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マジック・リヴァイヴ・ホロウネス  作者: 海森 樹
第一部 新たなる戦い
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1-6-4 決死(4)

 シュルネル伯爵の身柄を引き渡し、俺達は再びハイリーンの軍議室に戻ってきた。


「あの魔法を見てもらえば納得したと思う。今のミアなら十分魔族と戦えるだけの力がある」


「ええ、そうですね……あれだけの魔法を使えるのであれば勇者に匹敵する力を持つと言えるでしょう。ただ、アシュロン公爵軍にあの魔法を撃ち込んだ場合、死者数は百人を下らないと思うので手加減をしていただきたい」


「心配しないで。あれは最大威力だから。ドスレイに向かって撃ち込むときはもっと抑えることになる」


「ならいいのですが……」


「まさか、本当に二日であれほどの魔法を身につけるとは思っていませんでしたな。最悪軍で特攻を仕掛けるしかないかと案じておりました」


「まあ、これで当初の予定通りに作戦を遂行できるわけだな。ドスレイは間違いなく俺がアシュロン公爵軍を単身で食い止める思い込んでいるだろう。その油断を突いて上空からミアがドスレイを撃ち抜く」


「決行はいつになさいますか?」


「今からだと戦闘が長引いた場合、日が暮れる可能性があるから明日だな。明日の昼に仕掛けるとしよう」


「わかりました」


「承知いたしました」





 軍議室から出て、自室に戻ってきた俺は絨毯の上に座ると壁に向かって瞑想を始めた。


 ふだんはあまりやらないが、意識を一点に集中させると波立った自分の心を落ち着かせることができる。

 特に明日は非常に困難な戦いになるだろう。

 元々それほど得意ではない近接戦闘を擬似魔族に対して挑み、さらに相手を殺さずに無力化しないといけない。

 ただの魔族の軍勢と戦ったほうがよほど楽だろう。


 それでもやらなくてはいけない。

 俺がやらなくてはアイルゴニストは蹂躙され、世界中の人間が擬似魔族によって殺されるか、ドスレイに支配されることになる。

 これ以上、魔族によって苦しむ人が出ないためにも俺は戦わなければいけない。


 俺が瞑想を始めて数時間経ったころ、扉を開けて誰かがそっと部屋に入ってくる音がした。


「シアンか……?すまないが夕食ならいらない」


「私です」


 部屋に入ってきたのはシアンではなく、リーリアだった。

 俺は瞑想を中断して、振り返る。

 リーリアと会うのは実質2年ぶりだった。


 今の俺には以前のようなリーリアに対する嫌な気持ちはすでにない。

 時間が経つにつれてソフィーの異母妹としてのリーリアを俺の中で受け入れつつあった。

 もしソフィーが自分の異母妹に対して俺が冷たく接していると知ったらよく思うはずがないのだ。


 俺が間違っているなんていうことは最初から分かっていた。

 でも……それでも俺にとっては受け入れ難いことだったのだ。

 ソフィーは死に、全く同じ顔をしたリーリアが普通に暮らしている。


 完全に八つ当たりだった。

 そんな幼稚な振る舞いをしてしまうほどに、俺にとってはソフィーの存在が大きかったのだ。


 2年をかけて少しずつ、俺はリーリアと向き合うための心の整理をしてきた。

 ドスレイを倒したらちゃんと話そうと思っていたが、よく考えたらドスレイに支配されたアシュロン公爵軍と戦って生き残れるかどうかは分からない。

 タイミングとしては今が丁度いいのかもしれない。


「あー……何か用か?」


「いえ……数日お会い出来なかったので少しお顔を拝見しようと思いましたので……お邪魔でしたか?」


「いや、邪魔じゃない。ただ明日の戦いに向けて準備をしていただけだ」


「……」


「……」


 リーリアは俺の態度の変わり様を不思議に思っているようだ。

 つい数日前までは顔を見るのも嫌だという態度だった俺が普通に接するようになったら驚くのも無理はない。


「話をしよう。座ってくれ」


「ええ……」


 やはり変だろうか?

 リーリアは訝しげに思っているようだったが、俺が勧めた椅子に腰掛ける。

 俺もリーリアの正面に座る。


「あー……これまでは申し訳なかった。一国の姫に対して取る態度ではなかった。身勝手な話だが、もしよろしければ無礼な振る舞いを許していただきたい」


 俺はこれまでのリーリアに対する振る舞いについて謝罪をした。

 これまでの俺の態度は、間違いなく謝罪から入らねばいけないものだった。

 そうでなければ筋が通らない。


「ど、どうして謝られるのですか!?」


 謝罪の言葉を口にした俺に驚いたのか、リーリアはあたふたしている。


「俺の態度は間違っていたからだ。感情は別としても態度としては間違っている」


「……どうして?」


「ん?」


「……レイン様が私に冷たくしているのはわかってしました。どうしてあんなに冷たくしていたのですか?」


 リーリアはその理由を俺に口にするように迫った。

 それは俺が一番したくないことだった。


「……私情からだな」


「私情とは?」


「……」


 俺は黙り込んでいた。

 リーリアは俺が答えを口にするのを待っている。

 だが、ここまで来ても俺はそれを口にしたくなかった。

 自分の愚かさを、未熟さを晒す勇気が足りなかった。


「それを教えてくださらなければ許すも許さないも決められません」


 リーリアはきっぱりとそう言った。

 あまりにも非情だな、と思ったが、俺がやってきたことを考えればこの程度の屈辱は甘んじて受け入れなくてはいけないのだろう。


「……俺に婚約者がいた話は知っているか?」


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