指名を受けるか否か
信長から指名を受けた信元は、部屋を出てから屋敷に戻るまでは勿論、夕飯を食べている時も信長からの話が頭の中から離れなかった
夫のいつもと違う様子に、側室の沙耶から
「藤四郎様。何か気になる事でも?城から戻って来てからずっと様子がおかしいですよ?」
「やはり分かるか。実はな」
信元は沙耶に、信長から言われた事を話した
「藤四郎様は、武功を挙げる機会が無くなる事から、お話を受けかねているのですよね?」
「うむ。現在でも一向宗の坊主達と皆が戦っている中で、これから畿内の戦も激しくなるというのに、武田への睨みという大役はあれども、戦が無い場合を考えるとな、
沙耶が儂の立場だったら、どの様に考える?」
「私でしたら、このお話を受けます」
「ほう。何故じゃ?理由を教えてくれ」
「理由としては、確かに畿内の戦には参戦出来ないでしょうが、畿内以外の場所での戦に必ず参戦させるという確約をいただいたらよろしい事と」
「事と?」
「今年産まれた松千代です。今のところ、藤四郎様のお子の中で唯一の男児ですので、父無し子にしたくない。が理由です」
「それが理由では儂は良くても、家臣達が」
「最も、これは表向きの理由です。裏向きの理由も聞いてください」
「話してみよ」
「実は、前年の徳川家へ援軍として共に遠江国へ行きました、佐久間様と平手様の家臣が話しているところを聞いたのですが、
その者達は「水野様は、織田家を裏切って徳川家へ出奔しようとしている。だから、三方ヶ原の戦の前に徳川様と二人だけで
話し合いをしていたのだろう。そのうち織田家が戦をしている最中に大殿を誅殺するに違いない」とあまりにも荒唐無稽な事を言っていたのです
私は、その者達をその場で問い詰めたかったのですが、事が大きくなる前に、藤四郎様に話しておこうと思いまして」
「なるほど、裏向きの理由は中々の内容じゃな」
「ですが、藤四郎様。その様な話を殿が信じているなら、御正室の帰蝶様の血縁者の幼子の師となる大役を、裏切るかもしれない者に任せると思いますか?」
「それは確かに」
「これは推測ですが、殿は藤四郎様が佐久間様や平手様から嫉妬や妬みを受けているけれど、
これまでの働きや徳川様との関係を含めて、二人やその家臣達から誅殺される可能性が有るからこそ
柴田様の領地へ行かせる話をしたのかなと」
「ううむ。確かに有り得ぬ話ではないか。儂の妹が徳川様の生母である事を知っておるのは、殿と柴田殿を含めた一部の人だけ。
それを殿は公表しないのは、儂を特別扱いしないと同義と見て良いのだろうな」
「そうだと思います。それに、柴田様の嫡男の吉六郎殿は「神童」と呼ばれる程の才溢れる子にございます。
藤四郎様が色々教えて教養を深めていけば、今度は吉六郎殿は勿論、帰蝶様の血縁者の幼子までもが松千代の良き師となってくれると私は思います。だから、この話をお受けくださいませ」
「そこまで考えてこその受けるべき理由という訳か。分かった!この話、お受けしよう」
「柴田様の領地へ行っても、全身全霊で殿をお支え致します」
「娘達や家臣達は嫌がるかもしれぬが、その時はその時じゃな」
こうして信元は信長からの話を受ける事を決めた。
信元さんの子供の母親の名前は適当に決めました。




