戦の事後処理で
天正三年(1575年)六月十一日
美濃国 岐阜城にて
「さて!前月の武田との戦では皆、よく働いてくれた!武田の死者はおおよそ一万四千と多数であるが、
織田と徳川の死者もおよそ三千と、戦には勝ったが、完勝とは言い難い。しかし、これでしばらく武田は動けぬであろう。
よって、武田が再び動くまでは、我々の敵は本願寺を最優先で攻撃する!」
「「「「ははっ!」」」」
皆さんおはようございます。武田との戦で初陣を経験して、何とか生きております柴田六三郎です。
別働隊として砦を守る武田の兵達を倒して、砦を壊したら本戦に参加。なんて事にならなかったので安心しましたが、武田は一万五千で来て一万四千の死者とか、
被害9割越えだぞ?史実だと、この負け戦で武田滅亡への第一歩を踏み出して、要衝の高天神城を奪われて、上杉の御館の乱で対応を間違えた結果、
甲州征伐で同盟相手だった北条からも攻撃されて、味方からは裏切者続出で、味方が最低限しか居なくて、最期は天目山で勝頼親子が切腹して、戦国大名としての武田家は滅亡の流れだったはず。
でも、史実どおりの流れだと、親父も俺も残り8年で死んじまうから。何とかして未来を変えないとな。
「さて!それでは褒賞を発表する」
あ、殿が皆さんお待ちかねの時間を発表しました。まあ、俺は親父から貰うし、いくら殿でも親父と俺の領地を真逆の位置にしないはず。だよな?
「◯◯は二千石を加増する」
「ははっ」
あ、俺が考え事をしている間に発表が進んでおりますね。で、親父への褒賞は
「権六は現在の美濃国の領地に代わり、越前国の南部を領地とする」
「ははっ」
いやいや待て待て!史実だと親父が秀吉と戦って切腹した場所は越前国の北ノ庄だったよな。やばいやばいやばい!
この流れで行くと、越前国の大部分を治めている人が一揆に対応出来ずにしっかり治めきれないから親父と交代して、親父がしっかり対応した結果、
越前国を丸々貰って、そこから加賀国、能登国、越中国と進軍して、越後国で軍神とか呼ばれてる戦バカの上杉謙信と戦って、
その後に起きる本能寺の変に上杉軍が粘る事と基本的に無理をしない親父の性格のせいで、殿と勘九郎様の敵討ちが出来なかった経験、敵討ちに成功した秀吉の発言力が強くなって、
親父と勘九郎様の弟の三七様が現状を打破する為に挙兵した結果が、賤ヶ岳から北ノ庄までの戦の流れだったけど、
このままじゃ親父も俺も史実どおりの死亡確定フラグが立っちまうじゃないか!冗談じゃない!
俺が未来を変える為に色々考えていると
「最期に、此度の戦で初陣、と言ってよいかは分からぬが、見事な働きを見せた柴田六三郎。前に出よ!」
殿に呼ばれました。誰かの与力に俺だけで行って来い!とかじゃないよな?
で、前に出まして
「さて、六三郎よ。此度の戦、見事な働きを見せたが、領地の加増については親父の権六にしたが、お主にも領地を与えたら他の者達から不平不満が出る。
よって領地に関しては親父と話し合え。じゃが、お主やお主の家臣の働きに報いてやろうと考えた結果、
お主の希望を叶えられる範囲で聞いてやろうと思う。何か希望はあるか?申してみよ」
マジか!これは未来を変える可能性があるボーナスチャンスじゃないか!よし決めた!親父に長時間の小言を貰おうとも、最悪殴られようとも!動くぞ!
「では殿。拙者の希望を3つ申しあげます」
「これ六三郎!この様な場で希望は通常は一つであろう!」
「よいよい権六。六三郎は此度の戦だけでなく、京や堺で織田家の銭を増やしたのじゃ。自前の領地はまだ無いのだから、可能な限り叶えてやろう」
「殿が御決断なされたのならば、拙者は従います」
「うむ。それでは改めて六三郎よ!お主の三つの希望を申してみよ」
「では、1つめとして、父上の新たな領地での銭を増やす特産品を作る許可をいただきとうございます」
「ほう。権六の新たな領地で銭を増やすと。越前国は大量の米が取れるのに、米以外の物も銭にしたいと申すのか?」
「はい。毎年必ず一定量の米が取れるとは限りませぬ。万が一を考えて、他の銭になる物も作りたいのです」
「うむ。良かろう。して、二つ目の希望は?」
(こんな場合は真ん中に本命を入れると通りやすいと、何かの本で見た気がするから、ここだな)
「2つめは、西国の戦に参戦しとうございます!」
「ほう。それは何故じゃ?」
(え?理由?そんなの本能寺の変が起きた時に動きやすいからです。なんて言えないしな。これにしよう)
「将来的に織田家が水軍を増やす際、水軍を率いる武将の1人になりたいからです」
「ほう。水軍を増やすかもしれぬと思うか。しかしじゃ六三郎よ。お主よりも親父の権六が先に水軍を率いると思わぬのか?」
「その可能性は有るでしょうが、父上は以前、徳川様の浜松城にて徳川家家臣の方々に「拙者も五十を超えた年寄り」と言っていたので、
無理をさせるのも良くないからこそ、父上よりも拙者が率いる事になればと」
「そうか。まあ考えておこう。それで、三つ目は?」
「はい。嫁をあてがってくださればと」
「お主にか?お主はまだ十一だから、早いと」
「いえ!拙者ではなく父上にでございます」
俺がこう言うと親父は
「これ!六三郎!」
と怒りました。だけど殿は半笑いになりながら質問してきたので
「まあ待て権六。理由を聞こうではないか。六三郎よ、何故、権六に嫁をあてがって欲しいのじゃ?まさか今になって、母が欲しいと申すのか?」
「いえ。二つ目の西国の戦の参戦の話の時に言いました様に自らを年寄りと言うのであれば、せめて近くに家臣以外のお人が居た方が耄碌しないと思いましたので」
俺がそう言うと、
「はっはっは!六三郎よ!権六が耄碌しない為に嫁をあてがってくれと申すか」
めっちゃ大笑いしてます。それでも続けないと
「はい。それこそ10年後、いえ、10年もしないうちに拙者と家臣だけで出陣する事もあり得るでしょうが、
そうなった場合、父上は城を含めた領地で留守居をやる事になりますが、そうなった時、父上と歳の近い家臣以外には近寄り難い立場になりますし」
「分かった分かった。久方ぶりに笑ったわ。六三郎よ!権六の嫁の件は早いうちに何とかしよう。そこでじゃ、権六の嫁にするならば、どの様な女子が良い?」
「父上の尻を叩ける様な、男子ならば一廉の武将になれたであろう、戦の際には甲冑を着て味方を鼓舞する様な気概ある女子を」
「そうか!良かろう!六三郎の三つの希望、出来る範囲で叶えてやる!権六、楽しみにしておれ」
「倅が申し訳ありませぬ」
うん。後で親父に色々言われるだろうけど、未来の為だ!小言くらい聞いてやる!




