鬼嫁襲来!
天正二年(1574年)十月十五日
遠江国 浜松城内にて
「殿。岡崎の三郎様からの文でございます」
「ほう。この時期に文とは。竹千代が順調に育っておる事の報告かのう」
岡崎で瀬名が鬼嫁に変身してから10日後、信康からの文が家康へ届いた。情勢が落ち着いているからか家康は、危険な内容ではないと思いながら文を開いて読み出した。すると
「い、いかん!!」
「殿?如何なされましたか?」
「岡崎から瀬名が来ると書いてあるのじゃ!!しかも此処に来る商人と共に来ると!」
「そ、それはもしや」
「避難させておる古茶達の事が露見したかもしれぬ!文の中にも「恐ろしい顔をしており」とある。ど、ど、ど、どうすれば」
瀬名の気位の高さを知っている家康はパニックになり右往左往した。しかし、
「二郎三郎!しっかりしなさい!」
騒ぎを聞いて来た於大の声で、落ち着きを取り戻した
「は、母上」
「全く、何を慌てふためいているかと聞いていたら、瀬名が此方に来るそうですね。恐らく古茶達の事でしょう。これ以上隠す事は不可能です。覚悟を決めなさい!」
「母上も瀬名の気位の高さは知っているでしょう。覚悟を決めても瀬名の怒りを落ち着かせるには」
「二郎三郎!こういった時はじっくりと話し合うしかありませんよ。下手な策を使ってはいけません!火に油を注いでしまいますよ」
「それはそうですが」
「話し合いの場には私も顔を出します。瀬名はあなたのお手つきに小言を言うだけだと思いますが、二郎三郎。あなたは言い訳せずに全てを話しなさい」
「はい」
於大の言葉で家康は覚悟を決めた。
天正二年(1574年)十月二十五日
遠江国 浜松城内にて
「瀬名。岡崎からの道中、辛くなかったか?」
「•••••」
「三郎と徳の夫婦仲は変わらず良いか?」
「•••••」
「久方ぶりに見た瀬名は、より美しいのう」
「•••••」
信康からの文が届いてから10日後、瀬名は家康の前に居た。家康は自分と於大だけでは空気が重苦しくなると思い、戦慣れしている本多忠勝や榊原康政といった武闘派を集めていたが、
その武闘派達ですら言葉を発せない程、瀬名は怒りの空気を纏っていた。その空気を家康も感じていたが、それても何とかこの空気を打開しようと頑張っていた
「そ、そうじゃ瀬名。孫の竹千代は大きくなってきておるのではないか?儂も祖父として早く見たいのう」
「殿には竹千代と歳の変わらぬ子が居るではありませぬか」
「せ、瀬名?」
「誤魔化しても無駄です!此方に来る商人の荷の中に竹千代には小さい赤子用の召物が有り、「これは徳川家へ売る物」だと言質を取っております。
それに家臣に子が産まれたならば、殿は家臣に何かしら与えているのに家臣達は特に変わった様子も無い!
それならば殿に子が産まれたと思ったからこそ、私は此処に来たのです!
殿!真実を話してくださいませ!」
「わ、分かった。順を追って話すから落ち着いてくれ」
「分かりました」
瀬名が落ち着いてから家康は話し出した。全てを聞いた瀬名は
「何故ですか殿。私という正室が居ながら、義母上の侍女に手をつけるなんて。私は、もう殿には不要なのですか?」
複雑な感情が爆発したのか泣き出した
その場に居た男達は、誰も何も言えなかった。それを察した於大が
「瀬名。あなたが不安にかられてしまう事も分かります。ですが、徳川家の繁栄の為に男子が三郎や竹千代だけでは少ないから万が一を考えて、二郎三郎が子を更に増やす事は必要だと理解して欲しいのです」
「義母上」
「二郎三郎!あなたからも」
「瀬名。此度の事、責めるならば儂だけを責めてくれ!竹千代の後に産まれた子も儂には大切な子じゃ。それに、瀬名への情愛が無くなった訳ではない!分かってくれ」
家康の言葉を聞いた瀬名は
「私や三郎や竹千代を一番に考えてくださるのですね?」
「勿論じゃ!」
「そのお言葉が聞けただけで、私は幸せ者です。ですが殿、義母上のお言葉を聞いて私も殿の正室として、殿の子を産んでくれた古茶殿を大切な存在だと思います。
だからこそ、殿。私達だけでなく古茶殿親子にも情愛を注いでくださいませ」
「そう言ってくれる瀬名を正室にした儂は、大層幸せ者じゃな。瀬名、誠に感謝いたす」
家康は瀬名の怒りが無くなった事に、於大は息子夫婦の危機が去った事に、それぞれ安堵した
史実とは違う内容ですが、なろう小説という事で御理解くださいますよう、お願いします。




