空気を感じて産まれる良い子の名付けと
天正七年(1579年)五月三十日
越前国 柴田家屋敷にて
「六三郎!市が産気づいたから、神棚の部屋に来い!」
皆さんおはようございます。お袋の出産の安産祈願を行なう親父に呼ばれて、神頼みを行ないます柴田六三郎です
文の時と、源太郎の息子の虎六郎の時以来、3回目の安産祈願の神頼みなんですが、お袋が文の時より余裕ある感じなんですよね
やっぱり、毎日身体を鍛えて、肉を程々に食べていたら、この時代ですら30代でも出産は大丈夫なのか?
と、思いながら、安産祈願を行なって、およそ1時間後
オギャアオギャアオギャアと産声が聞こえて来ました
親父を先頭にお袋の元に行って、確認すると
「権六様。無事に産まれました。二男です」
と、お袋は赤ちゃんを親父に見せる?親父は
「市。誠に感謝しておる。文の時より体力的に辛いのに」
「ふふふ。それが権六様。産気づいて一刻も過ぎてないからなのか、それ程辛くないのですよ。六三郎の推奨している
「身体を鍛える事」と「時々は獣肉を食べる」を同時にやっていたら、文の時よりも余裕がありました。
これならば、四十前にもう一人は産める自信が出て来ました」
と、お袋が「まだ産めるから、もう1人」のアピールをしていたけど、親父は
「市。今は身体を休める事を優先しよう。ゆっくり休んでくれ」
とスルーした。まあ、お袋が妊娠しても、産まれる時は親父は還暦に突入しているから慎重になるのも
仕方ないか。とりあえずは、弟の誕生を祝おうじゃないか!
天正七年(1579年)六月十日
越前国 柴田家屋敷にて
「では、私の体調も良くなりましたので、この子の名付けを皆で考えますよ。権六様。男児なのですから、
元服後は六三郎の様に兄上が名前を考えても良いですが、幼名くらいは、私達が名付けますよ!良いですね?」
「分かっておる。しかし、名付けとなると、六三郎の時は殿の幼名の吉法師から一字をいただいて、
儂の仮名と合わせたが、済まぬ、儂は後にしてくれ。
思い浮かんだ者から発表してくれ」
と、親父が言って来たので、最初に江が
「父上、母上。弟の名前として父上と兄上の仮名の中で同じ文字を使って「六之助」はどうでしょうか?」
「あら、江の考えた名前は、意外と良いですね。他には出ないですか?初はどうですか?」
「私は弟が五月に産まれたから「五月之助」はどうでしょうか?」
「それも良いですねえ。茶々はどうですか?」
「五人兄妹の五番目で、次男なので「五郎次郎」はどうですか?」
「あら、分かりやすいですし、元服した後なら名前も変わりますし、良いかもしれませんねえ。文は、弟の名前は何か良いものはありますか?」
「五番目に産まれて、大きく育って欲しいので「大五六郎」はどうですか?」
「あら。大きく育って欲しい願いを込めるなんて、文も姉としての自覚が出て来たのですね。
権六様、六三郎。残りはあなた達だけですよどなたでも良いから、名前は思い浮かんでないですか?」
お袋の圧が強すぎる。そんなお袋の圧に負けたのか親父が考えた名前は
「市。儂としては次男の名前は「五郎六郎」が、良いと思うのだが」
「権六様。男児の名前は、しっかりしたものが出るのですね!嬉しいかぎりです!最期になりましたが、六三郎!あなたは何か思い浮かんでますか?」
皆の目線が俺に集中する。正直、今回は親父含めて全員落ち着いた名前なんだから、俺は考えてもなくても良いと思うけど、仕方ない
「弟の名前ですが、父上の官位名をつけまして、「左京六郎」、又は「京六郎」はどうでしょうか?」
「あらあらあら!全員良い名だと思いましたが、呼びやすさ、そして、柴田家の男は幼名にも元服後の仮名にも「六」の字が使われていく事を示す為にも
決めました!!次男の幼名は「京六郎」にします!茶々、初、江、文。良い名前を考えてくれたのに、ごめんなさいね」
「可愛い弟の名前ですから、気にしていません」
「そうです。名前よりも健やかに育つ事が大丈夫です」
「母上、気にしないで下さい」
「そうです。弟が元気なら良いです」
「ふふっ。皆、弟の事を考えてくれてありがとう。権六様。良い名を考えてくださったのに、申し訳ありません」
「気にせずとも良い。元服したら幼名から仮名に変わるのだから、元服前は呼びやすい名ならば、皆も混乱しないだろうからな」
「ありがとうございます。では、次男の名前が京六郎に決まりましたが、権六様。何やら伝える事があると聞きましたが」
「うむ。実はな、六三郎が殿の三男の三七様が養子に行った北伊勢を治める神戸家に、財政改善の務めに出る事になった」
親父が俺の出張を発表すると、
「また兄上が他国に行くのですか?」
「何で兄上ばかり行くのですか?」
「他の人では駄目なのですか?」
「父上!兄上は休めないのですか?」
と、妹達から非難轟々になりましたが、こんな時に1番にキレそうなお袋は何故か静かでした
そんなお袋が妹達に、
「あなた達。兄上はそれだけ叔父上に信頼されているから、あちこちに行っているのです。なので、その様に父上に言ってはいけませんよ」
「「「「はーい」」」」
お袋に言われて渋々ながら、妹達は納得してくれた。それからお袋は、
「私は、二人と少しお話がしたいから。あなた達は、身体を動かして来なさい」
「「「「はい!」」」」
妹達はお袋に言われて、部屋を出た。何か冷静なお袋がとても怖いです。