家族が増えたし銭も増やそう
天正四年(1576年)八月八日
美濃国 柴田家屋敷にて
「うふふ。文はいっぱい乳を飲んでますねえ。きっと、茶々達と同じく子供の頃から身の丈が高くなるでしょうね」
皆さんおはようございます。お袋と一緒に先月産まれたばかりの末の妹の側に居ます、柴田六三郎です
先月産まれた妹なんですが、親父は産まれた翌日、仕事で京に戻る前にお袋に「娘の名付けを殿にお願いしようと思うのだが」
と、言ったらお袋が「絶対駄目です!三郎兄上は、我が子に奇妙だの、茶筅だのと、見た目や直感で名前を決めるのですよ!男児なら後に元服して名前が変わるからまだしも、
娘は変わらないのですよ!万が一にも娘に可愛らしさのかけらも無い名前をつけられる可能性も有るのですから、私達で決めましょう」と凄い剣幕で親父を叱ってました
で、俺も名付け会議に参加させられまして、親父はお袋の名前と領地から取って「市美」なんて、提案してお袋から
「権六様!ちゃんと考えてください!」と怒られて、
次に茶々が「母上!美しい四姉妹という事で「美四」とか、どうでしょうか」と言ったら、
「まあ!何て良い名前。でも、他の候補も聞いてみたいですねえ。初!あなたは何か考えてますか?」と初を指名して、
「母上!美しい妹が家族に加わったのて、「美加」など、どうでしょうか」
「それも良いですねえ。でも、まだ候補を聞きたいです。江!あなたは何か考えてますか?」と江を指名して江は
「母上!妹が蝶や花の様に人々を魅了して欲しい願いを込めて「蝶花」は、どうでしょうか」
「もう!何て素敵な名前ですか。美四姫、美加姫、蝶花姫。どの名前でも、素敵ですね」
俺はこの時のお袋を見て、「出産ハイ」ってこういう事を言うんだなと冷静でした。で、そんなお袋は
「六三郎!当然、あなたも考えているでしょうね」と指名されたので、自分のネーミングセンスだと、確定しないと思っていたので、
「母上!産まれたばかりの妹に過度な期待がかかった名前をつけるのも申し訳ないので、産まれた月からそのまま「文」は、どうでしょうか?」
俺が名前を発表すると、一瞬静かになった。これは大スベリしたかと思ったら
「「文」ですか。呼びやすいですし、出産で浮かれていましたけど、確かに過度な期待は子には辛いでしょう。決めました。
四番目の娘の名前は「文」とします!茶々、初、江。素敵な名前を考えてくれたのに、ごめんなさいね」
親父の提案した名前はお袋的には、素敵な名前ではなかった様です。そして、茶々達は
「私達も呼びやすいから、文が良いです」
「そうです!分かりやすい名前でも、美しくなるのですから」
「可愛い妹に変わりありません」
と、新しい妹の名前に賛成してました
「ふふ。三人がそう言ってくれて、母は嬉しいです。権六様。京へ戻る途中に三郎兄上の元へ行くと思いますが、
「名前は決まったから名付けは結構」と、私が言っている事をしっかりと伝えてくださいね」
「分かった分かった。それでは、儂は出立するから、六三郎!皆の事を頼んだぞ」
「ははっ!父上もお気をつけて」
と、いうやり取りがあって、末の妹の名前は「文」に決まりました。本当に我が家は現在、幸せに包まれておりますが、親父が北陸方面軍の総大将に決まったら、
史実どおりになってしまうし、何とかそれだけは避けたい!お袋なんて、三十才なりたてだよ。この時代だと人生の折り返し地点かもしれないけど、
戦で前の夫の浅井長政を早くに亡くして、本人は一緒に死にたかったらしいけど、娘達の為に生きろと説得されて茶々達と城から落ち延びて、三十郎様の元で
保護されていた所に親父との再婚が決まって、新たに子供を産んで、現在幸せなんだけど史実どおりに進んだら、その幸せも残り7年で終わりだしな
輝一郎が俺に対して言った、「母に平穏な暮らしをさせたい」という思いは俺も一緒だな。
それに、妹が産まれて、源太郎夫婦の子も産まれてくるんだから、更に金を稼がないと、また財政危機になってしまう。それも避けないといけないからな
皆のアイディアを聞いてみよう、先ずは利兵衛だな
「若様。何かありましたでしょうか?」
「うむ。利兵衛、柴田家は新たな子が産まれ、赤備えの大将である源太郎夫婦もこれから子が産まれる。
はっきり言ってしまえば、これから銭を増やさないと、子達も大人達も空腹で過ごさないとならぬが、
その様な状況を避ける為に、新たに銭になるものを見つけたいし、作りたい。利兵衛よ、何か提案はないか?」
「若様が京や堺で売って、莫大な銭を稼いだ麦粉の次の銭になるものですか。今や、美濃加茂村と、隣の関川村の麦は上質であると商人達が買いに来るのを、
織田様が混乱と値崩れ防止の為に、必ず岐阜城に持っていく程の価値ある物になったのに、その麦の次ですか」
「そうじゃ。父上はいつ移動するか分からぬが、越前国へ領地替えが決まった。それまでに、出来る限り銭を蓄えておきたい。越前国へ移動した時に、米を含めた食す物が無い場合、殿に銭を渡してから
届けてもらったり、近隣の商人から買う形になる。そうなった時の為に銭を増やしておきたい。それは銭になるものを増やす事にも繋がるじゃろう」
「確かに若様の仰るとおりですが、米と野菜と麦以外だと、他には竹を竹炭として売るのも良いとは思いますが」
「それは儂も考えたが、銭目的で竹を大量伐採したら、いくら竹が成長の早い植物でも、地滑りが起こる可能性が高まる。銭は稼ぎたいが領民が苦しんではならん。重税など、もっての他じゃ」
「若様はやはり、領民の事を最優先に考える為政者ですな。若様、麦の時みたいに屋敷内で考えずに、
外に出て源蔵を始めとする者達から色々聞いてみてはどうでしょうか?勿論、赤備え達を護衛に付ける事は忘れないでくだされ」
「そうじゃな。久しぶりに色々聞いてみよう。輝一郎達も外での学びと言う事で連れて行ってみるか」
「良き考えかと」
「よし!ならば、源次郎に護衛の人選を決めてもらってから、村に行こうではないか!」
こうして六三郎は、銭になる物を探しに出た。




