爆破から始まる治水もある
天正五年(1577年)六月十五日
三河線 岡崎城にて
「田畑の形を変える?どう言うことじゃ?六三郎殿」
「はい。これまで岡崎城周辺の田畑を数日見て回ったところ、岡崎城に近い乙川の近い場所の田畑の実りが悪く、
調べましたら、全ての田畑が川岸へ斜めになっており、その結果、米や麦や野菜等を育てる土の滋養が、
川へ流れ出ているようです。これは、例え土の滋養を増やしても、田畑の形を変えなければ、同じ事の繰り返しになります。最悪の場合、川の氾濫で田畑が駄目になり得る事も」
「ううむ。乙川に近い田畑は滋養が流れ、遠い田畑は川の水が安定して届かぬと。これは、動かせる人間を大量に動かさないといかぬ様じゃな」
皆さんこんばんは。三河国へ無期限出張中の柴田六三郎です。俺みたいな若造に財政改善を頼んだ徳川家嫡男の三郎様に、
農作物の収穫量増加の第一段階である、土地改良を伝えております。此処は徳川家の領地なんだから、
大々的な土木工事をやるなら、三郎様の許可が無いと出来ない。だからこそ、三郎様に土地改良の許可状と、百姓の皆さんにお触れを出して欲しいんだよね
「ふむ。分かった。かなり大がかりな治水になりそうじゃな、だからこそ百姓達へ触れを出さないとならぬか。
石川!乙川の上流に住む者達から順に、触れを出しておけ。それこそ、口で説明する者も選別しておいてくれ!」
「ははっ」
おお。三郎様がしっかり大名っぽい振る舞いをしている。2年前に勘九郎様が言っていた
「親になっている」を超えて、徳川家の嫡男として頼もしいな。やっぱり立場が人を成長させるんだと実感します
それじゃあ、俺も早く頼もしいと思われる為に頑張って財政改善を達成しましょう。先ずは第一段階だ
天正五年(1577年)六月二十五日
三河国 某所
「六三郎殿。この村が一番上流の村です」
「石川殿、ありがとうございます」
皆さんおはようございます。岡崎松平家の財政改善の為に、現在、乙川の上流に来ております柴田六三郎です
三郎様や石川さん達との話し合いで、上流から土地改良と水量の増加を始めようと決まりました。
そこで、現在地に居る訳ですが、岡崎城から大分離れた場所に居ますが、
「ところで六三郎殿。一応、村人全員家から出てもらいましたが、どの様に土地改良を行なうのですか?それ程、人数も多くない様ですが」
「石川殿。準備は完了しております。この紐がそれです。先ずは、川幅を少しずつ広げる工事をしたいと思います。そこで、松明と、反対側の目標に火矢を放てる弓の名手は居ますか?」
「一応、拙者も弓は得意です」
「なら、石川殿。川岸から少し遠い所に立っている、縄が巻かれた柱に火矢を放ってくだされ」
「分かりました。では」
石川さんが火矢を放つ。見事に着弾する。そこで、
「皆!後ろに下がってくだされ。急いで!」
皆が訳もわからず走るのを確認して、俺も松明で紐に火をつける。その火は紐を伝って川岸に向かっていく
火のついた紐が三又に別れて、止まると
ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!
爆発音が辺りに鳴り響く。地面が揺れて、土煙が舞う。土煙がはれると
「か、川が。広がっておる!」
石川さんが驚いておりますし、石川さん以外の家臣さんも百姓の皆さんも口が開いたままです。
そりゃそうだよねー。簡易ダイナマイトを10メートル間隔で埋めて、爆発で川岸を削ったんですから
その結果、川の水が前よりも多く流れる様になりました。今の所、上流の村限定ですが
これを人力と爆破で川岸を削りながら、堤防を整えていけば第一段階は、今年で完了するでしょう。
いざとなったら松平家の皆さんで簡易ダイナマイトを作ってもらいますし
「さあ石川殿!これを下流に向けてやっていきましょう!」
「そ、そうですな。いやはや、あれ程の破壊力は、戦で敵にぶつけたらひとたまりも無いでしょうな」
「まあ、当面の間は戦が無い様ですので、人々の暮らしの為に使うだけです」
さあ、土木工事の開始じゃー!もしかしたら、越前国で、今回の経験が役立つかもしれないから、いつも以上に真剣にやろう!




