主人公は金策に、家臣は肉食女子に悩む
元亀四年(1573年)三月五日
美濃国 柴田家屋敷内にて
「若様。大殿から申し付けられたお役目を全うしようというお気持ちは分かります。ですが、それならば相手側から半分以上の金銭を出してもらう様に言わなければ、柴田家の金銭が減る一方なのですよ」
皆さんこんばんは。現在家臣の利兵衛に「金を使いすぎだよ!ちゃんと考えろ!」のお説教を丁寧な口調で言われて、静かに聞いております柴田吉六郎です
いやまあ、ねる○んパーティーは大成功になったんですよ。カップルが40組出来て、振られてしまった男性陣も暴れる事が無かったので安心していたら築山様から、
「振られてしまった者達に美味い酒でも振る舞ってくれぬか?」と言われまして
酒を呑ませてみたら、泣き上戸が多いし、会話が「父上、母上、嫁取りが出来ず申し訳ありませぬ」等の激重な内容だったしで
「これは酔い潰れるまで呑まさないと切腹するかもしれない」と思って、徹底的に呑ませたら、酒樽4つ空にするまで呑み続けて、やっと地獄の呑み会が終わりました
信康さんと徳姫様からは「家臣や侍女達もこれでより一層仕事に励むだろう。感謝しかない。それで使った銭の事じゃが」
と言われたので、「いりません」とは言えないけど「全部寄越せ」とも言えないので、どうするのかと思ったら
「父に頼んで出してもらう」と2人揃って親の脛を齧るニート発言して来ましたよ。
お気楽なお坊ちゃん&お嬢様発言に軽くイラっとしたし、「お二人のお父上の現状を知ってますか?」とツッコミたかったが、
そんな事したら、親父から何を言われるか分からないし最悪の場合、親父が切腹に追い込まれるかもしれない。まあ、これは考えすぎかもしれないけど、このお気楽若夫婦を怒るのは父親達に任せよう。
でも、そのまま放置もよくないし、とりあえず親父へ文を渡してもらう為に岐阜城へ届けてもらうか。内容は「若夫婦の我儘を聞いたら、家のお金が減りまくったので、家の物を売ってもいいですよね」をオブラートに包んで書こう。
吉六郎は信長経由で勝家に文を届けてもらおうと筆を取った。中身を信長が見る事を一切考えなかったので、それが信長の娘夫婦への怒りをヒートアップさせる事になるとは全く知らない。
吉六郎が金策に頭を抱えている頃、飯富兄弟の弟の源次郎が兄の源太郎の元を訪ねていた
「兄上、源次郎です。入りますぞ?」
「ま、待て源次郎!暫し待ってくれ!!」
源次郎は源太郎の珍しく慌てた様子を疑問に思った。しかし、その疑問は即座に解決した
「源太郎様〜。私は源太郎様より年はひとつだけ!上ですが、ちゃんと子供は産めますよ。だ・か・ら」
「光殿!こ、こういうのはちゃんと順序よく行かないと」
「それならば、私の母に挨拶に今すぐ行きましょう!そうしましょう!」
「光殿。母君のつる殿は松平家の侍女の皆様に美容の指導をしていて忙しい日々なのですから、落ち着いてからでも」
「もう。源太郎様がそう仰るなら、我慢しますけど。私は早く源太郎様と夫婦になりたいのですからね」
源太郎が光に迫られてあの手この手を使って何とか落ち着かせる為に大声を出していたので、源次郎は源太郎の状況が理解出来た
そんな兄を可哀想だと思っていたが、今度は自らが可哀想な立場になった。源太郎の部屋の前で待っていると
軽い殺気を感じて振り返ると、花が立っていた。花は開口一番
「源次郎様〜?何で私のところではなく姉様のところに来ているのですか?」
と可愛らしい見た目とは裏腹に怒りの感情が籠った声で近づいて来た
「は、花殿。いや、花殿の姉君に用があるのではなく源太郎兄上に用があって来たのであって、決して」
「決して?何ですか?私という将来の嫁が居ながら、姉様がいる時に源太郎様のお部屋に行く理由はなんですか?」
「兄に用があっただけです。本当です」
「本当ですね。源次郎様は私が夫婦になりたいと思った御人ですし、あの吉六郎様が召し抱える程の武士ですから、他の女子にうつつをぬかすとは思わないですけど」
花の強すぎる圧に源次郎は
「は、花殿。夫婦になる話は落ち着きましたら、ちゃんと話しますから」
遠回しな感じのプロポーズをする形になった。それを聞いた花は
「姉様!聞きましたよね!」
大声で光を呼ぶ。そして源太郎の部屋の襖が勢いよく開くと
「源次郎殿!この耳でしかと聞きましたよ。今更「やっぱり花と夫婦になりません」は通じませんからね!?」
光が大声で周りに聞かせる様に叫ぶ。源次郎は部屋の中の源太郎に助けを求めるも、源太郎は「無理だ!諦めろ!」の意味合いで首を横に振った
そんな飯富兄弟を尻目に光と花の姉妹は
「それでは母に事の次第を伝えて来ます」
そう言いながら屋敷の台所に向かった。残された飯富兄弟は部屋の中に入って改めて
「兄上、儂は」
「源次郎。分かっておる。吉六郎様が嫁取りをしておらぬのに、先に嫁をもらっていいのか?という事と花殿の積極性に驚いておるのだろう」
「そのとおりです。大殿から新たな名をいただいて、吉六郎様からも色々な役割をいただいているのに」
「源次郎。吉六郎様は家臣が先に嫁取りしても怒る様な器の小さいお人ではない。それはお主も知っているであろう。そうでなければ、武田から降った我々を軍勢の主力として扱うなど有り得ぬ」
「それは確かに」
「吉六郎様なら逆に「めでたい事じゃ!大いに祝おう!」と仰ってくれると思うぞ」
「確かに」
「源次郎。お主と同じく儂も光殿の積極性には驚いておる。甲斐国では年の近い女子のほとんどは位の高い家臣の子供だったから話す事など無かったしな。まあ、恐らく松平様一行が岡崎に戻られたら、儂も覚悟を決める。お主が先でも別に構わん」
「兄上」
「父上も母上にあの様な感じで愛されておったし、「飯富の男は強い女子に惚れられる」と思えば納得出来るものじゃ。そういう事にしておけ。あれ程の美しい女子を捨てたなら源次郎、お主。いや、ここから先は言わないでおこう」
「いや、兄上。そんな恐ろしい事を途中で止めるのは」
「冗談じゃ!ただな、吉六郎様も、大殿も、そして父上も。我ら兄弟や家臣が幸せになる事を喜びはすれど咎めぬはずじゃ!だから、うしろめたい気持ちになるな。お主に惚れておる花殿に失礼じゃ」
「分かり申した」
「それで良い。良き夫婦になるのだぞ」




