貴女が居るのは想定外
「助けていただきありがとうございます!山県家長女の弓です」
「次女の菫です」
「三女の雪です」
「四男の虎次郎です」
「皆を保護しておりました松です」
おや?一人だけ名字を名乗ってない人が。もしかしてだけど、何処ぞの権力者の娘さんか?
この場所で細かい事を聞いているのも、時間が勿体ないから
「とりあえず、動きながら皆様の話は聞きます。今から向かうのは織田家家臣、明智日向守様のお屋敷です。
明智様に挨拶をしたら、直ぐに父上の領地である越前国へ休みながら向かいますので」
「「「「はい」」」」
で、馬も使いながら移動して、
天正七年(1579年)二月十五日
美濃路 明智家屋敷にて
「明智様!無理を聞いていただき、誠にありがとうございます!」
「いやいや、何の。六三郎殿や赤備えの皆が作り上げた上り坂と訓練と屋内鍛錬場のおかげで、拙者の家臣達も、身体が逞しくなって、更には嫁取りが出来た者が増えた
まさに、「男として自信が付く」を実践したわけじゃ!はっはっは!しかもじゃ、飛騨国から武田の命令で、美濃国へ攻めて来た小勢が居たが、
敵の種子島が尽きた後に突撃したら、あっという間に敵本陣を制圧したのじゃ!身体を鍛え上げて、猪や鹿の獣肉を食べたら屈強な身体になる事を理解したら、
細川家の嫡男である婿殿も、丹後国の領地に同じ様な上り坂と屋内鍛錬場を作っているそうじゃ」
「皆様に良き影響が広がっているならば、拙者も嬉しいかぎりです」
「うむ。柴田殿に文を送りたいならば、殿経由になるが、此方で書いて拙者の家臣に届けさせたら良い」
「誠にありがとうございます!改めてですが、拙者に助けを求めた山県家の面々や拙者の家臣達を風呂に入れてくださいませぬか」
「うむ。じっくりと温まってくだされ。それから、六三郎殿は、皆が風呂に入っている間に拙者の部屋に来てくだされ」
「は、はい」
何か親父から渡す物とかか?それとも、全く関係ない何かか?
同日夜
光秀私室にて
「明智様。お呼びされたので」
「うむ。入りなされ」
「失礼します」
「うむ。先ずは、岡崎松平家の財政改善、誠にご苦労であった」
「明智様。拙者1人の働きではありませぬ。松平家家臣の皆様も一丸となって働いたから、一年半で達成出来たのですから」
「誠に謙虚ですな六三郎殿は。儂に年頃の娘が居たら、側室でも良いから嫁がせたいくらいじゃ」
「いやいや。拙者の様な若造より、武功を多くて挙げている御仁が良いと思いますぞ」
「はっはっは!充分過ぎる武功を挙げている柴田の鬼若子殿よりも武功を挙げている同年代の若武者は皆無ですぞ」
「それは、拙者は分からない事ですので。それで明智様。拙者を呼んだ理由は何でしょうか?」
「うむ。二つほど有るのだが。先ず、ひとつ目として、六三郎殿は羽柴殿に、柴田殿がお市様と再婚した事を伝えましたかな?」
「いえ。羽柴様には、家臣の加藤殿の母君が、柴田家で女中として働いている事を、殿経由で伝えた時しか、文を送って、ああ!」
「何か思いあたる節でも?」
「恐らく、いや、ほぼ間違いなく母上本人が父上と再婚した事を伝えたと思います」
「それは誠ですかな?」
「はい。母上は先程話していた、加藤殿が母君に会いに来た時に、加藤殿と付き添いで来た福島殿へ、浅井家に嫁いでいた時に羽柴様が、前夫の浅井備前様の嫡男を惨たらしい方法で処刑した事に対して怨念めいた言葉を言っておりましたし、
拙者に対しても羽柴様と積極的に交流するなとも言っておりましたので、2人へ持たせた文の中に、その様な内容と、父上との再婚を書いていたのかもしれませぬ」
「成程。それならば、柴田殿や拙者が黙っていても露見するわけか」
「あの、明智様?羽柴様に父上と母上が再婚した事が露見してはいけない理由があるのですか?」
「六三郎殿は、その様な事はまだ経験してないでしょうから、伝えておきますが、羽柴殿はお市様に惚れておるのです
それが敬愛か色恋かは分からぬ。だが、そんな羽柴殿が柴田殿とお市様の再婚を知ったら、どの様な心情になるか。それに、拙者が最も悍ましいと感じたのは、
柴田殿とお市様との間に産まれた姫君を「子がまだ居ない拙者の養女に」と求めて来た事じゃ。いくら自身にまだ子が居ないとはいえ、その様な事を平気な顔で言うなど」
「あ、明智様。落ち着いてくださいませ」
「ああ、済まぬ。だがな六三郎殿。この事で羽柴殿が柴田殿に敵意を持つかもしれぬ。何故か分かるか?」
「申し訳ありませぬ。分かりませぬ」
「ならば説明するが、羽柴殿は向上心、いや、野心がとても強い。それこそ自らが欲する物は全て手に入れたいと思う人と見て間違いないだろう
そんな羽柴殿が、日の本随一の美女と再婚し、子を作り、更には自身より大きな領地を持つ柴田殿に怒りや憎しみを持たないと思うか?」
「それは」
「賢い六三郎殿ならば、分かるであろう。羽柴殿があの手この手で柴田家を攻撃するかもしれぬ。考えうる最悪の展開で言うならば、殿や勘九郎様がお亡くなりになった時、柴田家にあらぬ疑いをかけて、戦を仕掛けるかもしれぬ
あくまで可能性がある。くらいの話じゃ。だが、油断せずに動きなされ」
「はい。ご忠告、ありがとうございます」
「うむ。それと、二つめの話じゃが」
明智様が話そうとすると、
「殿」
と、女中さんが声をかけて来た。女中さんを部屋に入れた明智様は、何か耳打ちされていて
「やはりか」
と、納得した様だった。で、女中さんが部屋から出た後、俺に向き合って
「六三郎殿。柴田殿や殿から、「六三郎殿は訳ありな人を引き寄せる力が有る」と聞いていたが、まさか儂も目の前で見ると思わなかったぞ」
「あの、明智様?」
「簡潔に伝えよう。六三郎殿が保護した面々のうちの一人の松という娘じゃが、間違いなく武田の一族の娘じゃ。更に言うならば、
織田と武田が手切れになる前に勘九郎様に嫁入りする約定を交わしていた、武田信玄の娘の可能性が高い」
いやいやいや!訳ありも訳ありすぎるって!だから、山県兄妹は追いかけられていたのか?
だとしたら、もう俺1人が頑張ってどうにかなる問題じゃないだろ!どうする?




