兄弟の再会と幼子への心配
天正七年(1579年)四月十日
越前国 柴田家屋敷にて
「若様。誠に弟妹達だけでなく、松姫様や四郎勝頼の子を保護したのですか?」
皆さんおはようございます。家臣の山県源四郎から質問されております柴田六三郎です。
いや、驚きましたよ。お袋と岸夫婦が話し合いしている所までは記憶しているけど、途中から記憶が無かったから寝ちゃったんだろうけど、
まさかの1日半寝てました。俺が起きない事に気づいた利兵衛がお袋に伝えて、お袋の声で起きたのですが、
起きたら次の次の日、でしたからね。で、風呂に入って、飯を食って、着替えて源四郎の前に居ます
「誠じゃ。佐兵衛と三郎右衛門、弓、菫、雪。この5人が源四郎の弟妹で間違いないのであろう」
「はい。間違いありませぬ!そ、それで弟や妹は、どちらに?」
「利兵衛に連れて来させるから、待っておれ。利兵衛、弟達を頼む」
と、利兵衛に連れて来させて、
「「兄上!」」
「佐兵衛!三郎!お主達、よくぞ無事に出奔出来たな」
「甲斐国から出る事は難なく出来ましたが、信濃国から出る時は、死ぬかと思いました」
「そうか。よく無事で居てくれた。そして、儂が勝手に出奔したせいで、要らぬ苦労をかけさせて済まぬ」
源四郎は誠心誠意、謝っていた。けど佐兵衛と三郎右衛門は
「兄上のせいではありませぬ。それこそ、四郎勝頼の周りの信濃派も、反目している甲斐派も、父上の討死を聞いた時には
「結局、織田にも徳川にも大した被害は出ておらぬではないか!まったく、偉そうな事を言っておきながら、
無様に討死しおって!これだから、何の役にも立たない古い武士は!」
と言っておったと、武藤様、いえ、兄君達が亡くなったから復姓した真田様から教えていただきました
これを聞かされた時、奴らを殺したい気持ちになりましたが、耐えて、いつか父上を超えて、その者達を黙らせる事だけを目標に生きてきましたが
父上からの最期の文が届いて、中を見たら、父上はこうなる事を分かっていたのでしょう
武田家に対して、信頼が揺らいだり、憎しみを持ったり、明るい未来が感じられなくなったら、
出奔しても構わぬ。この文は子供達全員に書いているから、自分だけと思うな。と」
「父上。ありがとうございます。それで、妹達は?お主達は一緒ではないのか?」
「六三郎様に助けていただいて、美濃屋と言う旅籠までは一緒でした。ですが、そこに現れました六三郎様のお父上と、お父上様よりも立場が上の勘九郎様と呼ばれる
お方が松姫様に嫁入りを求めて、松姫様が受け入れたので、松姫様の付き添いとして岐阜城に共に向かいました」
「若様!弟達の話に出た勘九郎様とは」
「織田家の嫡男じゃ」
「「「えええ!」」」
いや、佐兵衛と三郎右衛門。お前達2人は、あの場に居たから分かるはずだろ。外には織田家の旗印の
織田木瓜の旗が大量にあったぞ?まあ、それよりもだ
「3人共、儂は明智様から教えられた範囲内でしか話せぬが、勘九郎様と松姫様は、織田家と武田家が手切れになる前は、婚姻予定だったそうじゃ。
それが家同士のいざこざで無くなったが、それでも勘九郎様は、松姫様を思っておったからこそ、儂達を探し出してくれたのだろう」
「なるほど。それ程までに」
「だが、儂としては虎次郎、いや、虎次郎殿。虎次郎殿がまさかの武田家当主に連なる者、それこそ
状況次第では、武田家当主になれる者である事は驚いたぞ。佐兵衛と三郎右衛門。身分を隠す様に考えたのは、松姫様の指示か?」
「はい。拙者達は武田から出奔する事は決めていましたが、妹達は松姫様の元に身を寄せていました。
そこで松姫様から「武田を出るから、誰か協力者を」と言われて、拙者と弟に話が来たのです
そこで妹達も、父上の最期の文を思い出して、覚悟を決めて、松姫様と虎次郎様を拙者達の元に連れて来て、
お二人の身分を隠す事を提案したのです。六三郎様が細かく聞いてくる場合は、松姫様は我々の姉に扮するつもりだったと」
「まったく。松姫様は、母上と同じくらい行動力があるな。馬に乗った姿に思わず見とれていたが、それ程、強いお人であったとはな」
「若様。見とれてしまうのも仕方ありませぬ。松姫様は、信玄公が「男子ならば、一廉の武将になれた」と仰っていた程に、武芸が達者でしたので」
「それならば納得じゃな。しかし、虎次郎殿の処遇に関してじゃが、佐兵衛、三郎右衛門よ」
「「ははっ」」
「松姫様が、命懸けで守った虎次郎殿に関しては、誠に殿次第じゃ!儂には祈る事しか出来ぬ!済まぬ」
「いえ。六三郎様は、身分を隠してまで、美濃屋で働くなど、常人では思い浮かばない策を出して、松姫様や虎次郎様を守ってくださいましたし、
言葉では説明出来ない直感なのですが、何故か勘九郎様の心意気に、織田様が理解を示してくれる様な気がしてならないのです」
「それならばありがたいが、今は良い状況になる様に祈ろう」
今はそれしか出来ないし、幼子が殺されるのは心苦しいので、勘九郎様、頑張ってくれ!