無期限の出張の始まり
天正五年(1577年)六月五日
三河線 岡崎城にて
「よくぞ来てくれた六三郎殿!儂達の無理難題を聞いてくれて、誠に忝い!」
皆さんおはようございます。今日から三河国で無期限の出張が始まりました柴田六三郎です。岡崎城の城主である松平三郎様より、頭を下げられてますが、
周りの家臣の皆さんの目が痛いので、そろそろやめてもらわないと
「三郎様。頭をお上げくださいませ」
「うむ。改めてじゃが、六三郎殿。岡崎城周辺で、何か銭になりそうな物はあったかのう?」
おい三郎様。着任初日にどうにか出来る訳ないでしょうが。まあ質素倹約を頑張り過ぎたから、こんな発言が出た事にしましょう
「三郎様。お言葉ですが、岡崎城周辺の事が全く分からないので、動いて見てみたいと思いますので」
「それもそうじゃな。急かしてしまって済まぬ。早速じゃが石川達を連れて、見て来てくれ。
六三郎殿達が周辺を見ている間に帳簿を準備しておくから、何か良い物を見つけてくれ」
「善処しますと申しておきます」
とまあ、こんなやり取りをして、岡崎城周辺の散策に出たんですが、
「若様。二年前の戦の時は気づかなかったのですが、三河国は甲斐国よりは多少良いかもしれませぬが、
田畑があまり多くないですな。それに大きさもあまり大きくないですし」
と、今回の護衛役の1人の源次郎が言っていますが、中々的確な指摘です。だって、三河国はあまり稲作に向いてない大岩だらけの固い土地で、
更には川の水もしっかり治水してない、いや、出来なかったのか、水量も安定してない。
これは、三郎様の許可をもらって水車を作って、いや、土の改良から始めないと駄目だ!
こんな状態で、三郎様と徳姫様は、よく借金を完済出来たな。凄えよ。
それじゃあ、頑張った2人と、俺の越前国への早期引越しの為に悪知恵を働かせますか
「若様?何やら考えておられる様ですが?」
今度は銀次郎が聞いてきた
「銀次郎。今、儂達が歩いている土だが、とても固くて歩きやすいと思わぬか?」
「それは、確かにとても歩きやすい。それ以上に踏ん張りが効くといいますか」
「そうじゃ。領地の田畑を思い返してみよ。土が柔らかく、作物がしっかりと育ちやすい、しかし、岡崎城周辺はそうではない。
ならば、土を柔らかくする為に頑張るか、それとも、固い土で育ちやすい物を大量に育てるか?それとも、他の手も考えるか。
色々あるが、先ずは見ないと何も分からぬ。皆も気になる物があったら、言ってくれ」
「「「ははっ」」」
「石川殿。足を止める時が多くなるかもしれませぬが、申し訳ない」
「いえいえ。三郎様と徳姫様の無理難題を聞いていただいて、財政改善の為に働いてくださっておるのですから、そのきっかけの為ならば、足を止めるくらい、
大した事ではありませぬ。それに、徳川家中でも話に出る「柴田の鬼若子」と呼ばれる六三郎殿が、
戦以外の話をするなど、皆に聞かせてやりたいですからな」
あの、石川さん?俺を何処ぞの戦バカみたいな感じで扱うのはやめて欲しいのですが?俺みたいな凡人に過度な期待はやめて下さい。あなたと俺は、元服前に会ってますよ
まあ、それよりもだ。財政改善のヒントになりそうな物を探しているんだけど全然見つからない!
綿花の畑に来たけど、綿花の量が少ない、今から種や苗を植えても生育スピードが分からないんだよなあ。
どうする?三郎様の家臣を借りて、土木工事するか?今日は、見て回った感想だけ伝えておこう
同日夕方
「六三郎殿。どうであった?何か、良い案や物はみつかったか?」
「三郎様。今日一日、岡崎城周辺を見て回って思ったのですが」
「な、何じゃ?」
「三河国では、農作物が安定して育たない理由として、水の量が安定してないのでは?」
「う。そ、その通りじゃ。何故分かったのじゃ?」
「岡崎城周辺を見たら、柴田家の領地と比べたら、ですが、田畑の数は多くなく、面積も大きくない。更には土が固い。これば、水が上手く行き渡ってない、
治水がしっかりと行われてないと思ったからです。この状況では、拙者や一部の者が頑張っても、早くて竹千代様が十歳になる頃まで、岡崎城の財政は苦しいままですぞ」
「それは駄目じゃ。竹千代だけでなく、家臣の子らにも貧しい思いをさせてしまう。六三郎殿。治水の工事と、水を出来るかぎり多くの田畑に行かせる事の両立は可能であろうか?いや、更には言うならば、
田畑の実りを増やす事もやらねばならぬ。六三郎殿。儂達も勿論、働く。何処から手をつけたらよい?」
「先ずは、水が上手く行き渡る事から始めましょう。それと同時に、百姓の方々へ、拙者が尾張国と美濃国で行なった、田畑の改善も進めていきましょう」
「誠に済まぬ!必要な道具があれば、言ってくれ!出来るかぎり準備しよう」
うん。三郎様のやる気も倍増した事だし、2年くらいで戻れる様に頑張ろう




