他所の男子は呼んでません
この作品はフィクションです。史実と違いますので、その点、ご理解ご了承ください。
さて、親父と前田様が清洲城に出発して、1時間くらい経ったかな?朝食も終わって腹も落ち着いて来たし、特訓の続きしますか
「えい!やあ!」
「吉六郎!」
誰だよ?こんな朝早くからデカイ声出して、まあ、予想はついてるんだけどね
「若様、私が応対して参りますので」
「つる殿、恐らく前田様の嫡男の犬千代殿だと思うので、そのままお迎えしてください」
「分かりました」
で、少しして
「やはり朝早くから修練しておるか!」
「犬千代殿。前田様は父上と共に清洲に行きましたが、共に行かなくて良いのですか?」
「元服前の儂が行ったところで、何も出来ぬから、行っても意味は無いので」
「なら、屋敷で修練をしては?」
「一人でやってもつまらぬ!だから、吉六郎と共に修練をする目的でここに来た次第じゃ!」
「犬千代殿、それは建前ですよね?本心を正直に申してくだされ」
「父上が学んでおる算盤を儂にも学べと母上が煩いから、逃げて来ました」
「やっぱり。ここで修練に付き合ってくださるのは有り難い事ですが、後でおまつ様に露見して大目玉を喰らっても知りませぬぞ?」
「その時はその時じゃ。さあ、修練を始めましょう」
「分かりました。その前に、つる殿。父上が前田様を連れて帰ってくるかもしれないので、昼食を多めに作っておいてくだされ」
「かしこまりました」
「話は終わったようじゃな。さあ始めようでないか」
「宜しくお願いします」
そんなこんなで、俺と犬千代殿の修練が始まった
それにしても、この犬千代殿って、元服したら前田利長になる人だよな?
確か前田利長って父親の利家が亡くなった後、徳川家康からの謀略に負けて、臣従した後、利家の遺言である「豊臣家を守れ」を破ってしまった事からノイローゼになって切腹したとか、家康に毒盛られたとかで、一部から悲運の武将扱いされてるけど、元服前は脳筋だったとか、当時の人も資料残してくれたら良かったのに
「修練に集中してないぞ」
「コン!」
犬千代殿に軽くとは言え、修練用の模擬槍で頭を叩かれた。痛い
「ほれ、続きじゃ」
「はい」
改めて修練の続きを行なって2時間くらい経った頃、
「吉六郎!!」
俺を呼ぶ声が聞こえた。でも、こんな事をする犬千代様は目の前に居るし、しょうがない応対に行くか
「犬千代殿ら客人が来たので朝の修練は終わりにして、昼食にしましょう」
「もうそんな刻限ですか。分かりました。馳走になります」
犬千代殿を屋敷の中に入れて、正門に向かってみたらまさかの人物でした
「奇妙様」
織田家嫡男の奇妙丸様でした。お共の方々を連れて屋敷に来た用ですが、親父何かやったのか?
「あの奇妙様?何故、こちらに?拙者の父上に何か言伝でも?」
「嫌、権六は清洲に居るのは知っておる。儂が来たのは吉六郎。其方と共に修練を行おうと思ってな」
「奇妙様、無礼を承知でお聞きしますが、本心は違いますよね?」
「これ、心中を当てるでない。そのとおりじゃ、父上達が軍議を行なっておるが元服前の儂が居ても何も出来ぬからな。お主と共に修練を行おうと思って、ここまで来たのじゃ」
「奇妙様、それなら拙者を呼び出せば清洲まで行きましたのに」
「お主が清洲に来たら、弟妹達が離さないからな。それに大した距離では無いから儂が来たのじゃ。さあ、話は終いじゃ。修練を始めようではないか」
この強引なところは、織田家の特徴か?会話が微妙に噛み合わない。昼飯食ってからなら良いんだけど、今からは•••
俺がそんな事を考えていたら、「ぐ〜」と腹が鳴る音が聞こえた。まさかの奇妙様だった
「奇妙様、昼食後に修練を行なっても遅くありませぬ。まずは、腹ごしらえをしましょう。共の皆様もどうぞ。既に前田家の犬千代殿に修練と昼食に付き合ってもらってます」
「何?あやつは儂より先に来ているのか!しかもつる殿の美味い飯を既に喰っているとは、許せん。吉六郎!入るぞ」
そう言って奇妙様一行は屋敷に入っていった。そうなんだよね。お袋が生きている時からうちの台所をつるさんが仕切っていたんだけど、前の人生で一番の好物だった生姜焼きの味付けとか、唐揚げっぽいものをリクエストしたら、元々料理が上手いつるさんの料理スキルが上がって、それを親父が同僚の皆さんに自慢したら、うちに集まる様になっていったんだよねー
で、それがその人達の子供まで伝わって、俺より年上の子供達が俺と一緒に修練を行う事が3割、つるさんの飯を喰う事が7割くらいでうちに来る様になったと
おかげで、うちの台所は火の車に近い。でも、親父は織田家でもかなり高いポジションだし、前田様とかからは、「親父殿」と呼ばれる程、慕われているから断わる事は出来ないし
そう言う事で、親父が居ない時は俺が親父の代理で応対しているが、そろそろ親父にも台所の状況を分かってもらいたいから、家臣の隠居した爺さん達や子供達、近所の百姓の子供達を連れて、山で猪退治して食費を浮かしているんだけど
退治した猪の肉を参加した皆にわけていたら、他の家の子供まで猪退治に参加してくるから、分け前も減ってるんだよね
どうしよう?親父に言っても「戦の修練と思って続けろ」としか言わないし。俺、この時代で5歳だけど、ここまでやらなきゃいけない事だらけなのか?史実どおりなら、親父の寿命が残り13年だから、最悪の状況を避ける為にどうしたら良いか分からないのに
「吉六郎!!」
あ、犬千代殿が呼んでる。現実に戻されたし、行きますか。
「如何しましたか犬千代殿?」
「吉六郎、奇妙様が来るなら言ってくれ」
「これ犬千代、吉六郎を責めるな。儂らが先触れも出さずに来たのだから知る訳無かろう。それに、大方お主も家に居てもやる事が無いから、ここに来たのではないのか?」
「う、そのとおりです」
「ならば、吉六郎を責めるな。それに、つる殿の美味い飯を喰った分際で、偉そうに言える立場か?」
「申し訳ありませぬ」
「儂ではなく吉六郎に言わんか!」
「はは、吉六郎、申し訳ない」
「もう良いですから。ささ、腹が減っては修練も出来ませぬ。食べてくだされ」
「済まぬな。つる殿、馳走になるぞ」
「ごゆるりとご堪能くださいませ」
こうして、奇妙様一行も食事を始めたけど、これ、俺とうちの家臣の皆様が食事したら、また食材が足りなくなる恐れがあるよな。
また山に行って猪退治するしか無いか?でも、猪退治は最低でも十日前に先触れ出して、参加者募るけど、今日直ぐには集まらないよな、どうしよう?
「吉六郎殿!」
おや、俺に殿をつけて呼ぶなんて珍しい
「奇妙様、犬千代殿。客人が来たようなので、応対して来ます。失礼」
さて、そう言って正門に来たけど、まさかの大人が来てます
「おや、小一郎様。本日は如何しましたか?」
「吉六郎殿、拙者に様などつけなくても構いませぬ」
「いえいえ、そうもいきませぬ。小一郎様の兄であり主君である藤吉郎様は、我が父と同じく織田家臣団の一員。言わば同じ立場ではないですか」
「いやいや、拙者の兄は御父上の柴田様と比べるのも烏滸がましい立場にございます。戦において常に先陣を切る柴田様と柴田様の次に出陣する我々とでは、とてもとても」
「そのような事を言わずに。拙者にとっては父上と同じく戦経験のある人は敬意を持って接するべきだと思いますので。小一郎様も同じくです」
「そう言ってもらえて嬉しく思います」
「ところで、小一郎様。改めて、本日は如何しましたか?」
「そうでしたな。本日は吉六郎殿に我が家に小姓として仕えたこの者達に修練をつけてほしいと思いましてな。これ、二人共挨拶せんか」
「「はい!お初にお目にかかります。柴田吉六郎様!木下家に仕えます」」
「加藤夜叉丸にございます」
「福島市松にございます」
「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。柴田家嫡男の吉六郎にございます。お二人は見たところ、拙者より年上に見えますが、お幾つでございますか?」
「「今年で九つです」
「拙者より四つ年上にございますな。改めてよろしくお願いします」
挨拶した二人を見たけど、まず夜叉丸の方はめちゃくちゃ背が高い。既に小一郎殿より高い感じだな。で、市松の方は背は普通サイズなのに、何故か身体が傷だらけだけど、小姓と言う事は、初陣はまだだよな?聞いてみるか
「市松殿。つかぬ事をお聞きしますが、身体中傷だらけですが、もう初陣を済ませたのですか?」
「いえ、未だです」
「では何故傷だらけなのですか?」
「それは」
市松が恥ずかしそうにしていると、小一郎殿が説明してくれた
「はっはっは!市松は吉六郎殿の話を聞いて、傷だらけになったのですよ」
「小一郎様!」
「良いではないか。吉六郎殿、市松は吉六郎殿が僅か四つなのに、猪退治の采配をふるい見事に退治した話を聞いて「自分にも出来る」と思って猪に突撃した結果、傷だらけになったのです」
「そう、だったのですね」
あれ、この市松はこんな小さい頃から脳筋なのか?でも、夜叉丸は無傷だけど?
「夜叉丸殿は猪退治に参加してないのですか?」
「拙者は市松の様に人数が少ない状態で無策で出陣するのは阿呆のやる事と思って、参加しなかったのです。」
あれー、夜叉丸は冷静だけど口が悪いのか。まあ、キャラが真逆なら分かりやすいかな
「ちょっと待て夜叉丸!お主は参加しなかったのではなく、参加出来なかったではないか!母上殿にきつく言われたただけで、参加を寸前で取り止めたくせに」
「何じゃ市松!母上の事を悪く言うな!それに、あの猪退治は失敗に終わったではないか。なら、参加しない事が正しいではないか」
あれー、夜叉丸は冷静ではなくマザコン気味なのか?
「なにを言う!!」
「何じゃ!やるか」
あ、殴り合い始めた。あちゃー脳筋コンビか。
俺みたいな小さいやつが止めに入っても怪我するだけだし、小一郎殿も止めないなら、放っておくか
「ドコッ!!」
あ、キレイなクロスカウンターが入った。お互いに脚にダメージ来ているみたいでプルプルしてる
「「おのれ!!」」
まだ続けるのか、元気だなあと思ったら
「「ぐう〜」」
二人共腹が鳴りました。しょうがない
「二人共、腹が減ったから気が立っているのでしょう。中に入って昼食を食べてくだされ。小一郎様も」
「「良いのですか?」」
「吉六郎殿?」
「構いませぬ!それに父上が居たなら、同じ事をしたでしょう。さ、どうぞ」
そう言って俺は3人を中に入れた。中では奇妙様一行と犬千代殿が昼飯後の一休みをしていた
その様子を見て、小一郎殿は慌てて奇妙丸様に挨拶したが、市松と夜叉丸の腹の音を聞いて、「昼食後で良い」と奇妙丸様が言ったので、その場を後にした
で、空いてる部屋で3人に昼食を出したら、市松と夜叉丸が物凄く食べる食べる。2人で米俵の半分くらい喰ったんじゃないかと思うくらい喰いまくった
これは働いてもらうしかないな。この2人は小一郎殿に言えば問題無いだろう。犬千代殿も恐らく大丈夫だと思う。
問題は奇妙丸様一行だよな。奇妙様本人は動かなくても良いけど、お共の人達20人のうち、15人、いや最悪でも半数の10人は貸してほしいな
仕方ない。無理を承知で頼んでみよう