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若武者達の帰還と母の怨念

天正五年(1577年)二月二十四日

美濃国 柴田家屋敷にて


「六三郎殿。我々、明日の朝に近江国に戻って、戦の準備に取り掛かりたいと思います」


「この十日間、誠に世話になり、そして、為になりました。身体と頭を鍛えられ、赤備えの方々の戦の話も聞かせていただき、美味い飯も食わせていただき、誠にありがとうございます」


「母上が壮健である事、尾張国に居た頃よりも楽しんでいる事、誠に感謝しかありませぬ。これからも母上の事、よろしくお願いします」


「明日ですな。ならば、今日はのんびりと過ごしてくだされ」


「「ははっ」」


皆さんこんばんは。客人の相手をしております柴田六三郎です。その客人が明日帰るという事を伝えて来たのですが、俺はこの事をお袋に伝えないといけない任務が待っているので、


少し気が重いです。ですが、やらないと更に面倒くさい事になりそうなので、一応やりましょう


「母上。六三郎です」


「入りなさい」


で、部屋に入ったら、お袋だけでした


「母上。茶々達は」


「別の部屋に行かせております。それよりも六三郎。此方に来たという事は、伊都の息子と付き添いの者が帰る日が分かったのですね」


「はい。明日の朝、出立するそうです」


「そうですか。分かりました。六三郎、明日その二人が出立する前に大広間に留めておきなさい。


私は、その二人と話したいですし、渡したい物もありますから」


「はい」


こうして、俺とお袋の会話は終わったんだけど、お袋の怖さが前より増している気がするんだよねえ


天正五年(1577年)二月二十五日

美濃国 柴田家屋敷内にて


「「あの、六三郎殿。そろそろ出立したいのですが」」


「申し訳ない。もうしばらく待ってくださらぬか。どうしても、お二人にある物を渡したい人が居るのじゃ」


「は、はあ」


「一体どなたが」


俺の説明に2人は訳が分からない感じだった。そんな中、


「六三郎。待たせましたね」


お袋が入って来た。初めてお袋を見た2人は、その美貌に目が奪われていた。それをお袋も分かっている感じだけど、無視して上座に座る


「待たせましたね。自己紹介しておきましょう。私の名は柴田市。六三郎の父、柴田左京様の再婚相手であり、あなた達の主君の主君である、織田家右近衛大将の妹です」


「そ、そんな御立場の方が、我々にどの様な用があるのでしょうか」


「我々は、仕えている羽柴家ではまだまだ立場が下なので」


「静かになさい」


お袋が低い声で話すと、2人は静かになった。それを確認したお袋は、2人に質問をする


「さて、そちらの身の丈の高い若者、名は?」


「加藤虎之助でございます」


「あなたが伊都の息子ですが。では、付き添いで来たあなたの名は?」


「福島市兵衛です」


「虎之助と市兵衛ですね。あなた達の主君の羽柴筑前が今まで行なってきた、人でなしな所業をどれだけ知っておりますか?」


「殿が人でなしな所業など」


「知っておるかを聞いているのです。余計な事は言わないでください」


お袋の口調と顔は優しいけど、めっちゃ怖い。10日前のお袋よりも更に怖さが倍増してる。多少の免疫がある俺でもビビるんだから、


初見の2人は、2月の寒い時期なのに汗が止まらない。そんな2人にお袋は


「おや、答えられないのですか?ならば、質問を変えましょう。智の長男が無理矢理連れて行かれた事、


更には調略の為に、別の家に養子という名の人質に送った事。これは人でなしの所業だと思いませんか?」


「そ、それは」


「わ、我々には」


2人共、ガタガタ震えてる。まあ、何も言えないよな。大変な事になるだろうからな


「これも答えられないのですか?では、羽柴筑前が大領を得る事になった、浅井攻めの話は?」


「あ、浅井攻めは真っ向勝負を仕掛けたと聞いております」


「い、戦に関しては奥方様が仰る様な、人でなしな所業は無いかと」


「成程。筑前は、戦の事後処理の話をしておらぬ様ですね」


マズイ。お袋のスイッチが入ってしまった。もう、俺に出来る事は、ほぼ無いぞ


「あの、奥方様。事後処理と言いますと」


「知らぬ様ですから、教えてあげましょう。筑前は、浅井を滅ぼす為に、私の兄からは「浅井の嫡男を見つけろ」としか言われてないのにも関わらず、


嫡男を見つけた後、わざわざ磔にして槍で串刺しにしたのです。これが斬首ならば一思いに死ぬ事も出来たでしょう


ですが、筑前は手柄欲しさに、あえて残虐な、人でなしな方法で浅井の嫡男を殺したのです」


「そんな事が」


「私がこの事を知っているのは、柴田家に嫁ぐ前に浅井家に嫁いでいたからです。戦の世だから討死や処刑があるのは致し方ないと分かっております。


ですが、兄上に聞いたら、浅井の嫡男は、満福丸は、生かして養育する事も考えていたし、処刑するにしても斬首が早く済むから、それをやろうと考えていたと。


それなのに、筑前が!己の出世の為に!磔にして串刺しなど!」


お袋が立ち上がってる!ヤバい!これは止めないと


「母上!落ち着いてくだされ!」


お袋を羽交締めしたけど、お袋も170センチ近くあるから俺1人では無理だ


「利兵衛!母上を捕まえてくれ」


「は、はい。奥方様。申し訳ありませぬ」


「離さぬか!筑前の家臣である二人に、筑前の人でなしな所業を聞かせてやる」


「母上!虎之助殿と市兵衛殿は、その当時元服もしていなかったのです!その2人に怒りや恨みをぶつける事が間違っているのは、母上も分かっているはずです!!」


俺の言葉にお袋の動きが止まる。そして、一呼吸置いて、


「う、うわああああ!」


泣き崩れた。流石にこれ以上話すのは無理だろうから


「利兵衛。母上を部屋へ」


「はは」


利兵衛にお袋を任せて、俺が上座に行くと、お袋が2人に渡したいのか、秀吉に渡して欲しいのか文があった。この事を言って、帰ってもらおう


「虎之助殿。市兵衛殿。母上が申し訳ない」


「いえ」


「我々は何もされてないので」


「そう言っていただき、忝い。この文は母上が書いた物じゃが、申し訳無いが羽柴様に渡してくださらぬか?」


「「は、はい」」


2人が浮かない顔をしているけど、門までは送ろう


「「では、我々はこれで。お世話になりました」」


「虎之助殿、市兵衛殿」


「「な、何でしょうか?」」


「もしも、武士としての信念に迷いが出たりしたら、また柴田家に来たらよろしい。ただし、この事は主君である羽柴様にも言ってはいけませぬ。2人の胸の内に留めておいてくだされ」


「は、ははっ」


「分かりました」


「それではお元気で。いつかまた」


こうして2人は帰って行った。

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― 新着の感想 ―
これは、加藤と福島の離脱フラグ…? 賤ヶ岳七本槍の筆頭と次席が抜けたら羽柴家の武はかなり不安な事になりそうな
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