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マジック・リヴァイヴ・ホロウネス  作者: 海森 樹
第一部 新たなる戦い
81/222

1-7-2 無力(2)

 ルクリウスが帰ってから、俺は再び書類と格闘していた。

 書類の山の中に一際分厚い塊を見つけて確認すると、ドスレイ関連の騒動の後始末の書類が回ってきていた。

 これは後回しにしたほうが面倒になるのは目に見えているので、眉間を解しながら内容を読み込む。


 アシュロン公爵家とシュルネル伯爵家は取り潰しになり、代わりに中立派の貴族の大物ガンダロン伯爵にシュルネル伯爵領を与えるということらしい。

 アシュロン公爵領は王の直轄領になるが、ガンダロン伯爵が代理として管理することになる。

 

「大丈夫なのか……? これは……?」

 

 シュルネル伯爵が最初からアシュロン公爵軍に合流していなかったのは、領地がそれなりに離れているからだ。

 隣り合っていない領地をまとめて見るということは可能なのだろうか?

『伝意』を発動してエーデルロンドを呼ぶ。

 しばらく他の書類を見ている間にエーデルロンドがやってきたので、領地の管理の件について尋ねる。

 

「シュルネル伯爵領とアシュロン公爵領は大丈夫なのか? ガンダロン伯爵が両方見るという事になっているんだが?」

 

「ええ。アシュロン公爵領の方は実質名前だけですね。一応アシュロン公爵家は取り潰しになりましたけど、子どもたちは残っております。将来的にガンダロン伯爵の息子とアシュロン公爵の娘を婚姻させて、跡を継がせるという形で収める予定です。アシュロン公爵の名前は絶えますけど、血は残るということで手打ちですね」

 

 そうしないと、家臣たちやアシュロン公爵派閥の貴族たちが黙っていないでしょうし、とエーデルロンドは呟いた。

 

「なるほどな……まあ、いいだろう。手負いの獣を追い詰めすぎるのも良くない。貴族的なことはいいが実務は大丈夫なのか?」

 

「アシュロン公爵領の実務を担当していたのは家臣たちですから。アシュロン公爵領の領地経営はこれまで特に問題はありませんでした。引き続き実務を行わせて問題はないでしょう。誰の領地かというのが変わるだけです」

 

「なるほど」

 

 俺はアシュロン公爵家絡みの書類を承認の箱に分類した。

 元々、俺には無実のアシュロン公爵を処刑したという負い目があった。

 アシュロン公爵の家族や家臣が落ち着いて暮らせるのであればその方がいいだろう。


 エーデルロンドはそこまで考えてこういう形にしたのだと俺には分かった。

 だが、エーデルロンドにあえて何かを言ったりはしなかった。

 

「……ガンダロン伯爵の派閥は中立派という話だったが、だんだん親国王派になっていないか?」

 

「いえ、彼らは別に陛下に対して親しみを感じているわけではありませんから。アイルゴニストのために自らの職務を全うするという人たちです。そのまま中立派でいいのではないかと思いますね」


 変にすり寄って来られるのは好きではないが、普通は新しい国王に取り入って美味い汁を啜ろうと考えるものではないだろうか?

 今の所そういう気配は全くない。


「今の貴族の派閥はどうなっているんだ?」

 

「今は中立派と反国王派の二つでしょうか?中立派が主流派ですね」

 

「ふーん、俺はどうも人望がないみたいだな」

 

「貴族に対して優遇しなければ好かれることはないでしょう。前国王ヘインレル陛下はその点バランスよくやっていたようですね。陛下は民からの人気があるのでよろしいのでは?」

 

「まあ貴族に好かれているよりはその方がいいか……ところで、先程ルクリウスが来たんだが、七聖会議に招待されてな。しばらく聖地に行くことになるんだが……」

 

「……七聖会議はいつからですか?」

 

「……三日後からだな」

 

「お断りしてください」

 

「いや、しかしな……無下に断るということも難しい」


「観光でしょう?それならもう少し落ち着いてからでもいいのでは? 七聖会議の祭りは盛大だと聞きますが、来年でもよろしいでしょう?」


「いや、観光ではない……俺を七聖に任命するから来い、と言われたら行かないわけにはいかんだろう」

 

「七聖に!?」

 

 エーデルロンドが驚いて声を上げる。

 俺は七聖に任命されたということを先に言えばよかったと後悔した。

 

「ですが、仕事が溜まっていらっしゃるのでは……?」

 

「徹夜でやるしかないか……」

 

「無理しすぎで身体を壊すほうが問題だと思いますが」

 

「まあ、そこは魔法で体力を回復させながらやるよ」

 

「陛下がよろしいのであれば、私は構いませんよ」

 

「ふう……エーデルロンドは付き合わなくていいぞ。分からないことがあったら、朝起きてから聞くから……」

 

「わかりました……流石に私は不眠不休で仕事をしたら倒れますから」

 

「……少しは休んだらどうだ?」

 

「私も休みたい気持ちはあるんですけどね……」

 

「優秀な人材がいたら連れてきていいぞ」

 

「そういう人がいればいいんですけど。ルイアンも頑張ってくれていますが、なかなか手が足りず……聖地から優秀な人を引き抜いてきてください」

 

 俺はエーデルロンドの言葉に肩をすくめる。

 教団の人間に有用な人材がいるとは思えない。

 あそこはただの狂信者の集まりだ。

 

 エーデルロンドが引き上げてから、俺は集中して書類を読み込む。

 ミアに手伝わせようかと思ったが、俺のところに回ってくる書類は他の人間が代わりに処理できないから回ってきているのだ、という正論をエーデルロンドに言われてしまった。

 諦めて自分で読んでいく。

 

 ちょうど集中が高まってきたときに、ドアをノックする音がした。

 返事をしないで無視していると勝手にドアが開く。

 

「……お邪魔します」

 

 入ってきたのはリーリアだった。

 王女様だというのにマナーが悪いな。

 ノックをして返事が無かったのに、部屋に入ってくるなんて。

 

 俺は無視したまま書類を読んで分類していく。

 俺が何も言わないから気がついてないと思ったのか、リーリアは俺の顔と書類の間で手をひらひらして気を引こうとする。

 流石に邪魔なので、俺は注意をすることにした。

 

「……出ていってほしいんだが」

 

「レイン様が無視するので」

 

 リーリアは間近から俺の顔を覗き込んでにっこりと笑った。

 リーリアから漂う花のような匂いが鼻腔をくすぐる。

 匂いを嗅がせるためにわざと顔を近づけて来たんだな、と俺にはわかった。

 和解してから、リーリアは異様なまでに距離を詰めてきていた。

 その度に俺の頭の中で償い、の2文字がちらつくのであまり邪険にはできないでいた。

 

「はぁ……悪いが俺は忙しいんだ。聖地に行く前に仕事を片付けなきゃいけないからな」

 

「聖地に行くんですか?」

 

「ああ。七聖に任命されるから、そのお披露目だと」

 

「七聖!?」

 

 ああ、このやり取りさっきもやったなと思った俺は頭が痛くなった。

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