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挨拶周りで終われない父と母

天正三年(1575年)九月十日

美濃国 柴田家屋敷内にて


「古茶様。六三郎の父の権六でございます。挨拶が遅くなり、申し訳ありませぬ」


「母の市でございます。此方に来る前にお話は伺っております」


「六三郎様には勿論、赤備えの皆様にも、女中の皆様にも、お世話になっております。いつ頃になるか分かりませぬが、


浜松城からの使者が来る日までは、今しばらくお世話になります。申し訳ありません」


「何を仰るのですか。むしろ拙者としては、六三郎が古茶様に辛い思いをさせてないかと」


「六三郎様は、私や子供達の事情を知っていて尚、心穏やかに過ごせる様に務めてくださいました。


誠に柴田様の子育てが良かったから、あれ程の出来た若武者になったのだと思っております」


「徳川様の御側室である古茶様が、倅の事をお褒めいただき誠に嬉しい限りでございます。


それに倅は古茶様もお子達も、しっかりとお世話をしている様で、於義伊様と於古都様が、屋敷内で知らない場所も無く、


赤備え達を見ても泣かないのは、ほぼ全員に慣れておられるのだと」


「その通りです。子供達も、共の者が居たら屋敷内を休みなく走り回っております。本当に六三郎様が、


分け隔てなく接してくださったからでございます。それに、市様は素晴らしい母なのでしょうね。


姫様達が、子供達と一緒に遊んでくださるなんて、

現状、子供達に歳が近いのは三吉様と小吉殿くらいで、


水野様の松千代様は、子供達よりも下の子ですから、

子供達には遊んでくれる数少ない人が増えた。と、思っているかもしれません」


「そう言っていただいて、忝い。では、次は水野殿の元へ行きますので、我々はこれにて」


「はい。誠にありがとうございます」


そう挨拶を交わして、勝家と市と三姉妹は古茶達親子の部屋を出た。


そして信元の部屋へ向かう道中、


「父上、母上。於義伊様がとても可愛かったです。兄が出来たのですから、弟も欲しいです」


「私も弟が欲しいです」


「私も」


と、まさかの願望を出して来た。これに2人は


「そればかりは」


「三人とも、それは色々と準備が大変だから、直ぐには出来ないから、じっくりとです。いいですね?」


「「「はあい」」」


と、三姉妹を納得させた。話しているうちに信元の部屋へ到着し、市と三姉妹は信元の側室の沙耶と嫡男の松千代の所へ行っていた


「水野殿。およそ四か月ぶりになるが、倅はちゃんと学んておりますかな?」


「柴田殿。六三郎殿は、儂が教えた一の事を自らの知恵で、三にも四にも変えておる。その際たる例が、


元服後の初陣だった、武田の砦を壊した戦じゃろうな。現状では自らの武芸が赤備え達に劣る事を自覚しているからこそ、


源太郎に采を託して暴れて来いと命令していたが、赤備え達が六三郎殿に心酔しておる理由が分かる事が、


砦の中に隠れていた者達を捕虜として確保していた時にあったのじゃがな」


「どの様な事だったのですか?」


「確保されたのは砦を守る大将と副将と思しき二人だったのじゃがな、源太郎と源次郎の兄弟は勿論、二人の父親も知っている様だったのじゃが、


大将も副将も六三郎殿に対して「こ奴らの父は裏切者だから、こ奴らもいつか裏切るぞ。こんな奴らよりも、自分を召し抱えた方がと言ったら


「儂の大切な家臣と、その父上を愚弄する事は許さぬ」と言って、大将の喉に刀を刺したのじゃ」


「それは、倅が珍しく怒り狂っておるな」


「残った副将には問答無用で首を切り落としたが、家臣の事を愚弄されて怒る主君は星の数ほどいても、


家臣の父を愚弄されて怒る主君は、そうそう居ないからこそ、赤備え達は心酔しておるのだろうな」


「赤備え達にとって、倅はそれほどの主君か」


「話を変えるが、柴田殿。六三郎殿が「父上に嫁を」と希望していた場に儂も居たし、嫁に来て欲しい女子の条件も聞いていたが、まさか殿の妹のお市様が、


柴田殿の新しい嫁に決まるとは。儂はお市様の性格などは分からないから偉そうな事は言えぬが、


お市様は六三郎殿の出した条件に当てはまる女傑なのですか?」


「女傑がどうかは今のところ分かりませぬが、行動力に関しては、倅と同等かと」


「そうですか。まあ、徐々に互いを知っていくでしょうから、拙者の様な外野は何も言いませぬが」


「忝い。そして、三吉の師としての役目も担ってくださる事も感謝しかありませぬ。越前国へ引っ越した後も、まだ師としての役目は続くと思うが、よろしくお頼み申す」


「殿には、畿内での戦は諦める事を伝えたが、畿内以外の戦には参戦する許可をいただいておるから、


お役目をしつつ、教えている六三郎殿や赤備え達の軍略の才を戦で見る事になるから、楽しんでおる。



柴田殿も、遅くても来月には京へ戻るのだろう?今は久しぶりの家族団欒を堪能したら良い」


「お言葉に甘えさせていただく。倅達の事、引き続きよろしくお頼みもうす」


と挨拶して、信元の部屋を出た。


その後、赤備え達と水野家の兵達の訓練を見に来たが


「次!」


「うおおお!」


「次!」


「うおおお!」


坂道ダッシュの最中だった。そして、筋トレに入り


「始め!」


「いーち」


「「「「いーち」」」」


「にー」


「「「「にー」」」」


と、腕立て伏せから始まるいつものメニューをやっていた。元服した事もあって六三郎も参加している


そして全部のメニューを終えて、少しだけの休み時間に入り


「父上、母上。妹達も。水野様や古茶様への挨拶は終わったのですか?」


「うむ。終わったのだが、六三郎よ。この訓練を毎日やっておるのか?」


「はい」


「まさかと思うが、これで終わりというわけではないよな?」


「父上。これは準備運動です。今から屋敷の周囲を甲冑を着ながら二周走ります。そこまでやった後は、個人に任せたり、水野様の教養を座学で学んだりしております」


「そうか。ならば、今日は屋敷周りを走り終えたら、儂が全員に稽古をつけよう」


「いや、父上。赤備え達二百人と拙者は相手出来ますでしょうが、水野家の面々も合わせたら、四百人ですよ?


流石に無理がたたります。それに」


「もう決めた!中庭で行なうから待っておるぞ」


こうして訓練の最期は久しぶりの親父との稽古に決まりました。

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