進み進んで現れたのは
天正七年(1579年)三月十五日
美濃国 某所
「いや、六三郎さん、本当に料理の腕が凄いねえ。うちの料理頭も、まだまだ色々な覚えるべき料理があるって言ってたよ。」
「諸事情で働かないといけないので、料理の腕は、元々好きだったから、気がついたらこうなっていたのですよ」
「そうかい。まあ、うちとしては、六三郎さんの料理のおかげで、周りに住む呑兵衛達がいっぱい飲み食いしているから儲けが多くて嬉しいよ」
皆さんおはようございます。現在、路銀と食糧が底をついたので、松さんと虎次郎以外の面々で働いております柴田六三郎です
三郎様から貰った路銀と食糧は、俺達に岸さん夫婦の7人なら計算しながら分け合う事も出来たし、岸さん夫婦も蓄えを出してくれたから、
余裕があると思っていたんだけど、山県兄妹と松さんを保護しながらの移動は、路銀と食糧があっという間に底をつきましたので、
三月に入ってから、上記の様に銭を稼ぐ手段として、中山道にある旅籠、美濃屋にて、今月いっぱい働かせてもらう事になりました。
まあ、松さんは虎次郎の面倒を見てもらうから働けないので、俺達12名が働いております。
そんな中でかえでは当然ですが、山県三姉妹が給餌として立派に働いていた事に驚いております。もう、この時点でうちの女中として合格です
で、俺以外の男共は、料理の食材として、鹿と猪と雉を捕獲に行きまして、三之丞と佐兵衛と三郎右衛門の3人は驚いてましたが、
慣れとは怖いもので、あっという間に捕獲出来る様になりまして、捕獲したやつらを俺が料理しているのですが、
酒呑み達には、雉肉の唐揚げの塩味が1番人気で、多い時は雉20羽くらい捌いておりました。
勿論、シメのメニューとして、雉出汁のうどんも大人気です。出来るのも食べるのも早くて美味いメニューとして商人達に重宝されているのも、
バイト先の美濃屋が潤っている理由です。芸は身を助ける。ではないけど、これなら、越前国への必要最低限の路銀と食糧は稼げそうです
そんな日々が過ぎて、そろそろバイトも終了しようと準備していた、ある日でした
天正七年(1579年) 四月五日
美濃国 某所
「女将!この1ヶ月、誠に世話になり申した!」
「私としては、まだ働いて欲しいんだけどねえ。六三郎さんの料理は酒呑み達に大人気だし、弓ちゃん達三姉妹を見る為に、この店でわざわざ飯を食う若いのも増えたし、
お松ちゃんは、子供達に色々教えてくれるし、三之丞さん達は、食材を取ってきてくれるし、店の用心棒にもなるし」
「申し訳ない。料理の手順書は、残してあるので、料理頭殿を筆頭に頑張ってくれとしか」
「まあ、短い間でも構わないから、働かせてくれと言って来たのは六三郎さん達だからねえ。行く予定があるならは、止めるのは失礼だし、頑張ってね」
「忝い!明日の朝に出立するので、今日が最期の務めになるが、精一杯働くので」
「あいよ!今日もよろしくね」
で、今日も美濃屋で目一杯働いて、営業終了する直前でした
「御免!」
と、何処かで聞いた事がある声が聞こえて来ました。その後に、
「六三郎!居るなら、出てこんか!」
親父の声が聞こえて来ました。恐る恐る厨房から出たら、
「父上!と、勘九郎様?」
親父と勘九郎様が居て、戸の向こう側には、2人の家臣合計で、推定3000人以上居ました
このまでは収拾がつかないので、女将さんに頼んで、美濃屋を少し早く営業終了してもらいました、
で、店内で勘九郎様、親父、俺の3人で話し合いなのですが、
「このたわけ!さっさと越前国に来たら良いものを、何故働いておる!遅くなるならば、せめで、殿経由で文を出せは良いものを!」
親父の正論説教が痛い。だけど、親父も明智様の文で知っているだろ
「父上!色々と連絡が遅かった事は申し訳ありませぬ!ですが、路銀も食糧も無い状況で、幼子を抱えながら中山道を歩けという事など、出来ませぬ」
「それならば、せめてこの美濃屋に居る事を」
「身分を隠して働いているのに、その様な事をしたら無意味になるではありませぬか。拙者や源次郎達だけならば、多少の無理をしてでも越前国を目指しますが、
此度は、明智様の文で知っていると思いますが、もしかしたら何処ぞの武家の姫君かもしれぬ人も居るのですぞ!だから拙者は、安全策を取ったのです」
俺と親父のやり取りを見て、源次郎、銀次郎、新左衛門、花の4人は慣れているからスルーしてるけど、
山県兄妹と岸さん夫婦と松さんは、軽く引いている。虎次郎は寝ていた
で、そんな中、勘九郎様が
「六三郎。お主は、共の者達を出来るかぎり安全に越前国へ連れて行く為に、身分を隠して働いていたのだな?」
「はい」
「全く、六三郎は働き者よな。しかも、自らが率先して働くのだから、儂の弟、特に茶筅に見習わせたいものじゃ。改めてじゃが、権六!此度の六三郎のやった事、儂の顔を立てるつもりで不問にしてくれぬか?」
「勘九郎様が、お決めになりましたなら、拙者は従います」
「うむ。済まぬ。さて、改めてじゃが、松殿」
「はい」
「拙者の前に座ってくださらぬか?」
「はい」
勘九郎様のお願いに、松さんが席に座る。そして、勘九郎様は
「松殿。正直にお答えくだされ。貴女は、甲斐武田家の先代当主、信玄公の娘の松姫で間違いないですな?」
「はい。身分を隠して、武田を出奔して、六三郎殿に付き従っておりました」
「それは、何故ですか?」
「それは、虎次郎が居たからです」
「「松姫様」」
山県兄弟が思わず声をあげる。それでも松さん、いや、松姫様は話を続ける
「虎次郎は、兄の四郎勝頼が側室に産ませた子ですが、このまま武田に居ては、穴山を中心とした派閥に殺されてしまうと思い、山県兄妹に武田を出奔させて、
それに私と虎次郎が着いて行く形を取ったのですが、信濃国を抜ける直前に、穴山の手の者に見つかってしまい、殺されそうになった所を、六三郎殿達に助けてもらいまして」
ちょっと!重い話この上ないのですが!これ、勘九郎様は、どんな結論を出すの?




