1-5-13 修行(13)
ミアの修行はかなりいいところまで来ていた。
同時魔法発動数は十一まで増え、近接戦闘も様になってきている。
あとはドスレイを倒すために必要な魔法を習得するだけだろう。
「ミアの役目は遠距離からドスレイを見つけて倒すことだ」
「ええ、そうね……魔力による探知はかなりできるようになってきたからいけると思う」
「ミアの探知能力はかなり高い。現状でも十分だろう。となると次に習得しなければいけないのは遠距離からドスレイを撃ち抜く魔法だ」
「具体的にはどうしたらいいの?」
「複合魔法を考えよう」
「複合魔法を?」
「ああ。魔法使いは複合魔法を自分で考案したり、調節するものだ。既存の複合魔法もあるが、そういうものは自分に合わないこともある。なぜなら人によって同時魔法発動数が異なるから、他の人が開発した複合魔法を使うと発動できなかったり、あるいは威力が低かったりする」
「確かに自分で考えたほうが良さそうね。でも、どういう魔法がいいの?」
「まずは発動する状況から考えよう。俺が陽動として擬似魔族の軍勢を食い止めてる。ミアが上空からドスレイを魔法で倒す。そうなるとミアは上空にいることになるな? このときにどんな魔法を発動している?」
「『浮遊』と『魔防』と『剛壁』って感じ?」
「その三つは必須だな。あとは『飛行』も発動しておいたほうがいい」
「どうして?移動しないで空中に留まるだけなら『飛行』は必要ないんじゃない?」
「ああ、確かに空中に留まるだけなら必要ない。だが、防御魔法で防ぎきれないような攻撃が来た場合には回避する必要があるだろう?そういうときのために『飛行』は発動しておいたほうがいい。『浮遊』で回避するという方法もあるが、『浮遊』での移動は遅いので戦闘中の回避として使うのはやめたほうがいい」
「なるほど……ということは『浮遊』『飛行』『魔防』『剛壁』ね?」
「そうだな。魔族の攻撃は防御魔法が三つぐらいないと防げないが多いが、今回は直接ドスレイに攻撃されないという前提で行く。危ないと思ったら防御魔法を増やすようにしてくれ」
「わかったわ」
「というわけで空中にいるミアは魔法発動枠を常に4つ使っているわけだ。ミアの今の同時魔法発動数は十一だから七つの魔法を組み合わせた魔法を考えよう」
「七つも!?」
「ああ。通常はこんなに多くの魔法を組み合わせた複合魔法を戦闘中に発動することはない。特に近接戦闘時には早く発動できることのほうが重要だから、基本魔法を七つ放ったほうが良い場合も多い。そこは臨機応変にっていう感じだな。今回のミアは敵の攻撃に晒されていないはずだから落ち着いて魔法を発動できる状況にあると仮定する。七つの魔法を組み合わせた最大威力の複合魔法で攻撃することにしよう」
「わかった……どんな魔法を組み合わせればいいの?」
「ミアのイメージ次第だな……空から攻撃するとしてどんな魔法を放ちたい?」
「うーん、ドスレイは疑似魔族の中に隠れているのよね? そう考えると広範囲に効果が及ぶ魔法じゃない方がいいわ。ドスレイだけを撃ち抜ける魔法じゃないと周りの人が死んでしまう」
「そうか……そうなると『放出』の魔法をメインにして組み立てるのがいいかもな」
「『放出』って魔力を相手にぶつけて攻撃する魔法よね?」
「攻撃魔法っていうわけでもないが、攻撃にも使える。『放出』は基本魔法だが弱くはないしな。試しに発動してみろ」
ミアは手を前に出して木に向かって『放出』を放つ。
真っ白な球が木に直撃すると木の表面を抉った。
「すごい……威力が今までと全然違う……」
「修行の成果は出ているようだな。しかし、この程度じゃ魔族を一撃で倒すのはむずかしい」
「どうしたらいいの?」
「『放出』で撃ち抜くというのを中心に据えて、『放出』の魔法を他の魔法で強化してやるんだ」
「強化? 『加速』とか?」
「そうだな。『放出』に『加速』を6個かけてみるとかでもいいな。試してみろ」
ミアは再び手を前に出して構える。
魔力を練って『放出』を発動する。
白い魔力の塊に『加速』を六個かけると目にも留まらぬ速さで木に向かって射出される。
今度はさっきと違って大きな音を立てて木が真っ二つに折れた。
大人が両手を広げた幅よりも太い大木を倒すほどだから、威力はかなりのものだがそれでも十分とは言えない。
「威力は上がったが、まだ足りないな……『加速』だけじゃないほうがいいかもしれない。『加速』を三つにして『圧縮』を三つかけてみろ」
「なんで?」
「『加速』によって『放出』の速度と威力が上がっているが、『加速』は直接的に威力を高める魔法じゃない。『圧縮』によって魔力の塊に圧力をかけて当たった瞬間に解除して威力を底上げするんだ」
「当たったら爆発させる感じ?」
「そうだ。やってみろ」




