出張先からの出張
天正六年(1578年)一月五日
遠江国 浜松城にて
「徳川様。お久しぶりでございます」
「うむ。三河国で働いてもらっておるのに、遠江国へも来てもらい、誠に済まぬ!」
皆さんおはようございます。出張先から出張するという有り得ない労働をしております柴田六三郎です。
うちの領地で保護していた於義伊くんと於古都ちゃんが、浜松城に戻ってから殆どご飯を食べなくて困っているそうですが、
それ、史実であなたの孫の徳川家光が子供の頃に有りましたが、それを改善した春日局みたいな優秀な人は居ないんですか?
今の家康は幕府を開いていない、大大名だからそんな人は居ないかもしれないけど、徳川家中の問題だろ?
期間は3ヶ月限定だし、その間に原因を探れば解決策も見つかるだろう
「いえ。それで徳川様。於義伊様と於古都様は、美濃国に居た頃と比べて、全く飯を食べなくなっていると聞いておるのですが」
「うむ。出された物はちゃんと食べておるのじゃが、美濃国に居た頃の様に沢山食べず、一膳だけ食べて終わりなのじゃ。最初は料理人達が手抜きをしておるのかと思ったのじゃが、
六三郎殿が出立前に料理人達に書いて渡してくれた手順書と同じ様に作っており、儂も味見をして、
六三郎様の料理と同じ味である事は確認しておる。だからこそ、何故食べなくなっておるのかが、分からなくてな
於義伊や於古都が三郎と歳が近いのであれば、放っておいても、勝手に食べて大きくなるかもしれぬが、
いかんせん、まだ五歳じゃ。無事に成長し、元服するにはしっかり食べる事が大事だと思ったからこそ、
三郎殿に頼んで六三郎殿に来てもらったのじゃ。二人の事、なんとかしてくれ!」
家康が俺に頭下げるとか、やめてくれ!
「徳川様。頭をお上げください。弥生の間までは、浜松城に居ても良いと岡崎城の三郎様からも言われておりますので、その間になんとかなる様に頑張ります」
「うむ。頼む」
で、家康に挨拶した後、古茶さん親子に挨拶しに行ったんですが、その途中で於大様に捕まりまして、
「六三郎殿。徳川家中の無理難題を聞いていただき、誠にありがとうございます」
と、また頭を下げられたのですが、偉い人が俺に頭を下げるのは、何回見ても慣れないのでやめてください
「於大様。そろそろ」
「すいませんねえ。古茶もしっかり食べる様に二人に言っているんですが」
側に居る古茶さんの言葉でも無理とか、俺かどうこう出来ると思えないのですが?
「於大様。先ずは、2人に会って話を聞いてみたいと思います」
「お願いします」
で、古茶さん親子が居る場所へ案内されまして、案内してくれた人が
「古茶様。柴田六三郎殿がお見えになりました。開けてもよろしいでしょうか?」
「はい」
で、開けてもらいまして
「古茶様。お久しぶりです」
「六三郎様。殿が呼んでくださったのですね。於義伊と於古都の事で」
「はい。2人が美濃国に居た時と比べて、飯を殆ど食べてないとの事の様で」
「はい。ちゃんと最低限は食べているのです、ですが、殿も於大様も美濃国で二十日程、共に過ごしておりまして、その間に沢山食べているのを見ているからこそ、
遠江国へ来たら、殆ど食べてない事が信じられない御様子で、医者にも見せましたけど、何も無い健康体だと」
「身体に問題無く、料理も拙者が作っていた物を食べているとなると、内面的なものかもしれませぬな」
「内面的なもの。ですか。だとしたら、私はあの子達の事を分かってないにも程がありますね。情けない」
「古茶様。親が暗い顔をしていますと、子供が心配します。なので、出来るかぎりで構いませぬ。明るい顔をしてくださいませ」
「六三郎様は私より年若いのに、しっかりした強い人ですね。於義伊も六三郎様の様に育ったら、どれ程嬉しいでしょうか」
「古茶様。その事はとりあえず後にして。2人と話したいのですが、どちらに居ますでしょうか?」
「今は於義伊が剣術の、於古都は和歌の習い事をしておりますので、半刻もしたら戻ってくるかと」
「分かりました。2人が戻って来たら、拙者も戻って来ますので」
「はい。よろしくお願いします」
で、俺も部屋に戻って、それから半刻後
「柴田殿。於義伊様と於古都様が部屋に戻って来ましたので、お願いします」
と呼ばれたので、部屋に行くと
「「六三郎様!」」とダッシュで2人か抱きついて来た。改めて大きくなったな。と実感します
で、2人共、
「今日から六三郎様も、この城で暮らすのですか?」
「お屋敷に居たときみたいに、美味しくて楽しい食事が出来るのですか!?」
と質問攻めだった。ただ、この質問に問題解決のヒントが有る気がしたので、聞いてみよう
「2人共。儂はな、2人のお父上である徳川様から、2人がしっかり飯を食べないから心配じゃ。と言われて、どうやったら飯を美濃国の屋敷に居た時みたいに、
しっかりと食べる様にするにはどうしたら良いか、分からないから良い案を頼む。と言われて来たのじゃ」
「そんなあ」
「六三郎様、側に居てくれないのですか?」
2人が泣きそうな顔になる。
「2人共。そう簡単に泣いてはならぬ。2人が泣いてばかりでは、母君も悲しくて泣いてしまうぞ?」
「うう」
「なら泣きませぬ!」
「よし。それでこそ、徳川様の子であり、古茶様の子だ。改めてじゃが2人共。何故、美濃国に居た時の様に飯を食べないのじゃ?」
「それは」
「怒らないから申してみよ」
「ならば。正直に言うと、お屋敷に居た時は六三郎様も、女中の皆様も、赤備えの皆様も、食事の時はいつも居て、楽しかったのに。此処へ来たら」
「於義伊、泣かない泣かない。於古都も同じ理由か?」
「はい。此処では部屋の中で母上と共に食べるか、大広間に行って、父上や祖母様しか居ない中で食べるだけです。だから、早く食べて終わりたいのです」
やっぱりか。これは美濃国の屋敷で、俺が屋敷内で自由にした弊害だな。でも、原因が分かったなら、家康に伝えて、解決策も提案しよう
「於義伊、於古都。2人が美濃国に居た時みたいに飯を沢山食べられる様になる為に、徳川様に話してくるから、待っておれ。良いな?」
「「はい」」
さて、家康が親としての態度を取るか、大名としての態度を取るかで、この提案はボツになるけど、今は、これがベストな解決策だから伝えておこう。