訓練で死にかけても
「さて3人共。儂の家臣として仕えたいと申すならば、普段赤備え達が行なっている訓練の三分の一くらいは出来ないと、儂としてはお主達を召し抱えられぬ。
先ずは、体力的な部分を見るが、目の前の上り坂を見てみよ」
俺が指差した先を見た3兄弟は
「あ、あれ程の上り坂で何をするのですか?」
「あんな上り坂、馬でも辛いのでは?」
「ま、まさかと思いますが、あの坂を」
予想通り、ドン引きしてた。三男坊の光三郎は勘がいい様で
「光三郎よ。お主は勘が良い様じゃな。その「まさか」じゃ。赤備え達は毎日、あの坂を上る時は出来る限り全力で走り、下る時は止まらず、歩かず、小走りで下るを3往復する事が、訓練の開始じゃ」
「あ、あの坂を三往復」
「もっとも、お主達は赤備え達より歳は半分以下じゃ。一往復出来るか見せてもらおうか」
「あ、あの坂を」
「出来ないのであれば、無理にやらなくても良いぞ」
「兄上。輝一郎達は上り坂を走らないのですか?」
「姉上や初でも出来るのに?」
俺は諦めてもらうつもりで言ったが、妹2人の言葉にダメージを負った様で、
「やります!やらせていただきます」
と、ヤケクソ気味にやる意志を見せた。その結果、
「こ、これで、家臣、と、して、召し、抱え、て、いた、だ、け、ます、か?」
長男の輝一郎は何とか喋る事が出来てるけど、正二郎と光三郎は、完全にダウンしてる。だからと言って、
「体力戻るまで休んでていいよ」とはならないんだよ。次は筋トレを頑張ってもらおうか。
「3人共、何か勘違いをしておる様じゃが、坂道を往復出来たからと言って、直ぐに家臣にはせぬぞ?」
「そ、そんな、約束が」
「いつ約束した。約束を交わした証文はどこに有る?のう、輝一郎よ。お主も弟達も、戦の華々しい表の部分しか見ておらぬ様じゃな。
赤備えの皆は勿論、儂の父も、そして、織田家中の戦場に立つ人間全員、天賦の才で戦っておるわけではないのだぞ。辛く厳しい訓練で肉体を鍛えて、
軍略の書物を読みながら、知識を蓄えたりして、戦場で武功を挙げて、出世する事を夢見ながら、日々精進しておる。
お主達は、ただ武家に仕えておれば、食い扶持に困らないと思っておるだけならば、儂は召し抱えられぬぞ?赤備えの皆と体格が違うから、
回数を減らしたのに、それでも次の訓練が出来ぬと申すならば」
「やります!やらせてくだされ。確かに、戦の華々しい表の部分しか見てこなかった事は事実でございます。
ですが、食い扶持の為だけではなく、我等兄弟が全員出世して、母上が平穏な暮らしを送れる様にする為です。なので、次の訓練をやらせてください」
「良かろう。輝一郎、正二郎、光三郎。今から赤備え達がやる動きを、お主達は十五回出来るか、見せてみよ」
「は、はい」
と、いうわけで、赤備え達が筋トレの見本を見せてから、三兄弟の筋トレ開始です
「うおおお!う、腕が」
「ま、負けぬぞ!」
「ああああ!」
3人共、声を上げながら、気合いで腕立て伏せはクリアしました。
で、腹筋は
「は、腹がちぎれる!」
「い、痛い!」
「気合いじゃあ!」
腹筋も何とかクリアして、次は背筋だけど、
「せ、背中が!」
「体勢が保持出来ぬ」
「こ、腰にも痛みが」
騒ぐ声が大きくなって来ましたが、背筋もクリアしましたね。最期はスクワットです
「あ、あ、足が言う事をきかぬ」
「か、身体が鉛の様に重い」
「負けぬぞおお!」
と、最期の方はだいぶ時間がかかりましたが、何とか全部クリアしました。当然、3人共ぶっ倒れてます。
まあ、身体と根性は強い様だけど、頭の賢さも見ないといけないからな
「さて、3人共。身体と根性は強い様じゃな。だがな、柴田家では前線で戦う者達以外にも、後方から武器や食料を支援する為に、頭の賢さも鍛えておる。
これからの柴田家次第ではあるが、後方から支援する者も少なからず領地や金銭を俸禄として支給出来る様に考えておる。
それこそ、お主達の母である、たみ殿からしたら、3人の息子全員、前線に出て討死などしたら、平穏な暮らしも無意味になってしまう。
それならば、3人の息子のうち、1人は後方からの支援に就く事を望むであろう。その時の為に、誰が適性が有るかを見るぞ。基礎を教えておる利兵衛の所に行くぞ。着いてこい。
源太郎。茶々と初の事を頼むぞ。我儘を言う様であれば、儂を呼べ」
「若様。せめて、源次郎達数名を護衛につけてくだされ」
「分かった」
で、源次郎と銀次郎と新左衛門が護衛についた後、
「兄上。私達は赤備えの皆と身体を動かしたら、ちゃんと戻ります」
「そうですよ。我儘なんて言いません」
「はっはっは。済まぬ。だが、兄はこの3人が頭を使う事にも耐えられるか見てくるから、赤備え達の側を離れるでないぞ」
「「はい」」
「良い返事じゃ。それでは兄は行ってくる」
と言う事で、利兵衛の所にこいつらを叩き込んで、文官の適正チェックと、性格の矯正を含めた指導だな。