元服したら親父と家臣は大泣き
天正三年(1575年)三月一日
美濃国 岐阜城大広間にて
「これで、お主は今日から名を変えて柴田六三郎長勝と名乗り、儂達と同じ様に働く事になった。これから更に忙しくなるぞ」
「ははっ。殿に烏帽子親を務めていただくだけでなく、名までつけていただいた事を胸に刻み、父上の様に戦場でも内政でも働く所存にございます」
「うむ。期待しておるぞ。権六よ!倅の晴れの日じゃ。何か言葉をかけてやれ」
「では。吉六郎、いや六三郎よ。元服したとて調子に乗るなでないぞ!お主は殿や儂達から見たら、まだまだ小童じゃ。周りの先達は勿論、家臣や領民の声に耳を傾けて、人に慕われる男になれ。
それこそ、今日、この場で声が出ない程、涙を流している利兵衛は勿論、お主を見込んで来た源太郎達の為にもじゃ!」
「重々承知しております」
「ならば良い。殿、拙者からは以上です」
「うむ。では、これにて元服の儀を終了する。六三郎、共の者達に晴れ姿を見せに行って来い。利兵衛、お主も戻って良いぞ」
「「ははっ」」
こうして、吉六郎改め六三郎は利兵衛と共に源太郎達の元へ向かった
「皆!終わったぞ!」
「若様!何と見事な晴れ姿ですか!」
「めでたき日じゃ!」
「今日という日をどれだけ待っていたか!」
「ううっ。嬉しいあまり、言葉が出てこぬ!」
「若様の晴れ姿を、その場で見られる利兵衛の爺様は幸せ者ですな」
皆さんおはようございます。今日、元服して柴田吉六郎改め、柴田六三郎長勝となりました。真ん中の名前を聞いた時、頭の中に
和の鉄人と名前一緒だなー。と思っていましたが、下の名前が長勝ですよ?鬼武蔵さんと同じく、自分の一字をくれたという名誉ある事なんだけど、
これって長勝、つまり名が勝つ、とか、長く勝つとかの意味合いも有ると思うんですよ。まあ、柴田家の男には代々通字で「勝」の字が使われているそうですから、
殿はそこに気を使ってくれたんでしょう。ただ、この勝の字の話の中で親父から、親父側の爺ちゃんの名前か義勝さんだった事を聞いた時は、爺ちゃんの親父、
つまり俺から見て曽祖父にあたる人が当時幕府に仕えていたから、それで足利将軍家の通字である「義」を付けてもらえたのか?なんて思ったけど、
とりあえず、そんな昔の事より、これから先の事だよな!史実どおりに進んでしまったら、親父も俺も残り8年の寿命なんだから!
すいません。少々興奮してました。それでは改めて
「皆!皆に支えられて、今日という日を迎えられた。この場に居ない者達も含めて、これからもよろしく頼む」
俺は6人に頭を下げた。そして、皆から
「若様。頭をお上げ下さい。我々は命が続く限り、若様をお支えします」
「うむ」
こうして、俺の大人としての1日目は終わった。
同日夜 岐阜城内にて
「権六。あの場では、少しくらい泣いても良かったのだぞ?」
「殿。お心遣いはありがたいのですが、それでは倅の為にならないと思ったのです。それに拙者の代わりに利兵衛が泣いてくれたのですから」
「そうか。お主は良き親父じゃな」
「殿。ありがたきお言葉です。しかし、無理だと分かっていても、死んだ嫁には倅の晴れ姿を見せてやりたかった。と、心より思っております」
「そうか。ならば今宵の酒は権六の嫁へ捧げる酒として、そして、六三郎が無事に元服出来た事を祝って呑もうではないか」
「殿。今日ほど、織田家に仕えた事が幸せに感じる日はありませぬ」
「はっはっは。何を申すかと思えば、天下統一まではまだまだじゃぞ!織田家が天下を取り、泰平の世になれば権六、お主は孫を抱けるであろう!その日が来たら、今日以上の幸せを感じるじゃろう」
「殿。拙者の様な老骨ですが、命続く限り、殿をお支えします」
「うむ。頼りにしておるぞ!」
こうして元服の1日は終わった。




