刀禰坂の追撃戦〜後半〜
この作品はフィクションです。史実と違いますので、その点、ご理解ご了承ください。この作品初めての合戦シーンを書きました。
信長達追撃軍が二又の右側を全速力で走っている頃、朝倉義景の軍は信長と勝家の読みどおり、右側を走っていた
〜〜朝倉軍〜〜
「越前まで後如何程か?」
「殿。先程も同じ事を聞いていましたぞ?まだまだ先ですので、落ち着いてくだされ」
「う、うむ」
「良いですか殿?此度の戦も本来なら、殿が前に出て兵達を叱咤激励すれば、数の差で我々が勝てた筈なのですぞ。それを殿が横柄な態度で一部の家臣から嫌われている孫八郎様(朝倉景鏡の事)に采配を預けた結果、統率が乱れ、織田軍に攻められ、この敗走に繋がったのですぞ?」
「分かっておる。だからこそ、孫八郎も責任を感じて囮として反対の道を進んでおるではないか」
「正直に申すなら、この子供騙しな策に織田がかかってくれるとは思えないのですが?孫八郎様達の軍勢が攻められた場合、殿を逃がす時を稼げると思いますが、最悪の場合、殿の居るこちらの軍勢を攻められた場合はどうするのですか?
「織田のうつけは孫八郎達の軍勢に騙されるに決まっている。あちらの方が兵が多いからな。それに、この激しい雨じゃ。織田の軍勢の足も鈍るに違いない」
「なら、良いのですが」
「無用な心配じゃ。ほれ急ぐぞ」
義景は家臣の言葉を無視して馬を進めた。坂の出口に近い下り坂に入った時だった
ドドドドド
「な、何じゃ?この地鳴りの様な音は?」
「注進!!注進!!この軍勢を織田軍が追撃しており、既に殿は壊滅!間もなく先頭に来ます。お急ぎくだされ」
「な、な、何じゃと?」
「殿!この策が見破られたのです。こうなったら殿は僅かな手勢を連れて坂の出口に行って孫八郎様達と合流してくだされ。我らが織田軍を止めて、時を稼ぎまする」
「山﨑!済まぬ!」
義景は山﨑と言う名の家臣にそう言うと、馬を走らせた
〜〜織田軍〜〜
「権六!」
「何でございますか殿?」
「お主の家臣の足軽達は凄いな。雨降る中の泥道を我ら馬乗りに遅れを取らずに着いてくるとは」
「お褒めの言葉ありがたき。足軽達は倅と共に山中を走りながら修練を行なっておりましたが、役立つ日がこんなにも早く来るとは思わなかったですぞ」
「柴田様。倅と言うのは吉六郎殿ですな?まだ五歳の筈ですが、既に修練を行なっているのですか?」
「久太郎。権六の倅は三歳の頃から修練を行なっているぞ。童用の模擬槍を小さいながらに振っておるのを見た時は幼いながらに権六に瓜二つであった」
「殿。お恥ずかしいので、その話は」
「そうじゃな。朝倉を叩いてからじゃな。っと、権六、久太郎。足軽達を止めよ」
「「?ははっ」」
勝家と秀政は訳が分かってなかったが、言われるままに足軽達を止めた
「殿?何故止めたのですか?」
「朝倉は未だ見えないのですぞ?」
二人の質問を信長は手で制した
「二人の疑問も分かる。だが、暫し待て」
信長にそう言われては二人も黙るしかなかった。しばらく待つと、信長はある場所を指差した
「あれを見よ」
信長の指差した先には
「「あれは朝倉の三盛木瓜の旗」」
二人は思わず声が揃った
「うむ。旗があると言う事は近くにいる証拠。狙う首が近くにあるなら、戦力は多い方が良いからな。だからこそ、足軽達を休ませた。と言っても権六の足軽達は全く疲れておらぬな」
「殿。我ら柴田勢、先陣を承りたく」
「うむ。権六達に先陣を任せる。久太郎、権六達に続け」
「「ははっ!!」」
「では朝倉狩りを始める!突撃じゃあ!!」
「「「「おおおお!!!!」」」」
勝家達先陣が突撃を開始して間もなく、朝倉軍の殿を発見した
「居たぞ!!朝倉じゃあ!足軽の首は打ち捨てよ。狙うは朝倉義景の首ひとつじゃあ」
「「「「おおおお」」」」
柴田勢二千の軍勢は勝家の咆哮と共に殿に襲いかかる
「おらあ」
「死ねえ!」
「ひいい」
「た、助け」
柴田勢の足軽達は泥道など気にせず、朝倉の足軽達を討ち取っていく。その様子は戦ではなく、一方的な蹂躙であった。その中でも、主君勝家の戦いは敵から呼ばれるあの渾名に似合う働きであった
「どけえ!織田家の天下を邪魔する者は死あるのみじゃあ」
「ひ、ひいい」
「お、鬼じゃあ」
「ぎゃあああ」
柴田勢の働きにより朝倉軍の殿は壊滅した。その働きに信長は顔を崩した
「権六と兵達よ。見事な働きであったが、まだ殿が壊滅しただけじゃ。未だ朝倉義景は見えぬ。気を抜くでないぞ?」
「ははっ!」
「うむ。気は緩んでないようじゃな。ならば先を急ぐぞ。久太郎。次は其方達が先陣じゃ。気張れ」
「はは」
「では参るぞ!突撃じゃあ」
信長達は再び全速力で朝倉軍の先頭を目指した




