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父と新しい嫁のご対面

ゆっくりのんびり書き出して、いつの間にやら200話です。

天正三年(1575年)八月二十五日

美濃国 某所にて


「遂にこの日が来たか」


声の主は柴田権六勝家。織田家中において紛れもない重臣であるが、息子の行動が常識のはるか彼方に外れた行動過ぎて息子が何かやる度、それこそ息子名義の文が来る度に


自分がちゃんと親らしい事をしなかったから、ああなってしまったのか?と考えている五十過ぎの老将である。そんな勝家は主君の織田信長が、戦の褒美として三つの希望を叶えようと言った事で息子から「父に新しい嫁を」と言われて、再婚する事が決まり、今日相手と対面する事になり岐阜城への道中に居た


「まあまあ殿。若様が殿の為を思って、大殿にお願いしたのですから。それに、大殿も「弟や妹が出来たら、更に働くかもしれぬぞ?」と仰っていたのならば、


悪い話ではないと思いますよ?それに、もしかしたら若様に良い影響を与えるかもしれませぬし」


「それならば良いが、六三郎の出した嫁の条件が「儂の尻を叩けて、男子ならば一廉の武将になれたであろう、戦の時には自ら甲冑を着て味方を鼓舞する気概のある女子」じゃぞ?


その様な女子、儂は居ないと思っていたが、殿から「権六の再婚相手の条件全てに当てはまる女傑を見つけたから会いに来い」と言われたら、誠に見つけたとしか思えぬ。


儂は別に嫁を求めてないのじゃがなあ。それこそ、こんな五十過ぎの年寄りで、しかも常識外れな行動を取る息子が居るのだぞ?対面する女子が若い女子だったら、


流石に断りを入れた方が良いと思うのだがなあ。吉田よ、お主の意見はどうじゃ?」


「拙者としては、若様の出した条件に当てはまる若い女子は居ないと思っておりますので、殿より間違いなく歳下ではありますが、ある程度人生経験のある女子かと思います」


「まあ、その様な女子ならば儂は良い。だが、相手が六三郎は勿論じゃが、六三郎の家臣の赤備え達を見て、恐れ慄いてしまったり、


六三郎の常識外れな行動で要らぬ気苦労を持った結果、嫁入りが破談するかもしれぬからなあ」


「殿。そうなった場合は、若様に殿の嫁取りを諦めてもらうのも手かと。それよりも、今は件の女傑との対面に集中しましょう。


殿と明智様のお役目である京の警護を明智様が当面、請け負ってくださるのですから」


「そうじゃな。十兵衛には感謝の気持ちは勿論じゃが、何かしらの形になるもので礼をしないとな」


「そうですなあ。殿、そろそろ」


「岐阜城じゃな」


勝家と吉田は岐阜城に入る前に下馬し、馬を所定の場所に繋ぎ、岐阜城内へ入る。吉田は部屋で待機して、


勝家は信長へ会う手続きを済ませてから、大広間前の襖で呼ばれるまで待機していた。やがて、


「権六!入って良いぞ!」


信長から呼び出されて、大広間へ入る。大広間には既に信長が上座に座っていた。勝家は平伏し


「殿。此度は」


挨拶をしようとしたが、


「権六。堅苦しい挨拶は良い」


信長が強制的に終わらせた。そして、話を進める


「権六よ。文にも書いたが、六三郎の希望の一つであるお主の新たな嫁が決まったぞ!」


「殿。その事なのですが、その女子に無理をさせる様ならば、誠に申し訳ないのですが破談にした方が」


「何を申すか。権六よ、此度の話の条件を女子に聞かせたら、「無理に取り繕う必要がないのは有り難い」と喜んだ程じゃ」


「殿。お言葉ながら、拙者は五十過ぎの年寄りですし、倅は常識外れこの上無いのですから、それで要らぬ気苦労をさせては」


「その女子が可哀想だと申すか?」


「はい。拙者ではなく、若く見目麗しい男に嫁いだ方が」


勝家の言葉に信長は


「だ、そうじゃ。権六に言いたい事があるならは、入って来て、直接言って良いぞ」


信長が横の襖に向かって声をかけると


スパーン!と襖が勢いよく開けられる。そこには市が立っていた。気づいた勝家は


「え!?お市様?え?殿?」


軽いパニックになった。そんな勝家の元に市が小走りで行き、


「権六殿。いえ、権六様。貴方様の元へ嫁ぐ覚悟は出来ております」


真剣な顔で伝えた。しかし、勝家は


「あの、お市様?そのお気持ちはありがたいのですが、拙者の倅や、倅の家臣達は常識外れこの上ない行動を取るので、


お市様は経験した事のない気苦労を間違いなく負いますので」


「気苦労ならば、浅井家に嫁いだ時に、亡き夫と兄上の板挟みで充分過ぎるほど負いました!その事に比べたら、常識外れな行動など些細な事です。


なので、私を権六様の嫁に、そして柴田の鬼若子こと六三郎殿の母にしてくださいませ」


市はそう言いながら、勝家に頭を下げた。それを踏まえて勝家は


「浅井家の事を思い出させて申し訳ありませぬ。ですが、この様な年寄りに対してそこまで言ってくださる事、感謝しかありませぬ。


拙者からも言わせてくだされ。お市様、拙者の嫁になってくだされ」


「はい」


二人のやり取りを見ていた信長は


「うむ。誠にめでたい!権六!市と娘達の事を頼むぞ!そして市よ!権六の倅はお主の予想の斜め上を行くかもしれぬぞ?それでも夫婦仲睦まじく暮らすのじゃぞ」


「「はい」」


「よし!お蘭!領地に居る六三郎に文を書け!権六の嫁が決まったから、十日後を目処に領地へ連れて行くとな!娘達の事は伏せておけ。


いきなり妹が三人も出来るのじゃ。どの様に振る舞うか楽しみじゃのう。くっくっく」


「兄上。悪い顔になっておりますよ」


「殿。倅に変な期待はしない方が」


こうして勝家と市の再婚が決まった。当人同士は子連れ再婚だと知っているし、市の娘達も知っている。


知らないのは六三郎だけという、ある意味では楽しみと前振りのフラグしかない展開である。

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― 新着の感想 ―
今回の冒頭のような「かかれ柴田」の年寄り臭い言動の話は心温まります 「剣客商売」の小兵衛のように隠居したあと領地で起きる話に期待… 息子のせいで落ち着いた暮らしは無理ですねw
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