母と子の再会のはずが
天正五年(1577年)二月十五日
美濃国 某所にて
「虎之助。近江国と同じくらい、美濃国は冷えるな。殿の仰る通り、寒さ対策をしておいて良かった」
「市松。いや、元服したのだから市兵衛か。市兵衛、儂が母上に会いに行くのに、何故お主も着いてきておる?」
声の主は加藤清正と福島正則。清正は柴田家で働いている母親に会う為に美濃国へ来ていた。その道中、本来なら用事が無いはずの正則が居る理由とは
「付き添いじゃ。虎之助は母君に会いに行く、儂はその付き添いで、吉六郎殿、いや、元服して六三郎殿か
六三郎殿の家臣の赤備えの方々に、武田の砦を赤備えの力だけで陥落させた話を聞きたいし、何なら訓練にも参加させて欲しい
そして、佐吉に色々言われた理財や内政の事も、ほんの少しで良いから学びたい。長浜城では今更教えてくれとは言えぬ」
「市兵衛の気持ちも分からんではないが、殿も小一郎様も「出来る者がやったら良い。人には得手不得手がある」という考えだからのう」
「だからこそじゃ!柴田家は織田家の銭を増やした内政や理財が巧みな家と聞いた。軍勢も理財も見事な家ならば、学ばせていただきたい」
「殿がお主の事まで文に書いてあるかは、分からぬぞ?」
「なに、六三郎殿が昔と変わってなければ儂の事もどうにかしてくださるはずじゃ。その為の手土産も持って来たのだからな」
「とりあえず世話になるのだから、迷惑をかけてはならぬぞ」
「分かった分かった」
話しながら歩いていると、柴田家屋敷の門まで来た。そして、
「門番の方、拙者は織田家家臣羽柴筑前守様の家臣の加藤虎之助でございます」
「同じく羽柴筑前守様の家臣の福島市兵衛でございます」
門番をしていた赤備えの者に挨拶した。そして、
「おお!伊都殿の倅か!若様から話は聞いておる。しばしお待ちくだされ。誰ぞ!若様が仰っていた、
伊都殿の倅と付き添いの者が来たと若様と伊都殿に伝えてくれ」
声が聞こえたのか、六三郎が出て来て
「久しぶりじゃな!夜叉丸殿、ではなく虎之助殿。と、市松殿?」
「「お久しぶりでございます。六三郎殿」」
「まあ、立ち話をさせるわけにもいかないので、中に入ってくだされ」
こうして清正と正則は屋敷の中へ入った。そこで、
「市松殿は元服して、市兵衛殿となったのですか」
「はい。良い名が思い浮かばないので、祖父の名を使わせてもらいました」
「元服の名が思い浮かばないのは、拙者も同じくです。拙者の場合は殿が名付けてくれたから助かりましたが」
「それは大殿からの期待の現れですな。しかも六三郎殿は、その期待に応える様に初陣で武田の砦を陥落させたと聞いております。なあ虎之助」
「一体どの様な軍略や策を使って、武田の砦を陥落させたのですか」
「拙者は家臣の赤備えの皆に「暴れて来い」と命令しただけですぞ。まあ、少々特殊な武器を持たせて、
その武器を砦の内外問わず投げていましたが。まあ、砦を守っていた武田の者達も、
赤備えの鍛えぬかれた身体を見て、恐怖を感じたかもしれませぬな」
六三郎がそう話すと正則は
「六三郎殿!お願いがございます」
と姿勢を正して来た
「市兵衛殿。お願いとは?」
「此度、虎之助は母君に会う事が目的ですが、拙者は赤備えの方々と共に訓練を行い、そして、柴田家にて理財を学びたいと思い、殿に了承を得ましたが、
殿曰く「それは柴田家次第」と言われました。なので、滞在中は色々学ばせてもらえないでしょうか?」
「成程。市兵衛殿が虎之助殿の付き添いの理由は、それだったのか」
「はい。門番の赤備えの方々の屈強な身体を見たら、拙者や虎之助の身体は牛蒡みたいなものです。
柴田家で自らを鍛えて、その鍛える術を羽柴家に持って帰れたら、後々戦う本願寺をも壊滅させる事も可能かと」
「まあ、身体の事は赤備えの皆と同じ事を此処と近江国でやれば、少しずつ鍛えぬかれていくと思うが、
理財に関しては、羽柴様の家臣の誰かしらは教えてくださらぬのですか?」
「六三郎殿。羽柴家では「出来る者がやったら良い。人には得手不得手がある」という考えで、得意なものを伸ばす方針なのですが市兵衛は、
その結果、武芸の鍛錬を頑張ったのです。更に言うならば、理財が苦手なだけでなく、理財を教えられる者が少ない事も、市兵衛が理財の事を分からなくてさせている要因なのです」
これを聞いた六三郎は
(史実の福島正則って、内政も比較的出来る人だったはずだよな?でも、今思えば、内政が出来る様になったのは、そこそこ大きい領地をもらってから内政を覚えたからかもな
今はまだ10代だから、内政の大切さは分かっているけど、基礎部分も怪しいレベルという事か。これは、
大野兄弟と一緒に利兵衛の指導を受けさせるか。赤備えの訓練もやりたいと言っていたし)
「よかろう!市兵衛殿も赤備えの訓練に参加してもらおう。その後、理財の基礎を学ぶ機会も作りましょう」
「無理を聞いていただき、忝い」
「ただし!」
「な、何でございますか?」
「昔やった猪退治や鹿退治に参加してもらいますぞ!虎之助殿もです」
「「是非とも」」
(嫌がるかと思ったら、めっちゃやる気だ。近江国ではそう言った事はやらせてもらえなかったのか?
まあ、いいか。とりあえず少しは働いてもらおう」
「では、虎之助殿、伊都殿を呼ぶから、久しぶりの親子水入らずを過ごしなされ。伊都殿!」
俺が伊都さんを呼ぶと、何故か智さんに連れて来られた
「母上!と叔母上?」
「そう言えば、お二人は柴田家で働いておりましたね」
智さんの顔が怖いので、何か嫌な予感がする。頼むからトラブルはやめてくれよ?