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行動力があり過ぎる母

天正三年(1575年)八月十五日

美濃国 岐阜城にて


尾張国の信包の屋敷で再婚話を受け入れた市は、「話をもっと聞きたいから岐阜城へ行きます」と言って、十日程で岐阜城に引っ越した


「兄上!此度の縁談、誠にありがとうございます!!」


「市よ。先に言っておくが、お主の為の縁談であって、姪達の縁談ではないのだぞ。そこは間違えてはならぬぞ」


「それは重々承知しております。ですが、噂の「鬼若子」殿は正室候補は居ても、


確定しているわけではないのですよね?ならば一縷の望みを持つくらいはよろしいではありませぬか」



「まあ、こればかりは何とも言えぬが、件の鬼若子こと六三郎は、権六の尻を叩けて」


「「男だったら一廉の武将になり得たであろう、戦の時には甲冑を着て味方を鼓舞する気概のある女子」を、権六殿、いえ、権六様の嫁に希望しているのですよね」


「そ、その通りじゃ。しかし、一言一句覚えておるとは、市はやはり賢いのう」


「兄上。賢いのではなく、取り繕う必要がない、私自身の中身を言われている様なものだからこそ一言一句言えるのです。


それよりも!その鬼若子殿、いえ新たに息子になる六三郎殿は十日もあれば岐阜城に来られる距離に領地が有るらしいじゃないですか。


新たな母として会いたいので是非とも呼んでくださいませ!」


「領地に行ってからでも良いではないか」


「あら、兄上。それでは六三郎殿に新たな正室候補が出来てしまうではないですか。それどころか、側室になる事が決まっている娘が六三郎殿のやや子を授かるかもしれませぬ。そうなる前に」


「市。念の為に聞くが、市の中で、六三郎を何歳くらいだと思っておる?」


「十一歳でしょう。知っております。本来ならまだ母に甘えていたい三歳で母を亡くして以降、権六様は嫁取りをしなかった結果、とても強く賢い素晴らしい若武者に育ったのですよね」


「そこは分かっているのじゃな。ならば、側室にしてくれと頼んだ娘の事は知っておるのか?」


「いえ。側室ならば茶々と争う事も無いと思ったので聞いておりませぬ?ですが、そこまで必死に頼み込むという事は、もう子供を産めない歳が近いのでは?だから必死に」


「それならば、儂よりも知っている者から説明させた方が早いか。帰蝶、お主から説明してくれ」


「え?義姉上が何故?」


「市。私から件の娘の事を話します。しっかりと!聞いた上で行動してください。


その娘の名前は道乃と言います。母親の名前は佐藤紫乃。そして父親は斎藤新之助道吉と言います。これを聞いて、気づいた事はありませんか?」


そう言われた市は


「あの、義姉上。今、道乃という娘の父親が斎藤と言いましたが」


「ええ、言いました。改めて言う形になりますが、その道乃の父方の祖父は私の三番目の兄の喜平次龍和でず。つまり道乃は、私以外居なくなったと思っていた、


かつて美濃国を治めていた斎藤家の数少ない末裔なのです。そして道乃には弟が居ます。現状では、その弟が血筋を残せる唯一の男児なのです。


そして、道乃は貴女の次女の初と同い年の八歳なのですから、やや子を授かるなど、まだまだ先の話です」


「義姉上の数少ない血縁者」


「そうです。まだ幼いですし、母方の祖父の利兵衛が六三郎の家臣として仕えている都合上、柴田家屋敷で生活しておりますが、そんな子作りをする様な中ではありません。


ですから、むやみやたらに茶々を六三郎の正室にねじ込もうとするのはやめなさい。元服して色々やっているとはいえ、六三郎は十一歳です。


そんな子が自分の事よりも、父の権六の事を優先しているのですから、母になる貴女が色々掻き乱してはいけません」


「分かりました」


「それならば良いです。殿、後は殿がお願いします」


「うむ。済まぬな帰蝶。さて、市よ。六三郎の正室の話は一旦置いていてくれ。そして、改めてじゃが。


名義上権六の領地になっている領地じゃが、実質的には六三郎が元服前から差配して、領民達に慕われておる。それこそ六三郎の為ならば命を捨てる程じゃ。


更には六三郎の家臣達、利兵衛以外の男の家臣で戦に出る者達は、元は武田の足軽であった。


三年前の戦で六三郎達に敗れた際、二百人が捕虜になったが、人柄含めて惚れ込んだのだろうな。その二百人全員か六三郎の家臣として、現在仕えておる」


「それは人たらしと言っても良いくらい、訳ありな人に好かれる様ですね」


「儂もそう思う。だがな、六三郎人はの心を掴める言葉を出せる不思議な若武者じゃ。徳川家の双子の母に言った言葉だけでなく、当時武田の足軽だった者が


「自分の首で弟と皆の命を助けてくれ」と懇願していたのじゃが、その者が武田の拠点に戻った時に、


色々思う事があったから出奔したのじゃろうが、その時戻って来た当人に


「自分の命を捨ててでも家族と仲間を守りたいと思える者は信用出来る」と言って、臣従させたのじゃ」


「少し前まで戦っていた者をそごまで」


「まあ、言葉だけでなく、捕虜だった時点で武田に居た時よりも人らしい扱いをされていた事もあって


「六三郎なら」と思えたのじゃろうな」


「兄上。茶々の正室の話はとりあえず置いておきまして、その六三郎殿に早く会ってみたいです」


「六三郎に「権六と新しい嫁が長月の頃に戻るから待っておれ」と言っておるから、権六と一緒に行ったら良い」


「はい」


「改めてじゃが市よ。浅井家の事は済まなかった」


「兄上。戦の世なので、私みたいな女は何も出来ない事は悔しいですが、これから嫁ぐ柴田家では、二度と浅井家で起きた事を起こさないでください。


これから娘達が嫁入り先を探す頃には、戦の無い世をお願いします」


「まだまだ道半ばじゃが、全力を尽くすと約束しよう」


市はなんとか落ち着いてくれた様で、勝家の到着を岐阜城で待つ事にした。

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