戦国時代の料理ショー
「さて六三郎よ!お主が必要と言っていた物は全て二郎三郎が準備してくれた!どの様な料理が出るか、期待しておるぞ!」
「六三郎殿。三郎殿より、京や堺で流行らせた料理の話は聞かせてもらっておるから、期待しておりますぞ」
「誠心誠意!全力で作らせていただきます」
皆さんこんばんは。現在、広間の中心で料理を作るところの柴田六三郎です。蘭丸くんを通して殿からの無茶振りを聞いたから、鳥の卵が必要という事を伝えて、
やんわりと断ったはずなのですが、井伊殿が「卵を持って来ましたぞ」と鶏につつかれた小さい傷をつけて持ってきたので、諦めて作ろうとしたら、蘭丸くんから
「六三郎殿。殿と徳川様より、広間で料理作りをせよと仰せです。何か必要な物があれは準備するので、言いつけてくだされ」
と言って来たので、卵の殻を綺麗にする為のお湯と、小麦粉、溶き卵、パン粉のそれぞれを入れる為の皿、そして、油と油を温める為の火。と必要な物を伝えて、
まな板と包丁と食材は俺と料理人さん達で広間に持っていきました。で、持っていったらいったで家康から
「お主達。六三郎殿の作り方をしっかり覚えよ!お主達でも作れる様になれ」と言われて、織田家と徳川家の重臣の皆さんに見られながら、俺の後ろに居ます
まあ、そんな感じですが、作るのは俺だけですので、始めるとしましょう
「では、先ず。こちらのお湯に井伊殿が傷だらけになりながらも取って来てくださいました、鳥の卵を入れます。60数えたら回収します」
で、卵の殻をお湯で洗っている間に、勿論、その都度手を洗ってから、猪肉の厚切りのスジ切りです。で、
スジ切りを終えて、60秒過ぎたので回収して、
「では、取り出した卵を」
コンコン。と机の角でヒビを入れて、中身をお椀に入れると
「「おお!」」
ゆで卵になっていなかったので安心しましたが、皆さんは、卵の中身を見て驚いた様です。俺には説明しながら手を動かすなんて無理だから、引き続き料理作りを続行です
で、溶き卵を作り終えたので、パンを細かくなるまで刻みだしたら
「ろ、六三郎!南蛮の者の主食のパオンをその様に使うのか?」
「まあまあ三郎殿。ここまで来たら全てを受け入れましょう」
「む、そ、それもそうじゃな」
殿が細かく聞いて来なくて助かった。で、パンを刻み終えたら
「では、それぞれの皿に麦粉、溶いた卵、パオンを刻んだ物を入れまして」
主役の猪肉の厚切り肉を麦粉、溶き卵、パン粉の順に漬けて
「この油の中に今から肉を入れるのですが、その前に」
パン粉をひとつまみ入れて温度確認です。この時代に温度を測る器具なんてないから、このやり方で行こう
じゅ〜。低すぎず高すぎずの温度と見て良いでしょう。では、メインイベントです
「油も大丈夫な様ですので、色々漬けました肉を入れます」
じゅ〜。パチパチパチと良い音が聞こえて来ます。そして、殿と家康の2人分なので、2枚投入です。
猪カツを揚げている間にソース作りです。ただの揚げた肉を食わせるのは宜しくないからな。
ソースは味噌と少量の酒を混ぜた物に、炒った胡麻を入れて、それを温める。有る材料で作るとなると、
こんな簡単なソースになるけど、殿と家康は勿論、重臣の皆さんも
「何とも良い香りじゃ」
「これだけで飯が食えそうじゃ」
などの好反応を見せていました。そうこうしているうちに、カツも揚がりました。それを見て殿は
「おおお!正しく見た事の無い料理!早う食わせよ」と言ってます。家康は
「これはこれは。準備する物だけでなく、作り方も珍しい。食べるのが楽しみじゃ」
と2人共、「早く食わせろ」と言ってますが、最期の確認として
「殿。徳川様。料理は完成しましたが、こちらの料理、そのままお出しする事も出来ますが、食べやすい大きさに切り分ける事も可能です。如何なさいますか?」と聞くと、
「儂はそのままで良い」と殿は言うと
「では、儂は切り分けてもらおう」と家康が言ったので、
家康用に切り分けてから、皿に盛り付けて、ソース用の小皿をお膳にのせまして
「此方が拙者が考えた、殿が食した事の無い料理でございます」
2人共、猪カツをガン見したと思ったら、
「「これはどの様に食すのじゃ?」」と同じタイミングで同じ言葉で質問して来ました
まあ、突っ込んだりクスクス笑うのもよくないので、真顔で説明しますが
「ええ。こちらの肉をそのまま食べても良いですが、そちらの小皿に入っております、汁に漬けて食べたり、塩を少し漬けて食べるなど、食べる当人に任せております」
「ほう。これはお主の家臣や屋敷におる女中の者達は既に食したのか?」
「いえ。今日初めて作りました。なので、殿と徳川様か日の本で初めて食した事になります」
俺がそう言うと横に居た親父から
「六三郎!味や安全性も保証されておらぬ物を殿と徳川様にお出しするなど」
「まあまあ権六よ。目の前で料理を作っておったのは、お主も見ていたであろう。怪しい物の入る余地など無かったではないか」
「そ、それはそうですが」
「それに柴田殿。六三郎殿は一つの作業を終える度に手をしっかり洗っていたのですから、卵をわざわざ湯に入れて火を通してから中身を取り出したのも、同じ理由ではないのかな?六三郎殿」
「はい。その通りでございます。卵の外側を綺麗にした上で、中身を使うので。申し訳ありませぬが、そろそろ食した方が良いかと。この料理は熱ければ熱い程、美味だと似た様な料理で経験済みなので」
「そうか!ならば、儂から食おう!」
そう言うと殿はカツをお箸で無理矢理挟んで口に持っていった
ザクリ!ザクザクザクザク
最初の一口からカツを噛む音が聞こえて来る。そして
「美味い!!なんと美味い肉料理じゃ!二郎三郎!お主も早く食した方が良いぞ!六三郎の言うとおり、これは出来たてで食した方が美味い!」
「それでは」
殿に促されて家康も食べる。そして
「これは何と美味な。猪の肉の程良い脂が口の中で溶ける。それに、この汁を漬けると。うむ。味噌と酒を混ぜて濃厚なのに、炒った胡麻のおかげで香ばしさも加わっておる。三郎殿。この汁を漬けると美味さが倍増されますぞ。塩でも間違いなく美味いでしょう」
「もう既に食しておるぞ二郎三郎!何とも美味い!これは米が進む!」
どうやら好評な様です。場所的に恐らく肩ロースの肉だから、脂もそこそこあるけど、カツにしても重くならない部位だからね
で、2人共、完食して口の周りに衣とソースと油をつけて
「六三郎!美味かったぞ!」
「六三郎殿。誠に美味かった!」
「お褒めの言葉をいただき恐悦至極にございます」
俺が頭を下げると
「ところで六三郎よ。此度の料理、何故パオンを刻んで纏わせた?何かしらの理由があるのであろう?」
カツはこうやって作るからです。なんえ言えないしな。天ぷらの改良版とでも言えばいいかな
「はい。以前、殿にお出しした野草や野菜に麦粉を纏わせた物を、他の食材も含めて改良したら、更に美味い物が作れて、その原材料になる物が領地に有れば、
領民達が苦しい時に救える可能性も高まるかと思いましたので。麦粉からパオンを作り、そのパオンを食べるのではなく、料理の材料にしたら麦の価値も上がると思ったからです」
「くっくっく。つまりは六三郎よ。この料理も、京や堺で流行らせて来いと儂に遠回しに言っているのじゃな?」
「いえ!そういうわけでは」
「安心せい!叱責しておるのではない。これは高級品として、公家や商人共が手を出してくる。その時に、再び織田家に銭が入るぞ。ただ、一つ懸念がある」
「三郎殿。懸念とは?」
「二郎三郎。お主も分かるであろう。此度、儂達が食した程良い大きさの猪の肉が簡単に手に入る事はそうそう無い」
「それは確かに。惜しいですなあ。これ程美味い物が猪を退治出来る者しか食せぬとは」
おいおい史実の天下人3人のうち2人が俺の料理で悩んでるぞ。だけど、世の中に美味い物が増えたら、戦も減るかもしれないし、無駄ではないはずだし
言うだけ言ってみようか
「あの〜。殿、徳川様。こちらの料理、別に猪の肉でなく別の食材でも応用はききますが。それこそ、海老や魚などの魚介類は勿論、野菜でも。肉なら猪でなくとも」
「誠か?」
「それならば、色々と試す事も出来ますなあ。三郎殿。今から海老だけでも作ってもらいますか?」
「そうじゃな!二郎三郎、海老はあるのか?有るならばこの場で買おう。そして六三郎に作らせよう」
と、トントン拍子で話が進んで、海老の処理してます。背わたを綺麗に取る時、周りから
「背中にはらわたがあるのか。知らぬ事がまだまだ有るのう」とかの声も聞こえつつ
「完成しました。どうぞ」
海老フライをそれぞれ3尾ずつ出しまして
「うむ!海老が弾ける様じゃ!美味い!」
「いつも茹でた海老だけだったが、衣を纏わせて油に通すと、今までの海老料理が物足りなく感じる程、美味い!」
なんだかんだで海老フライもお気に召した様です。
で、殿から
「六三郎よ!儂の食した事の無い料理をよく作った!これを南蛮の者に食わせて度肝を抜かせてやる。そして、
再び京や堺で流行らせてくる。期待して待っておれ」
「六三郎殿。美味い物を食わせてくれた事。誠に感謝する」
「お二人共。ありがたきお言葉にございます」
こうして、俺の戦国時代の料理ショーは無事終わった。




