てしまう程の屈強な身体をしておりますな」
うん。うちの脳筋共のおかげで、と言っていいか分からないけど、相変わらず俺が戦バカや戦闘狂みたいに思われてるな
もう、それは仕方ない。で、本来の仕事に戻るけど、やっぱり三河国と違って、移動に少なからず制限があるのがキツい!
それぞれの領地が近いせいで、通る時に許可の手続きが面倒くさいな。これ、三七様に言って、どうにかしてもらう所からだな




