食べる人の為の料理
準備が全て整った俺は、親父と明智様が許可をもらった事で、鍋1つと持ち運べる小さい竈門5個を手伝ってくれてる人の協力で、皆さんの前に持って来た。勿論、本願寺のクソ坊主共からは、
「主上の前にその様な物を持ってくるとは、やはり武士は粗暴よな」
とか、
「料理人が居ないからとは言え、見習いの様な子供に作らせるとは」
などのイチャモンも飛んできたけど、そんなのは無視だ。鍋の中には、最初の一品が入っている。小さい竈門でも火力は充分あるから、鍋から湯気が上がりはじめる
そこから少し待って、出せる状態になったので出します
「お待たせいたしました。織田家側から最初の品をお出しします。此方です」
そう言うと俺は鍋の蓋を開ける。中身は根菜たっぷりの味噌汁だ。それを見た本願寺側は
「待たせるだけ待たせておいて味噌汁とは。悪ふざけにも程がある。これは食べずとも」
とごちゃごちゃ言ってたけど、主上は
「いや。いただこう」
と、言って側の人を取りに行かせた。側の人は念の為の毒味をするけど、
「美味い」と、とても小さく呟く。そして、お椀に味噌汁を入れて主上へ持って行く。主上は
「香りが素晴らしい。だが、味はどうじゃ?」
と言いながら、一口すする。すると、
「美味い。いつも飲んでおる澄まし汁とは違う美味さ。しっかりと火を通した野菜もまた美味い」
と、良い反応を見せてくれました。で、まさかの
「織田家の料理番よ。次の料理を出してくれぬか。」
催促が来ました。勿論、俺は
「はい」
と返事をする。次の料理に使う道具を取りに行ってくる。道具は油が入っている揚げ物用の鍋だ
「ほう。次は油の入った鍋か」と主上が興味を示すと、本願寺のクソ坊主が
「主上!この様に大量の油を使う事は、御所や御身に火がついてしまうかもしれませぬ。即刻やめさせるべきです」
と、またごちゃごちゃ言って来た。そしたら殿が、
「主上。万が一にも御所に火がつきましたら、織田家が修繕費用を全額お出しします。なので、この場は料理をお食べ願えますでしょうか?」
と助け舟を出してくれた。それに主上も
「そうじゃな。万が一、御所に火がついたら弾正忠。修繕費用を頼むぞ。それでは若者よ。料理を作るが良い」
「ははっ」
許しも出たので、油を温める様に持って来た、追加の小さい竈門5個に火を入れて、鍋にかける。
油を温めている間に、事前にとっておいた昆布の出汁を温めて、溶かした小麦粉を入れる。片栗粉には負けるけど、小麦粉でも多少の粘り気は出るから、
これで準備はオッケーだ。で、揚げ物用の油も箸を入れたら適温になった様なので揚げる物を投入しましょう。
「ほう。豆腐を油の中へ入れるのか」
そうです。今から作るのは揚げ出し豆腐です。じっくりと豆腐を揚げて、火が通った頃合いで油から取り出して、その上から擬似餡と刻んだネギをかけて
「完成です」と言うと、また側の人が毒味に来て、食べる。「熱いので気をつけて」と言ったら、少しずつ食べた。ハフハフ言いながら、熱さ以外は問題ないと
判断した様で、主上の前に持って行った。主上も
「とても熱い料理の様だな。少しずつ冷まして食べてみよう」
と言ってフーフーと息をかけて、少し冷まして食べる。
「これも美味いのう。豆腐は冷たく食べるものとばかり思っていたが、この様な食べ方もあるとは。そして、豆腐の上にかかっている、とろみのある汁と葱が、
豆腐の単調な味に変化をもたらしておる。素晴らしい。美味かったぞ。次の料理を頼む」
「ははっ」
俺は次の料理の準備の為に、油の入った鍋を台所に戻しながら、次の料理の入った鍋を持って来た。
その鍋を小さい竈門にかける。ジュウジュウと焼ける音が聞こえてくると、また本願寺のクソ坊主が
「待てい!お主、禁止されておる獣肉を使っておるな!主上!この様な不敬者!即刻死罪にすべきです」
と、暴言吐いて来た。だけど主上は、
「本願寺の者よ。朕は今、耳と目で料理を楽しんでおる。舌で楽しむ美味い料理が耳と目でも楽しいなど、
そうそう無いのじゃ。だから、しばらく黙っておれ!」
クソ坊主を一喝して黙らせた。やっぱり権威に気迫が加わると、誰も勝てないんだな。と、俺が感じた所で、
一度、火の通りを確認です。うん。大丈夫だな。俺は鍋の中の者を皿に取り出して、肉汁だけが残った鍋に酒と味噌を入れて煮立たせる
煮立たせたソースを、最初に作った物にかけて
「完成です」と言うと、またクソ坊主が
「やはり獣肉を使っておるではないか!主上」
噛みついて来た。けど、
「毒味役の者に食べさせたら分かる」
と言って黙らせた。で、毒味屋の人が一口食べると、
「これは獣肉ではありませぬ。先程食べた豆腐です」
「し、信じられぬ!」
「嘘じゃ!」
とクソ坊主共が喚いている中で、毒味役の人が料理の皿を主上に持って行くと、主上は先ず一切れ食べた
「これも美味い。そして、これは豆腐を使っておる。間違いない。豆腐と中に入っておる野菜の旨味だけでなく、
この汁が濃厚な味なれど、くどくない。うむ。これも美味かった。次の料理を頼む」
主上は豆腐ハンバーグも美味しいと言ってくれました。肉を使わないで腹に溜まる美味い物で、最初に思い浮かんだやつだったけど、作ってよかった
で、次の料理なんだけど、次は甘味で締めたい。無理して主上が「腹が辛い」なんて事になってしまったら、最後のちょっとボリューム有る甘味が食えないかもしれないし、
それを伝えたくて、殿と近衛様を見ると、
「主上。この者が直言したいそうですが、宜しいでしょうか?」
「きっと、料理に関する事かと」
2人に俺の考えが伝わった様で、言いたい事を言ってくれた。で、主上から
「うむ。直言を許す。若者よ、何か言いたい事があるなら申してみよ」
「ははっ。では失礼ながら、次にお出しする料理が最後になります。最後は甘味をお出ししたいのですが、宜しいでしょうか?」
「うむ。まだ食べられるが、程々に、それこそ腹八分目にして、甘味をもらおう。持ってくるがよい」
主上に言われたので、台所に行って最期の料理道具を持って来た。それを見た主上が
「ほっほっほ。最期は蒸した物か。しかも、蒸した甘味とは。なんとも楽しみじゃ。また、しばし待つのも一興じゃな」
と言って、しばらく待つ事が出来た。主上の指摘どおり俺の持って来た道具は蒸籠で、中には蒸したら美味い甘味が入っている
で、蒸す事およそ20分。辺りに甘い香りが漂っている。毒味役の人どころか殿までソワソワしている
良い頃合いなので、蓋を取って中を見て手に取ると、
水っぽさも粉っぽさもない。完成した。
「完成です」と、蓋を揚げて皆さんに見せると、中には一口サイズの中華まんが入っていた。甘味なので中身は当然、あんこです
で、待ちきれないのか毒味屋の人が近くに来て、試食です。
「温かい甘味が、これ程美味しいとは」
と、感想が聞こえてきます。そして、皿に取り分けて、主上の元へ
「ほお。食べやすい大きさに切り分けた、出来立ての饅頭とは。どれ」
先ずは一つ目を食べる。
「おお。これは小豆じゃな。充分に濾されておるのに、小豆の味が分かる程に美味い。うむ、次は」
二つ目に手を伸ばして
「おお。これは同じ小豆なのに、粒が残っておる。しかし、充分に火が通っておる様で、噛み締めれば噛み締める程、美味い。そして、濾された物と微妙に味が違う。うむ。次の物も食べねば」
と三つ目を掴んで
「おお?これは、先程までのふたつとは違い、中に濾された小豆もあるが小豆以外の物が入っておる。何処かで食べた事のある味じゃ。
若者よ、この饅頭に入っておる小豆以外の物はなんじゃ?」
「それは栗でございます」
「栗とな?栗は固いものなのに、この絶妙な歯応えは、どうやって出したのじゃ?」
「水の量や火加減を調節して、最後に蒸すときまで試行錯誤を繰り返した結果にございます」
「ううむ。何とも見事な料理の腕じゃ。その執念を褒め称える意味を込めて、最期の饅頭もしっかり食おう」
と、四つ目を口にすると
「おおお!これは!先程食べた栗と小豆があるが、小豆の粒が残っておる!何とも見事な腕前じゃ。料理も美味いが、甘味も美味いとは。
だが、ひとつ聞きたい事がある。此度、朕に出した料理はどの様な意図があるのか教えてたもれ」
「はい。秋になりまして冷えてくるこの時期に冷たい物ばかり食べては、御身に宜しくないと思いまして、
温かい料理をお出しする事を決めました」
「食べる者の身体を考えた料理というわけか。見事な心遣いじゃ。若者よ、名はなんと申す?」
「柴田六三郎と申します」
「六三郎か。きっと父親が良い育て方をしたから、その様な心遣いの出来る若者に育ったのじゃろうな」
「有り難きお言葉にございます」
「うむ。それでは、此度の織田家と本願寺の料理対決も兼ねた会食の結果じゃが、朕の裁決として、
織田家の勝利とする!」
主上の言葉に、
「主上!何故でございますか!?」
「我々の料理が、この様な小童に負けるなど有りえませぬ」
と、イチャモンをつけてきました。これ、どうやって収まるの?