身長が高い理由のひとつ
家康と於大様に出す牛乳を少し温めて、鍋とお玉ごと大広間に持っていって
「徳川様、於大様。こちらが於義伊様と於古都様が毎日、食事後に飲んでおります、温かい牛の乳です」
「牛の乳とな?」
「六三郎殿。人が口にして大丈夫なのですか?」
「安全性が疑わしいので、回収した直後や、冷えた物はお出し出来ませんが、一度沸騰させてから、飲みやすい熱さにした物であれば、大丈夫である事は、
拙者や家臣達は勿論、母上も飲んでおりますので、安心出来ます。それに、殿も飲んでおります」
「三郎殿も飲んでいるのか。ならば、大丈夫なのだろう。一杯いただこう」
家康が頼んで来たので、お玉で掬って入れまして、
「どうぞ」
「うむ。では」
家康は噛み締める様にじっくり牛乳を飲むと、
「これは美味い!母上、このほのかに温かい牛の乳は、砂糖が入ってないのに、微かな甘みも感じます。是非とも飲んでみてくだされ」
「そこまで言うなら、飲んでみましょう」
於大様も牛乳を飲んでみると、
「あらあら。微かな甘みが何とも美味な。それに、身体が温まる様に感じますね」
好評の様だ。で、不思議に思った家康が
「しかし、六三郎殿。何故、牛の乳を飲んでみようと思ったのですかな?」
「理由として、子牛が草と母牛の乳しか口にしてないのに、短い期間で働ける大きさになるのは、母牛の乳に
多くの滋養が入っているからなのでは?と思い、拙者や家臣達で試してみたのです。今では、村の者達も、
2日に一回、牛の乳を飲んでおり、於義伊様と於古都様が同年代の子供より身の丈が高い要因のひとつかと」
「成程。これは、岡崎の三郎にも竹千代にも知らせないといけぬ!六三郎殿、良い情報を教えていただき感謝する。
しかし、この牛の乳は、飲む事しか出来ぬのか?他に口にする方法があれは良いのだが」
「徳川様。実は、先程食した料理に、この牛の乳は使われていたのです」
「誠か?あの中に白い物は無かったが」
「はい。あの料理の中にパオンを刻んだ物かあったのですが、そのパオンを柔らかくする為に、牛の乳に漬けていたのです。
そして、牛の乳に漬けたパオンを、猪肉と混ぜ合わせて焼いたのです」
「成程。だから、あの料理は肉料理なのに、柔らかく子供にも食べやすかったのか」
「はい。そして、柔らかい料理だからこそ、親の真似をして料理を切り分ける事も覚えられる様になるかと」
「ふっふっふ。子供の身体と頭をひとつずつ強くしてくれておるのだな。これは、浜松と岡崎で料理人達に頑張ってもらわねばな」
「最低でも生焼けにならない様に気をつけていただければと」
「うむ。そこは徹底させよう。ところで六三郎殿。平八郎と小平太から聞いたのだが、赤備えの者達が、
毎日走っておる坂道や行なっている訓練があると聞いたのだが、先ずは坂道を見せてくれぬか?」
「見せるのは構いませぬが、徳川様。まさかと思いますが、走るおつもりですか?」
「いやいや、平八郎と小平太、更には万千代までもが動けなくなる程なのだから、儂は見るだけで良い。あくまで、浜松城の近くで作れるかを見たいのじゃ」
「かしこまりました。では、案内いたしますので、こちらへ」
と言うことで、俺は家康と数名を連れて、訓練用の上り坂に来ました
「徳川様。こちらです」
「おお。これが、して六三郎殿。この坂道をどの様な感じで走っておるのかな?」
「今から赤備えの皆の訓練を行いますので、見ていただけましたら、こういう感じと分かると思いますので」
「ならば、よろしく頼む」
「ははっ。では、赤備えの皆」
「「「ははっ!」」」
「徳川様より訓練の様子を見たいと御希望があった。だからといって、無理に気負わず、いつもどおりに訓練をやる様に」
「「「ははっ!」」」
「うむ。では、始め!」
「うおお!」
「次!」
「うおお!」
「次!」
で、全員いつものダッシュして上って、ジョギングで下ってをやり終えて、
「徳川様。これが、赤備えの皆が毎日やっている事のひとつです。次は身体を鍛える動きをお見せします」
「あの坂道を走った後にすぐやるのか六三郎殿?」
「ええ。疲れている時こそ、効果が高いのです。では、お見せします。皆、4種の動き、始めるぞ!」
「「ははっ」」
皆が腕立て伏せの体勢になる。そこから、
「いーち」
「「「いーち」」」
「にー」
「「「にー」」」
「さーん」
「「「さーん」」」
と、いつもの各40回を見せると、家康は
「これを毎日」
「はい。と言いましても、雨の日は、屋敷内にあります、屋内鍛錬場で身体を鍛えさせております」
「屋敷内でも身体を鍛えるとは。いや、見事。数年前、三郎からの銭を無心する文で、「家臣達が身体が逞しくなった事で自信がついた」とあったが、
これを毎日やれば、確かに身体は逞しくなるじゃろうな。六三郎殿の家臣の赤備え達を見たら、腕も脚も丸太の様に太いのに、身体に無駄な肉も無く、
身の丈も高い者ばかり。中には六尺はあるであろう者もいる。これは是非とも若い家臣や、家臣の子達に広めねば」
「徳川様。身体を鍛える事は、当然必要な事ですが、動いた分しっかりと食べないと痩せた身体になってしまいます。そして、身体を鍛えて、しっかり食べると同時に、
長く眠る事を推奨して、次の日にも身体を動かせる様に回復にも気をつけております」
「成程。六三郎殿。儂の護衛に来ている者達に、今の訓練をやらせてくれぬか?」
「「「え!?」」」
うん。護衛の皆さんが、「あれをやるの?」って顔をしてますね。でも、いきなりフルメニューは厳しいと思うので
「本多殿や榊原殿も最初は坂道を一往復し、4種の動きは20回ずつやっておりましたので、護衛の皆様にも、同じ様にやっていただいた方が良いかと思いますが」
「平八郎と小平太も最初は苦しんだそうじゃからな。六三郎殿の言うとおりにしよう。お主ら!遅くとも必ずやり遂げよ!良いな!」
「「「ははっ」」」
「よし!では、始めよ!」
「うおお!」
で、走りだしたんですが、
「甲冑を着て走っていた赤備え達より何故遅い!」
とか、
「下り坂では歩くなと言っていたではないか!止まってもならぬ!」
など、これまた叱咤なのか激なのか分からない声を家康は出し続けて、走り終えた護衛の皆さんは、
当然ポロポロなんですが、それでも家康は
「ちゃんと両足で立たんか!坂道を走るだけで終わりではないのだぞ!」
と護衛の皆さんに声をかけて、皆さんも何とかスタンバイして
「では、始めます。いーち」
俺が数えると
「「「い、い、いーち」」」
皆さんも腕立てしながらカウントするけど、
「声が小さい!」
と、再度家康から言われて、
「まだ半分しかやっておらぬぞ!」
回数をこなすのもやっとな状態で、なんとか全部を達成して、その結果、倒れる人、吐く人が出まして
「何とか達成した様じゃが、儂は決めたぞ!これと同様の坂道を、浜松城に作る!戦が無くとも身体を鍛えなければ」
うん。家臣の皆さん、浜松城に戻っても大変だと思いますけど、頑張ってください。