徳川家の問題ですよね?
天正元年(1573年)十月十日
遠江国 浜松城内にて
場面は十月の徳川家に変わって、家康が家臣の本田正信からの報告を受ける所
「誠か?誠に儂の子を授かったのか?」
「五月の頃に殿と風呂場で。と、古茶殿本人は申しております」
「あの時の」
「はい。なので、女児ならば織田家を始めとした大名家へ嫁入りさせて縁を繋ぐ事も可能ですが、
万が一、男児だった場合、岡崎に居ります築山様に露見したら、大変な事になると思われますが?」
「ううむ。たった一度いたしただけなのに」
「殿。子に関しては十回いたしても授かれない者も居りますので、回数の問題ではありませぬ。それよりも」
「うむ。とりあえず古茶本人を呼んでくれ」
「ははっ」
話の内容から家康が侍女か家臣の娘にお手つきした結果、妊娠したと報告を受けた様だった。家康としては無碍に扱うなどしたくないが、
産まれてくる子が男児で器量次第では、要らぬお家騒動になりかねないと心配していた
そんな中、
「殿。古茶殿をお連れしました」
「古茶でございます」
全員ではないが、家臣が揃っている中で家康は
「古茶よ。誠に儂の子を授かったのか?」
「はい。五月の頃にいたした時の子で間違いありません。殿といたしてからは、誰ともいたしておりません!!」
オブラートに包んでいるが、はっきりと強い口調で「私は殿以外の男とはヤッテいません」と古茶は言い切った
それを見た家康は
(儂も身に覚えがあるから何も言えぬ。信玄坊主の死が確定した事で気分が高揚して、
風呂場で儂の背中を洗っていた古茶を押し倒してそのままいたしてしまったからな)
どうするべきかを家康は考えていた。そして、
「古茶よ。儂の子を授かってくれた事、誠にありがたい。だが、今のままでは他の侍女から嫌がらせを受けてしまって、子が流れてしまうかもしれぬ
お主の安全の為に、出産までは本多作左衛門の領地に避難してくれぬか?」
「はい」
「作左衛門。丁重に扱う様にな」
「ははっ」
こうして一時的にではあるが、家康は正室の瀬名にばれない様に古茶を隠した
それから2ヶ月後
天正元年(1573年)十二月十五日
遠江国 浜松城内にて
「殿!岡崎の築山様より文が早馬で届けられました」
(な、何?まさか、もう古茶の事が露見したのか?)
古茶の事がバレたと思った家康は内心、とても焦っていた。しかし表面上は平静を装い
「そうか。どれ、文を見せよ」
そう言って家康は文を取って、読み始めた。そして
「産まれたか!儂の孫が!しかも男児じゃ!母上を連れて参れ!これは知らせないといかん!」
側に居た小姓にそう命じると、小姓は於大を連れて来た
「二郎三郎。何事ですか?」
「母上!岡崎の瀬名より、三郎達の子が産まれたと!しかも男児であると、先程早馬で文が届きました」
「遂に産まれたのですね!しかも男児とは。早く岡崎に行ってひ孫に会いたいですね」
「拙者も早く孫に会いたいです。今年は誠にめでたい年ですな」
家康は嬉しそうな顔で於大と話していたが、急に於大の顔が真顔に変わり
「二郎三郎。確かに私にとってのひ孫、あなたにとっての孫の誕生は大変喜ばしい事です。
ですが、あなたの子を授かっている古茶はどうするのですか?まさかこのまま無かった事にするつもりでは無いでしょうね?」
「は、母上。何故古茶の事を」
「あの子は侍女の中でも一、二を争う程の働き者です。その働き者が、何の挨拶もせずに城を去るなどおかしいと思いましてね。
侍女達に色々聞いて、情報を伝いながら探したのですよ。そしたら、あなたのお手つきになって子を授かったのに、本多作左殿の領地に身を隠しているそうではないですか!」
「それはそうですが」
「どうせ、瀬名に露見したら古茶も子も命が危ないからとの配慮だと思いますが、古茶の子も、三郎と同じあなたの子なのですよ!」
「それは重々承知しております」
「ならば、毅然とした態度を取りなさい!そして大事にしてあげるのです!出来る限りで構いませんから!」
「はい」
こうして、孫の誕生という慶事の日に、母親に怒られる家康だった
そこから更に2ヶ月後
天正二年(1574年)二月十日
遠江国 浜松城内にて
「殿。お伝えしたき事が」
「何じゃ?武田が攻めてきたか?今の信玄坊主の居ない武田なら、一昨年の様には」
「古茶殿の事です!二日前に無事、出産なさいました。母子共に健康にございます」
「おお!そうか。だが、作左よ。新たな命が誕生したというのにも関わらず、何故その様な暗い顔をしておる?」
「それは、古茶殿の子が双子だったのです!」
「双子じゃと!?まさか、男児の双子か?」
「いえ。男女の双子にございます」
「男児の双子で無いだけまだ良かったと言えるか。しかし、どう扱えば」
家康が悩んでいると
「二郎三郎」
「母上」
「古茶が子を産んだ事、その子が男女の双子だった事も。どうするつもりですか?」
「男児の方は、三郎や三郎の子に万が一の事が起きた場合の為に手元に置いておきますが、女児はそのまま寺に入れて尼にでもしようかと」
「二郎三郎!!」
於大の突然の大声に家康を始めとした、その場に居た全員の背筋が真っ直ぐになった
「良く聞きなさい!!私の様な夫を亡くしたり、親を亡くして生きる為に尼になる女は居ても、
産まれたばかりで、親もちゃんと生きている女を即、尼にするなど、人生そのものを奪うつもりですか!?」
「し、しかし母上。畜生腹と言われたりするのですぞ。肩身の狭い思いをさせるよりは」
「その様な古い世を壊す為にあなたは織田殿と共に戦っているのではないのですか!?」
「そ、それは」
「三郎も、古茶が産んだ双子も、私にとっては可愛い孫です。双子が外聞が悪いと言うならせめて、あなたが縁を繋ぎたい人の家に女児を嫁がせるなりしても良いのではないですか?」
「それならば尼にするよりはましですが、そうなると三郎殿くらいしか居ないのですが」
「ならば織田殿に聞いてみなさい。それでもしかしたら、嫡男殿の側室になったらありがたいですが、織田家家臣の嫁でも生きていけるのですから。良いですね?
最初から全ての可能性を捨てたり、奪ったりしてはいけませんよ?」
「はい。肝に命じます」
こうして家康は信長に相談の為、この件の文を送った。数日後に帰ってきた答えは
「そう言う事なら、美濃国の東端の柴田家の領地に母子共に一時的に行かせて、時期が来たら迎えてやるというのはどうだ?
柴田家、というか領地を実質的に差配している吉六郎の影響で、そういった事を気にしない場所になっているぞ」
との事だった。それを家康は於大にも見せた
「去年は三郎達が世話になっておきながら、また今年も世話になるとは」
「二郎三郎。この件、私が説明とお願いをしに古茶と共に向かいます」
「母上が?いや、文も有るのですから家臣を付き添わせれば」
「それでは相手方に失礼でしょう!!それに家臣を付き添わせたとしても、向こうで古茶と子供達だけになるではないですか!」
「侍女も何人か付けて」
「古茶は元々侍女をしていたのですよ!つまり、侍女だった時の同輩が居たら、嫉妬で最悪の事が起きてしまうかもしれないでしょう!」
「では、どうすれば?」
「私が新たな侍女を見つけて、共に向かいます。だから二郎三郎。織田殿には五月頃に世話になると文を出しておきなさい」
「分かりました」
徳川家と織田家でそんなやり取りがされていた事を知らない吉六郎は、信長からの文を読んで
「はあ?徳川家の方々が此処に来る?また、何があったのか?政治的な問題ならまだ納得は出来るけど、家中の問題じゃないよな?」
自らフラグを立てる吉六郎だった。




