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マジック・リヴァイヴ・ホロウネス  作者: 海森 樹
第一部 新たなる戦い
8/222

1-2-1 準備(1)

「腹減ったな……」


 俺がハイリーン平原で作業を始めてから三日が経っていた。








 アイルゴニスト王となった俺がまずやったことは王城勤めの人間の解雇だった。


 メイドや執事、料理人や庭師など約三百人の人間がそれまで王城で雇われていた。


 それら全員にまとめて解雇を言い渡すことを決めたのだった。


「そうなると王城を維持することができなくなります。さらに、それだけの者が職を失うとなると大きな混乱が発生するかと……」


 俺の補佐をすることになった王国主席魔法使いのエーデルロンドが反対意見を述べる。

 政治の素人である俺の補佐をする人間は必要だったが、適切な人間がいなかった。

 俺は貴族なんか嫌いだし、貴族としても平民出身の俺の下になるというのはプライドが許さなかったのだろう。

 そういういきさつがあってエーデルロンドに無理やり押し付けられた形になった。


 腰まである薄緑の長い髪。常に憂いを帯びた端正な顔。

 こいつが女だったらよかったのにと思うが、残念なことに男だ。

 主席魔法使いだけあって魔法の能力は高いし、数日間仕事ぶりを見た限りでは有能そうなので十分ではあるが。


「そいつらの中で希望者はハイリーン平原に連れて行く。俺は王城に住むつもりはないし、王城の維持は魔法で出来る範囲に留める」


「ハイリーン平原……?」


 エーデルロンドが顎に手を当てて首を傾げる。


「そうだ。王城というか王都は西すぎて地理的に不便だからな。王都をそのままハイリーン平原に移動させることも考えたが、ハイリーンを新王都として開発するほうがいいだろうと思ってな。あそこは俺の所有物だから王の直轄地にしたところで誰からも文句は出ないだろう」


「まさかアイルゴニストとハーフレイルを同時に統治するためにですか?」


「まあ、そういう側面もある」


 十三万の兵を動かして為す術もなく敗北したハーフレイルは軍事的に逆らうことは不可能だろう。

 事実上の属国みたいなものだ。


「ゆくゆくはアイルゴニストに取り込むのもいいだろう。ただ同盟と交易で結束を強めるだけでもいいかもしれん」


 アイルゴニストの統治ですら問題だらけなのにハーフレイルも、となると負担が大きすぎる。

 俺では解決できない問題も出てくるだろうから、とりあえずそのままの形で残すつもりだった。


「それでも変な動きをしないか監視は必要だからな。しばらくはこちらに逆らうような馬鹿な真似はしないだろうが」


「わかりました。他にも理由があるのですか?」


「王都はきらいだからな。新しい土地ならしがらみも少ないし、自由にできる」


 ハイリーン平原は広大で豊かな土地だ。

 見渡す限り平原だから開発がしやすく、街や畑を作るのにも適している。

 それなのに手付かずだったのはアイルゴニストとハーフレイルの国境だからだ。


 アイルゴニストとハーフレイルは元々それほど悪い関係だったわけではない。

 それでも下手に開発を進めると戦争の火種となりかねないため、ずっと放置されてきたという歴史的経緯がある。

 しかし、俺がハーフレイルを屈服させたから自由に開発することができるようになったのだ。


「命令して無理やり連れて行ってもいいんだが、王都に残って他の貴族に仕えたり、別の仕事に付きたいものもいるだろうからな。次の就職先は斡旋するが選択の自由を与えるという俺のやさしさだ」


 それでもほとんどの使用人はハイリーン平原に来ることになるはずだ。

 今の不安定な状況では貴族達も新しく人を雇う余裕はないだろう。


「しかし、使用人たちをハイリーン平原に連れて行ってゼロから開墾させるというのはいかがなものかと……多くは農業の経験が無いでしょうし、豊かな土地とはいえ十分な収穫が見込めるのは来年以降となります」


「そこもしっかり考えているよ」













 エーデルロンドに様々な仕事を任せて、俺は一足先にハイリーン平原にやってきた。


 戦争のときは膝丈ぐらいの草に覆われていたが、その大部分を魔力変換に使ったせいで今は土が剥き出しになっている。


 屈んで土質を確かめてみる。

 ドウル麦がよく育ちそうないい土だ。



 今回の戦争は俺の力によって被害を出さずに終わらせることができた。


 交渉が終わって兵たちの『支配』は解除した。

 両軍ともすぐに撤退を開始し、兵として集められた民はおとなしく家に帰ることになった。

 死ぬかもしれないと覚悟していた本人と家族は喜んだはずだ。


 しかしそれではなにも解決していなかった。


 今回の戦争の原因はハーフレイルの食糧難にある。

 そしてそれはアイルゴニストも無関係ではなかった。

 このまま行けばアイルゴニストもいずれ同じ状況になったはずだ。


「さて、うまくいくかな……」


 俺がやることは単純だ。

 食べる物を用意してやればいい。



『隔絶』



 魔法により、ハイリーン平原のほぼすべてを覆う空間を作り出す。

 外から入れず、中からは出られない。

 一応、人間がいないか魔力で探索を行ったが人間は一人もいなかった。


 この『隔絶』された空間にドウル麦の畑を作る。

 王都周辺で手に入るドウル麦の種を全て接収してきたので、この平原全体を畑にするのも可能だった。



『地裂』



 本来は攻撃に使われる『地裂』の魔法によって地面を掘り返して平原全体を耕す。

 大地はひび割れ、土が盛り上がって大きな柱が何本も立つ。

 魔法を発動するにあたって加減や調整が不必要で、何も考えずに魔法を連発していればいいので非常に楽だった。


 地面を耕しつつ、水源の確保も行う。



『激槍』



 魔力による槍を放って地面を円形に掘っていく。

 数発撃ったところで水脈に当たったのか水が吹き出してくる。

 もともと草原だった場所なのですこし掘れば水が出てくると思っていた。

 水が出なかった場合は遠くの川から水を持ってくることも覚悟していたので、魔力の節約になるので俺は素直に喜んだ。


 土地を耕し、水の確保も済んだ。

 次は種をまこう。



『浮遊』



 持ってきたドウル麦の種を全て浮かせる。

 浮遊させた種を平原全体に広げていく。

 近すぎると成長の邪魔になるし、遠すぎると土地が無駄になる。

 程よい間隔になったところで魔法を解除して種まきは終了した。

 水源から水を『浮遊』で運んで平原全体に擬似的な雨を降らせる。


 ここまでのことなら、やろうと思えばエーデルロンドでもできるだろう。

 魔力が保てば、だが。

『浮遊』で自分を浮かせて高いところから作業の成果を確認する。

 平原全体が見渡す限り農地となっていた。


「第一段階終了。ここからが正念場だな……」







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