若造の悪知恵
「さて!六三郎よ。お主なりに武田をどの様に攻撃するかを聞かせてみせよ!二郎三郎が決戦の地と定めた場所の説明は先程のとおりじゃ」
「六三郎殿。他に必要な説明があるならば、詳しい者を連れてくるぞ」
皆様おはようございます。まさかの重要、いや、超重要な軍議に駆り出された柴田六三郎です。
いやね、親父の家臣の吉田のおっちゃんから呼び出されていると聞かされた時は我が耳を疑いましたよ。
だって俺は実質的には初陣なんだよ?いくら前世のインチキ歴史知識があるとはいえど、親父含めて戦経験豊富な人達を前に、俺が何を話すんだよ?
と、思っていましたが、話を聞いていくうちに、どうやら野戦に火縄銃をどうやって組み合わせる?野戦だけで戦った方が早くない?みたいな空気も出ていた様です
まあ、採用されるかどうかは置いといて、意見は言っておこう
「殿、徳川様。拙者なりの考えですが、武田が前に出ざるを得ない状況を作ってからが、戦の本番だと思います」
「ほう?具体的に申してみよ」
「はい。先程、徳川様から教えていただいた「汁椀の様な地形」ならば、後ろを抑えたら前に出ざるを得ない状況になると同時に、武田が「織田と徳川の兵は恐るるに足らず」と思い込んで、本陣に突撃してくる様に仕組んだら良いかと」
「六三郎殿。それは、兵の数を武田と同じくらいに見せるか、少ないと思わせる事も含めてですかな?」
「はい。岡崎城に来ました鳥居様が武田に捕まらずに長篠城へ戻れたのならば、我々の総勢は武田には伝わってないでしょうから、武田からしたら我々が来た事で、
甲斐国に戻るか、それとも、今こそ好機と見て一大決戦を仕掛けるか。武田が疑心暗鬼に陥っているならば、「我々の軍勢は武田と同数である」と虚偽の情報を流すのも一手かと」
「成程。先ずは武田が我々と戦う様に仕向けるべきと、六三郎は申すのじゃな。ならば六三郎よ!武田が我々と戦う決断をした。そして、野戦に強いと自負するからこそ、設楽原に来たとしよう。
どの様に武田に攻撃を行なうか、申してみよ。そこまでの流れを、お主なりの考えで申してみよ」
(え〜?そこまで考えるのかよ?こんな時は所謂、軍師と呼ばれる、それこそ竹中半兵衛みたいな頭の回転が早い人が、と思ったけど、そう言えば親父が言ってたな
「藤吉郎の軍勢は、摂津国に行って戦の最中じゃ。だからと言ってはなんだが、織田家随一の知恵者の藤吉郎と家臣の竹中半兵衛は武田との戦には居ない」と。
確か史実では、秀吉も長篠の戦いに参戦してたのにな。こんな俺みたいな若造が頑張らないといけない状況、誰が作ったんだよ。そいつに文句を言ってやりたいよ。ああすいません。話がそれましたね。
ここは安全策でもいいと思うので)
「では殿、徳川様。拙者の幼い頃の猪退治の経験から」
「これ!六三郎!大事な軍議で猪退治の話など!」
「まあ待て権六。何かしら得られる物もあるやもしれぬ。六三郎、話してみよ」
「はい。当時、尾張国の領地で猪退治をした際、山の中で見つけた猪を特定の場所に追い立てて、そこに来た猪は待ち構えていた人間に体当たりをしようとするのですが、そこの人間達は移動可能な柵を作って待ち構えておりまして、
その柵にぶつかった猪は、無傷ではいられないのです。これを此度の戦で考えますと、
種子島で狙い撃つ方々を守る柵を設置して、万が一にも柵まで来た武田の者が居た場合、後ろで待ち構えていた槍で攻撃する。と」
「成程。武田が突撃せざるを得ない状況にして、突撃して来たら種子島や弓で狙い撃つ。その矢弾の雨を潜り抜けて柵まで辿り着いても、控えている槍持ち達が、
種子島の撃ち手を守りながら攻撃すると。そう言う事じゃな」
「拙者の足りない語彙力から言えば、その通りでございます。更にその柵を縦に三段に設置して、武田から見えない様にすれば、見えない場所から攻撃される恐怖で、
武田の軍勢も止まるかと。止まったならば種子島で狙いやすくなると思われます。以上が戦経験の少ない若造の悪知恵にございますが」
俺がここまで話した後、親父含めた皆さんの顔を見ると、ほとんどがドン引きしてた。ただ1人、殿だけは
「くっくっく。六三郎よ。武田を猪と同じ様に見立てるだけでなく、心まで読むか。「柴田の鬼若子」の考える策は、恐ろしさも有るが、見事でもある。
六三郎よ。お主の策を原案としつつ、儂達で改良を加える。ただし、策を出したならば、お主も働かないといかぬよな?」
あ、殿がとても悪い顔をしている。これは、うん。
危険な場所に配置される事が決定したな。




