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マジック・リヴァイヴ・ホロウネス  作者: 海森 樹
第一部 新たなる戦い
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1-5-10 修行(10)

 修行の意味に辿り着いたので、ミアにかけていた『麻痺』などの魔法は解除した。

 しかし、解除されてからが大変だった。

 一年以上の間、ミアの体は全く動かされていなかったのだ。

 筋肉が衰えていたせいで、全身が筋肉痛になって泣いていた。


「ゔゔうゔぅぅぅ!!!!」


 という動物のような唸り声をあげたり、


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い」


 と、うずくまりながら延々と言っていて非常に薄気味悪かった。

 しかし、ミアがそれだけ痛がるのも当然だった。


 身体を動かしていなかっただけではなく、『浮遊』で身体にかかる重力すら軽減していた。

 ただ立っているだけでかなりの負荷が身体にかかっているのだ。


「うう……師匠……たすけて……」


「しかしな……」


「おねがいします~!!」


 生意気な態度を取ることが多いミアが珍しく俺にすがりついて懇願する。

 涙目で必死に痛みを耐えている姿を見て流石に可哀想になる。


 俺も鬼ではないので『快癒』で痛みを軽減してやった。

 それでも筋肉痛を完全に治してしまったら意味がないので、ある程度は痛みには耐えてもらうしかない。


「効いたか?」


「だいぶマシになったけど、まだ全然痛いんですけど!?」


「今のうちに痛いのを我慢しないと永遠に痛いままだぞ?」


「もうむり!! なんでこんなに痛いの!!」


「一切身体を使っていなかったからな……」


「一年以上も寝たきり状態だったのは師匠のせいでしょ! 身体を揉んでよ!!」


 そう叫んでミアがベッドの上で横になって俺に催促する。

 そのベッドはミアの修行が終わるのを待つ間、暇だった俺が戯れで作ったものだった。


「いや、関節をほぐしてやっていたのは身体が動かなかったからで……流石に嫁入り前の娘が自分から男に身体を触らせるのはどうかと思うぞ?」


 うつ伏せになっていたミアは上半身を起こして顔をこちらに向けた。

 その顔には嘲笑と哀れみがはっきり浮かんでいた。


「ふーん? もしかして師匠って女性経験がないの〜?」


 ミアはベッドの上で伸びやかな足を曲げたり伸ばしたりして俺に見せつける。

 背が低い割に足は長いんだな、と俺は思った。


「ああ。俺は結婚経験がないからな。女性経験がないのも当然だろう」


「え? あ〜師匠は南部の出身なんだっけ?」


「……まあ、そうだな」


 リクリエト村があった辺りはアイルゴニストでは南部に分類される地域だ。

 そういえばミアは北部の出身だったか。


「ふーん。南部の人は信仰に厚いっていう話は聞いていたけど、本当なんだ。師匠はまだ若いのにおじいちゃんみたいなこと言うんだね」


「……」


「おじいちゃんってなんだよ」


「え~言ってることはおじいちゃんみたいだけど」


 俺とミアは年齢的には2つしか違わないのにおじいちゃんはないだろう。

 だが、考え方が古臭いと言われると反論できない。


 リクリエト村の人たちはみんな神様の教えを守って暮らしていたし、都会とは違って新しい考え方はなかなか入ってこない環境だった。

 そういう意味では、俺の考え方がおじいちゃんみたいというミアの感想はおそらく正しい。


 リクリエト村に住んでいたときは気がつかなかったが、勇者になって各地を回って旅しているときに自分の考え方はかなり古臭くて保守的ということに気がつかされた。


 リクリエト村では結婚前の娘が男に身体を触らせたら大きな問題になったはずだ。

 俺自身の信仰はソフィーが死んだときに捨てたが、根底に染みついて抜け切っていないのだろう。


「……ミアは経験豊富なんだな」


「け、経験!? もちろんあるわよ!! ベテランよ!!」


 目が泳いでいて明らかに嘘っぽい。


「そういえばミアの両親はアシュロン公爵のお抱え魔法使いだったんだよな?」


「そ、そうだけど……?」


「ということは裕福な家でお嬢様として育てられたんじゃないか?」


「ま、まあ使用人とかは結構いたけど……」


「なるほどな」


「え? なんでそんなこと聞くの?」


「いや、良いところのお嬢様なのに経験豊富のベテランなのか、と思ってな」


「そ、そうよ!? わるい!?」


「いや、べつに」


 魔法使いは貴族ほどではないが、他の平民と比べたら圧倒的に収入が多い。

 能力次第だが、同時魔法発動数一の魔法使いであっても平民の五倍は収入があるだろう。

 魔法が使える者は希少だし、非常に需要が多い。


 特に貴族にとってはどれだけ魔法使いを抱えているかによって自軍の強さが如実に変わってくる。

 公爵家のような上位貴族は優秀な魔法使いを好待遇で迎え入れていた。


 アイルゴニストを含めた貴族制を採用している国では魔法使いは貴族になれないと決まっている場合が多い。

 過去には貴族本人が圧倒的な財力と武力を持つことでたびたび内乱が起こった。

 そういう歴史から学んだのだ。


 だから、基本的に貴族の家に魔法使いは生まれず、才能のある平民を雇うことになる。


 正確には貴族の家にも魔法の才能を持ったものが生まれるが、生まれたとしてもそのことは隠される。

 通常、鍛錬を積まなければ魔法を使えるようにならないので、才能を伸ばすようなことをせずに放っておけば特に問題はない。


 ただ、隠しきれないほどの才能を持って生まれた場合には、厄介払いされて教団に預けられるようなことも稀にあった。


「黙り込んでどうしたの? 私の身体に見惚れちゃった? ほら、師匠なら特別に私の身体に触ってもいいわよ?」


 ミアが再び足を開いたり閉じたりして俺を誘う。

 顔には嘲笑が浮かんだままだが、足が震えているのが見えた。

 怖いなら挑発しなければいいものを。


 あの足の震え方は痛みから来るものではないだろう。

 やはり経験がないのかもしれない。

 これはお仕置きが必要だな。


「ふぅ……」


 俺もベッドに上がってミアの横に腰掛ける。

 ミアの太ももに手をやって揉み解す。


「ちょ、ちょっと何してんの!?」

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