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マジック・リヴァイヴ・ホロウネス  作者: 海森 樹
第一部 新たなる戦い
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1-6-8 決死(8)

『大樹』を選んだのは敵に四方を囲まれないように立体的な戦闘をするためだ。

 数の利を活かすには囲んで叩くのが定石だし、鈍い疑似魔族でもその程度のことはやってくるだろう。

 平面だけの戦闘だとすぐに逃げ場がなくなる。

『飛行』で空中に逃げてもいいが、ずっと繰り返していたら敵に読まれることもある。

 その場合、戦闘中の急な方向転換が間に合わなくて攻撃を受けることになる可能性も考えられた。

 

『大樹』で疑似魔族を拘束しつつ、幹や枝を足場にして立体的に戦う。

 これが俺の考えた、疑似魔族への対策だった。

 

 地上から飛び上がった疑似魔族は剣を振るって俺に切りつけてくる。

 俺は身体を傾けて交わし、『湾曲』で木の枝を鞭のように振るって疑似魔族を枝から落とす。

 空中で受け身を取れない状態にしてから枝で身体の自由を奪って吊るし上げた。

 

 思ったよりもこの戦い方は有効のようだった。

 疑似魔族は俺の『激槍』を食らっても死なないほどだから、木の枝で叩いたぐらいでは当然無傷だ。

 

「これから魔力による探知を始めるわ」

 

「わかった。なるべく気が付かれないようにな」

 

 ミアが魔力でドスレイの存在を探っている間、俺はなるべくドスレイの意識を引きつけておく必要がある。

 兵の中に潜んでいるはずだが、俺の近くにはいないようだ。

 

 疑似魔族の拘束を続ける。

 もうすでに数百本の木がそびえ立っていた。


 押し寄せる疑似魔族の相手は神経をかなり使う。

 防御魔法を張ってはいるが、気を抜くと倒されてしまう可能性があるからだ。

 疑似魔族の進軍スピードは遅かったが、やつらの身体能力が低いわけではなく、攻撃となると一般的な魔族と変わらないほど俊敏になる。

 

 剣で切りつけてきたり、槍で突いてきたり、あるいは矢を放ってきたりとその攻撃方法は様々だ。

 どの攻撃でも普通の人間だったら一撃で命を奪われるだろう。


 擬似魔族の攻撃を防御魔法で受けてしまったら一瞬で破られかねないので、地面を転がって回避したり、『大樹』で生成した木に飛び移って躱す。

 それでも避けきれないときは『大樹』の木の枝を『湾曲』で振るって叩きのめす。

 

 最初は絶命させないように気をつけていたが、地面にめり込ませるような勢いで木の枝を振るっても無傷なので途中から一切気にしなくなった。

 他の魔法を使わないのは手加減をしているためだが、それ以外にも理由があった。


『湾曲』で木の枝を操作して攻撃する方が、他の魔法を使うよりも魔力効率が良いのだ。

 たとえば『激槍』を放てば疑似魔族を吹き飛ばすことも可能だが、『湾曲』で攻撃するよりも数倍の魔力が必要になる。


 魔力が枯渇したら“世界接続”を使って補充するしかないが、魔族の攻撃を受けている中では隙が大きいため可能な限り温存したかったのでこういう戦い方になっていた。

 

 再び『大樹』を発動して疑似魔族を拘束する。

 戦いを続ける中で疑似魔族の耐久力や攻撃力が魔族並であることを俺は再確認した。


 ドスレイを見つけられなければ全員まとめて葬り去るしかない。

 ただの人間の軍でこの疑似魔族の軍に立ち向かうとなったら到底勝ち目がない。

 戦力的にも勝てないが、ただの人間だと疑似魔族に変えられてさらにその数を増やす可能性すらある。


 それは人間という種の絶滅に繋がることになるだろう。

 そうならないためにもミアが早くドスレイを見つけてくれるといいんだが。

 

「ミア、ドスレイは見つかったか?」

 

「おかしい……敵軍全体を魔力で探知したけど魔族らしい気配は感じられない」

 

「なに?」

 

「ドスレイなら魔力や気配が疑似魔族と異なるはずでしょ? でも、みんな同じ魔力量だし、気配も同じだわ」

 

「……抑えているのかもな」

 

「ドスレイが疑似魔族に偽装しているってこと?」

 

「ああ。これほどの疑似魔族を作り出すからにはドスレイの魔力量は相当多いはずだ。疑似魔族からは普通の人間より少し多いぐらいの魔力しか感じない。それなのにミアが見つけられないということは……」

 

 俺は会話をしながら周囲の疑似魔族の拘束を続ける。

 耐久力や速度は高いが、やはり動きが単調すぎる。

 あらかじめ敵を倒すようにという命令がされていて、直接的に疑似魔族を操作しているわけではないようだ。

 ということはやはり、ドスレイはここにはいないのだろうか?

 

「……この兵の中にドスレイはいないんじゃないかしら?」

 

「いる……はずだ」

 

「でも、根拠は師匠の予測だけでしょ? 今得られている手がかりからするとドスレイはこの兵の中にいないか、あるいはもっと遠くの安全なところにいるんじゃない?」

 

「……」

 

 確かにミアの言う通りだ。

 疑似魔族との戦いを続けながら必死に考える。

 ドスレイがされて一番嫌なことはなにか?


 疑似魔族の軍勢を俺に潰されてしまうことだ。

 そうされないためにはおそらく兵の中に混じって様子を伺っているしかない。


 直接的に命令を与えられていない状態の擬似魔族の攻撃は単調すぎて、俺を倒すには及ばない。

 その可能性は向こうも考えているはずだから、直接擬似魔族を指揮して対応してくるはずだ。


 しかし、俺はドスレイの能力を完全に理解しているわけではないのでこの推測は不確定な部分が多すぎる。

 ドスレイの能力が人間を疑似魔族に変えて支配することなのは間違いはないだろう。

 ただし、実際にどうやって人間を疑似魔族にしているのかは分かっていない。


 ある程度の距離が離れていても発動可能だろうと俺は考えているが、実際にどの程度の距離であれば疑似魔族化に成功するのかは定かじゃない。

 もしかしたら声が届く距離かもしれないし、あるいはお互いに相手を視認できる距離かもしれない。

 分からないことばかりだ。

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