母は呆れて、父は渋々
家康から言われた岡崎城の財政改善の出張に関して、1番気を使うのがお袋なんだよねえ。利兵衛から去年の話を聞いたら、京に行ってた時、殿からの文で俺を連れて行った事に怒りくるって
「今から岐阜城に乗り込む!」と言ってたらしいし。何とか落ち着いたらしいけど、今回は徳川家が関わっているから、流石に大丈夫だと思うけど
最悪、殿からの文で納得するか、殿へ怒りの矛先を向けてもらおう
「母上。六三郎です。入ってよろしいでしょうか?」
「入りなさい」
入りましたら、お袋も妹達が集合している最悪のタイミングでした。まあ今更だし、このまま話そう
「朝から済みませぬ。母上に伝えなければならない事がありまして」
「茶々達が聞いても問題無いのですか?」
「はい。後から説明するよりも、今聞いた方が早いと思いますので」
「分かりました。どの様な事ですか?越前国への引越しの開始日が決まったとかですか?」
「いえ。拙者が三河国へ行く事になったのです」
「はい?六三郎。今、三河国へ行くと言いましたか?」
「はい」
「織田家の尾張国ならまだしも、何故徳川家の三河国へ六三郎が行くのですか?まさか戦で出陣なのですか?」
「そうではありませぬ。口で説明するよりも、殿からの文を見ていただけたら早いと思います」
俺はそう言いながら、お袋に文を渡す。その文をお袋はじっくり読むと
「これは徳川家の問題ではありませぬか!いくら岡崎の三郎様が万策尽きたとはいえ、何故六三郎が財政改善の為に働かないといかぬのですか!」
やっぱり怒りました。でも、俺も「お袋が怒っているので、行きません」なんて出来ないんだよ
「母上。殿は、拙者が領地でやった事を岡崎城でやる様に仰せなのです。拙者が居ない間は父上が戻って、
引越しを行なうそうですので、それに、岡崎城の財政改善が達成次第、越前国へ行けるとの事ですので」
「全く。権六様も兄上も、六三郎の事を「常識外れ」とか、「普通の若武者と思うな」とか言っていましたが、確かにこれ程働かされる若武者は、
そうそう居ませんし、そもそも十一歳で元服すること自体、普通じゃありませんかね。仕方ないと言えば、仕方ないかもしれません」
おや?意外と納得してくれた様な
「では、母上」
「仕方ありません。兄上と徳川様が決めた事を、私の我儘で反故にしてはいけませんから。ただし六三郎!
出来る限り早く、財政改善を達成してきなさい!徳川様が浜松城に戻る時、一緒に出立なさい!」
「はい」
良かった。お袋は呆れてる感じだけど、送り出してくれる様だ。でも、親父が来るまでの間はどうしよう?
利兵衛と水野様とお袋に家の中の事を任せるのもなあ。考えがまとまらないから、
殿に早馬で文を送ろう!最悪、親父に来てもらうのも有りだな!うん。俺に無理難題を殿が言ってきたんだ。
俺が少しくらい殿にリクエストしても問題無いはずだ!
天正五年(1577年)四月十六日
美濃国 岐阜城にて
「殿。柴田家の六三郎殿からの文でございます」
「今は二郎三郎達の世話で忙しいはずじゃが、何か起きたか?どれ」
信長は六三郎からの文を読みだす
「殿へ。三河国へ行き、岡崎城の財政改善に行く件に関しまして御相談なのですが、父上が領地に戻る前に、
拙者が出立した場合、領地の差配を誰に任せたら良いか分かりませぬ。前年は短い期間だったので、どうにか利兵衛や母上がやってくれましたが、
今回は、どれだけの期間になるか分かりませぬし、父上がいつ頃戻るかも分かりませぬ。
なので、父上を早めにお戻しいただけるか、家中の誰かに任せて良いのかを御相談します」
「ふむ。確かに、六三郎の言い分も分からんでもないな。権六が居ない間は、自分が差配する。一ヶ月や二ヶ月ならば、利兵衛に任せられるかもしれぬが、
それ以上は流石に。と思うのも理解出来る。ふむ。一応、本願寺とは停戦合意をしておるし、京の事は
猿と佐久間に任せて、権六と十兵衛は美濃国に戻すか」
六三郎からの相談は、あっという間に結論が出て、勝家達に文が届けられる事になった
天正五年(1577年)四月三十日
山城国 某所
「殿!明智様!岐阜城の大殿からの文でございます」
「また倅に関する事かのう?だとしたら、十兵衛済まぬ」
「柴田殿。謝る内容かどうかは、文を読んでからにしましょう」
「うむ。そうじゃな、では「権六と十兵衛!京の警護の役目ご苦労!早速じゃが本題に入る。二人共気づいておると思うが、
此度も権六の倅の六三郎に関する事じゃ。六三郎が何かやらかしたわけではないから、そこは誤解してはならん。
改めてじゃが、実は徳川家からの相談で、数年前に徳と婿殿が六三郎に無理を言って、家臣の嫁取りを大々的にやらせた時の織田家と徳川家への借銭を、
無事に完済したのだが、質素倹約を頑張った結果、岡崎城の銭が枯渇寸前らしく、徳も婿殿も万策尽きた状態らしく、六三郎の知恵を借りたいとの事じゃ。
六三郎はその事で、三河国にどれ程居るのか分からないから、その間の領地の差配や、越前国への引越しに関して権六を早く戻すか、誰かしらの頼りになる人を寄越して欲しい
と言っていた。そこで、権六と十兵衛。権六は十兵衛への領地引き継ぎと、引越しの差配を。十兵衛は新たな領地への挨拶と帳簿の引き継ぎを兼ねて、
領地へ移動せよ。京の事は猿と佐久間に任せてよい。二人の監督で村井もいるから、動ける様になったら直ぐ動け」
「十兵衛。儂の倅は、今度は徳川様の所で働くそうじゃ。しかも、戦ではないのに」
「柴田殿。これは六三郎殿が、織田家に莫大な銭をもたらしたから、だからでしょう。ですが、三河国は昔から米の実りがそれ程良くない土地だと聞いております
なので、いつ頃領地に戻れるかも不明だから、この様な文を六三郎殿は殿に届けたのだと思いますが」
「十兵衛。お主の予想通りどおりだと、儂も思う。だが、これは徳川家の問題ではないのか?」
「柴田殿。確かに徳川家の問題ですが、万策尽きたと言っておりますので」
「全く。儂の倅は。織田家が天下統一したら、そのうち内政の仕事で奥州や九州で、此度の様に働いていそうじゃな。しょうがない。十兵衛!藤吉郎に全て任せて、岐阜城へ戻ろうではないか」
「その方が、六三郎殿も安心して三河国へ行けるでしょうな」
こうして、六三郎の希望どおりの展開になった。