新しい嫁に息子はパニック
天正三年(1575年)八月三十日
美濃国 柴田家屋敷にて
「若様。文が届いております」
「今頃に文とは、父上の嫁の件かのう?」
皆さんおはようございます。領地の屋敷でのんびり過ごしております柴田六三郎です。
親父が越前国に領地を持つという、史実どおりに進んだら人生最期の地に行く事が決定した事に焦りましたが、
殿からの「戦で頑張ったから希望を叶えてやろう」と言う人生を変えるボーナスチャンスで「親父に新しい嫁を。出来れば親父の尻を叩けて、男だったら有能な武将になれる、戦の時には自ら甲冑を着て味方を鼓舞する女」なんて
そんな巴御前みたいな女、居るわけないし、奇跡的に居たとしても、史実で親父と再婚したお市の方の様な、政略結婚に使われる美女ではなくて、
それこそ、親父と歳の近い一歩間違ったら尼さんだった人を還俗させた可能性もあるだろう。例え、そんな人だったとしても、
人生経験豊富な肝っ玉母ちゃんかもしれないから、親父も要らぬ気苦労をせずに過ごせるだろうしな
で、改めて文を見ますと、
「権六の新しい嫁が決まったぞ!具体的な事は、五日から十日後くらいに嫁達を連れて領地に戻る権六から聞く様に」
おや?何やら気になる言葉があるんだけど?俺が固まっていると
「若様?どの様な事が書かれているのですか?」
利兵衛に呼ばれました
「ああ、済まぬな。いやな、文の送り主は岐阜城の殿で、内容は父上の新しい嫁が決まって、五日から十日後に領地に来て色々話すそうなのだがな」
「文の中に気になる事でもあったのですか?」
「うむ。文の中に「嫁達」とあるのがな。まさかと思うが、何処ぞの家の若い女子を嫁にもらって、その母親とか侍女とかが大量に来るのかと思ってな」
「その可能性はありますな。むしろ、新しい嫁の子供達かもしれませぬぞ?織田様が、まだ幼い娘や息子を持つ家の事情で離縁した再婚が難しい女子を、
大殿の再婚相手に選んで、ゆくゆくは若様の側室に、その方の娘を。と考えているかもしれませぬし」
「子連れ同士の再婚か。まあ、儂の考えではあるが、五十過ぎで独特な子を持つ父上に若い娘を嫁に出しても良いと思うお人など、居ないだろうしな」
「若様が希望して、織田様が確約してくれたのですから、流石にそれは無い、はずでしょう」
おい利兵衛。一瞬の間があったのは見逃さないぞ。まあ、とりあえず。親父の新しい嫁がお市の方じゃなければ、史実どおりにならないはず!
※六三郎の希望はフラグになります
天正三年(1575年)九月八日
美濃国 柴田家屋敷にて
「若様!大殿からの文でございます」
「父上からか。そろそろ到着する連絡か?」
皆さんおはようございます。親父が新しい嫁を連れて領地に戻る九月になって色々準備しております柴田六三郎です。
「六三郎へ。明日には屋敷に着く。お主の希望した儂の新しい嫁も連れて行く。そして前もって言っておくが、新しい嫁は子供が三人居て、前の夫を戦で亡くしておる。
お主の常識外れな行動の数々を聞いても尚、儂の様な五十過ぎの年寄りと再婚しても良いと言ってくれる希少な女子じゃ
そんな女子が、お主の新しい母になるのだから、いつもの様な行動は出来るだけ!出来るだけ!控える様に」
親父、出来るだけを2回も強調するとか、まるで俺の行動が人としてアウトみたいな言い方じゃないか。
しかも、よっぽど新しい嫁に関して伝えておかないといけなかったのか、文が2つもあります
で、2つ目には
「ちなみにじゃが、新しい嫁は子供が三人居て、儂と同じ子連れ再婚じゃ。そして、三人の子供は全員、お主より歳下じゃ!今まで一人っ子で生きてきたが、
これからは兄として接するのだぞ!間違っても、お主の様に無茶苦茶な行動を教えてはいかん!
最期に、嫁の子供達は、お主が殿へ披露して、京や堺で流行らせた料理が好きな様なので、明日はそれを出してやれ」
うん。親父に小言を言われるのもいい。料理を作るのもいいよ。だけど、新しい嫁の子供が三人で、前の夫
が戦で亡くなった。って、親父の再婚相手って、
まさかのお市の方とスペックが同じなんだが?いや待て。まだ三人の子供が三姉妹とは書いてない!
これは!いや、ここだけはまだ違う人が新しい嫁の可能性がある!と言うかそうであってくれ!
※六三郎の希望はry
天正三年(1575年)九月九日
美濃国 柴田家領地にて
「ここが権六様の領地ですか!領民達が笑顔で過ごしているのは、実質的に差配している六三郎殿が良い差配をしている証ですね」
「市よ。政に関して、あ奴は領民の事を最優先に考えておるから、その為ならば身銭を切る事も厭わぬ。
そのせいで、と言ってはなんだが、財政が苦しい時期もあったのじゃ」
屋敷に到着する前に勝家はお市の希望で輿に乗った状態で、領地を見て回っていた。
とても実りの良い土地と、生活に苦しんでない笑顔溢れる領民を見て、改めて六三郎への期待値が上がっていた
そして、勝家は屋敷に着く。屋敷内の部屋に入り、着物を着替えて、大広間へ向かう。大広間の隣にお市達を待機させて自身は大広間の上座へ座る
「父上!お帰りなさいませ!」
「「「「お帰りなさいませ」」」」
「うむ。皆、変わらず過ごしておる様じゃな!利兵衛、六三郎はお主に無理をさせておらぬか?」
「大殿、若様は拙者の歳を考えてくださっている様で、少しずつ拙者の仕事を担える者を育成しておりますので無理はしておりませぬ」
「そうか。ならば良い。利兵衛にはまだ六三郎の補佐をしてもらうから、身体に気をつけてくれ!
そして源太郎!六三郎の元服後の初陣では赤備えだけで砦を一つ陥落させたそうじゃな!殿も徳川様も、見事過ぎる武功に大笑いしておったぞ!」
「大殿。有り難いお言葉にございます。ですが、あの武功は若様が我々を信頼してくれたから挙げられたのです」
「そうか!これからも戦では六三郎と共に暴れてくれ」
「ははっ」
「そして六三郎!」
「はい!」
「お主の希望どおり、新しい嫁が決まった。これからはお主の母になる人じゃ。これまでの様な行動は」
「「出来る限り控える様に」ですよね。父上から文で2回も強調されたら嫌でも覚えます」
「そ、そうか」
「それよりも!父上、その新しい母になるお人を見たいのですが?拙者の希望した条件に当てはまるのですから、
まるで源平の時代の巴御前の様な方ではないかと少なからず期待しております」
「六三郎。それは見た目の話か?」
「父上!見た目だけのお人ならば、絶世の美女ではありませぬか。見た目だけではないのでしょう?
そうでなければ、「鬼柴田」の嫁になれるわけが」
六三郎がそこまで言うと、
「権六様!もう待てません!」
お市が思いっきり襖を開けた。そして、六三郎の元へ行き、
「あなたが権六様の嫡男の六三郎ですね。私が権六様の新しい嫁であり、あなたの新しい母の市です!
隣で話を聞いていましたが、「源平の時代の巴御前の様な」と言う言葉だけでも嬉しいのに、「絶世の美女」だなんて!
もう!なんて素晴らしい息子なのですか!あなたの母になれる事、とても喜ばしいです」
そう言いながら抱きしめていた。そんな状態でも六三郎は
(いやいや待て待て待て!今、市って名乗っていたよな?と、いう事はだぞ?あのお市の方だろ!
マズイマズイマズイ!史実どおりになってる!このままじゃ、あと8年以内に人生終了してしまう!)
頭の中がパニック状態だった。




